雇用・被雇用関係と他の社会関係

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雇用・被雇用関係は(イ)(ロ)(ハ)各層の農家と、(ハ)(ニ)(ホ)層の家々との関係としてあらわれているが、このうち旧在村地主自作農と旧小作農であったものとの関係をみることにしよう。改革前に貸付地を所有していた一五戸のうち、人を雇用する農家は一四戸あるが、なかでも誰を雇うかがはっきりとわかっている場合の八事例についてみると、旧小作人を雇用するものが三事例もある。うち一戸は、旧小作地をただ一軒にしか貸付けていなかったが、その一軒を雇用していた。いま一戸は、その小作人であった旧小作農六軒のうちの二軒の人を雇用している。このような事例を参考にして、前述したこと、すなわち雇用関係においてただ一軒のみを雇うものが雇用関係全体の約三三%あり、まだ被雇用関係においてただ一戸にのみ雇われる農家が、被雇用関係全体の約三八%もあることを考えると、雇用農家と被雇用農家との間に、過去の旧地主・小作関係という要因が働いていることを否定することはできない。
 本家・分家という家の系譜関係は、農村においてなお意味をもつ関係であるが、これと雇用関係とはどのような関連があるだろうか。七つの事例があるが、そのうちの一事例は孫分家を雇用し、三事例は分家が本家を雇用する。二事例は三代前の分家を雇うが、しかしそれは多くの被雇用者のうちの一軒である。残る一事例は本分家関係と雇用関係とが重なっていた。また姻戚関係についてみると、四四事例中三事例が雇用関係と重なっていた。したがって雇用関係の要因として、本分家関係や姻戚関係が伏在することを全面的に否定することはできないが、一般的には関連がないといってよい。