ところで、最近は農業技術の進歩がいちじるしく、きゅうりやなす・トマトなど冬でも食卓にのぼるようになったが、本来農業生産は四季に順応してきたのであって、生活は季節の変化とともに展開してきた。したがってむらの生産と生活には春夏秋冬のリズムがあった。それは次の長谷むらの年中行事に見ることができる。それぞれの行事がどのような社会組織や関係でおこなわれるかは、すでにみてきたところである。
一月一日 修正会。午前四時にむらの有志が普光寺に集まりお経をあげる。元旦祭。むら氏神の境内でオトウ番は篝火(かがりび)をたく。
一月二日 むらの人々が普光寺に参る。
一月三日 普光寺の住職がシャモジをもって各家を訪れる。各家では血縁者が集まる。
一月十四日 トンド。むらの各区ごとにおこなう。餅を焼き小豆粥(あずきがゆ)に入れてたべる。
一月十五日 小豆粥をつくり、柿の木のまたに供え、餅を家の神棚に供える。
一月十八日 普光寺で本尊供がおこなわれる。むらの有志や観音講の人が集まる。
一月二十四日 このころ、むらの初寄合い。午前八時にむらの公民館に集まり、区長が年頭のあいさつをすませた後、十二月三十日から代参して帰った伊勢講・愛宕講のそれぞれ二名があいさつする。その後、前年に家を建てた人は一万円を祝儀としてむらにだす。また犬猫調べをおこない、犬の飼育者は五〇円、猫の場合は三〇円をことわり料としてだすことになっていたが、昭和四十九年からやめた。どこかの家に養子があれば紹介する。前年中に出生した子どもがあれば、男子の場合米三升三合、女子の場合は二升四合を氏神に献じ、出生児の名を記帳する。つぎに部落協議費と農会の会計の決算および予算の審議ならびに事業報告をする。役員の改選をするが、区長は二年、他の役員は一年交替である。終わって祝宴。
二月四日 荒神祓(ばらい)をする。節分会。
二月六日 伊勢講を公民館で開く。
二月十一日 普光寺で大般若祈祷がおこなわれ、むらの人々がこぞって参る。
三月十一日 むら氏神の春祭り。氏子総代・役員・オトウ番が集まり、豊作祈願をする。
三月初午の日 長谷妙見で初午祭りをおこない、そのあと妙清講を開く。
三月二十一日 彼岸会。主としておばあさんたちが寺へ参る。道普請。各戸よりひとりずつ出役し、道路委員の指揮によって区単位でおこなう。一人当り二〇〇円を部落よりだす。ただし出役しない場合は一五〇〇円をむらへだす。仕事が終わってともに飲食する
四月二十一日 お大師さん。むらの有志が集まり、握り飯を持ってきて接待する。寺の本堂でおばあさんが集まり観音講を開く。
五月八日 花祭り。青年団が主となり釈迦降誕会をする。甘茶をふるまい、子ども会を開く。
六月中 溝さらえ。溝がかり集団単位での田植水の引水。田植え後のむらさなぶり。除草剤の配布および散布。
七月二十五日 普光寺で大般若祈祷。檀徒総代とむら役員五人が参加する。
八月七日 七夕(たなばた)。公民館で青年団が主催しておこなう。墓講を開く。墓同行の人々が集まり、墓掃除をし、午後は飲食して親睦をはかる。
八月十四日 棚経。寺の住職がむらの各家をまわり、その先祖の供養をする。
八月十五日 中元のあいさつに各家が寺へいく。
八月十六日 各家が送り火をたく。
八月二十日 普光寺に、他の寺の僧にも来てもらい村全体で施餓鬼をする。
九月七日 行者講を聞く。
九月八日 長谷妙見で八朔大祭をおこない、妙清講を開く。
九月十日 植林したところで山仕事をするが、現在は婦人会がおこなう。
九月十八日 普光寺で本尊供がおこなわれる。一月十八日に同じ。
九月二十三日 彼岸会。道普請。
十月九日 栗節句。小畑池や大池の雑魚とりをする。
十月十六・十七・十八日 むら氏神の秋祭り。オトウ行事。太鼓の宮人り。一生に一度のことであるが、小学校六年生の男子四人が赤い長襦袢(じゅばん)・鉢巻・襷(たすき)姿で地下袋をはき、太鼓をたたいてむらじゅうをまわり、途中世話役の家でふるまいをうける。太鼓は夜、宮入りをする。
十一月最初の亥の日 亥の子祭り。豊作感謝の行事と思っている。小学校三年生から中学一年生前後の子どもたちが、いのこづち(藁(わら)をたばねたもの)をふりながら夜各家をまわる。
十二月十日 むら寄合い。運上がけ(といっている)の相談をする。
十二月二十五日 すべての支払いをすます。最近は子どもを集めクリスマス会をする。
十二月三十日 伊勢講・愛宕講の代参者が出発する。
十二月三十一日 越年会をおこなう。
なおこのほかに月一回程度のむらの寄合い、あるいは役員会や婦人会・農会などの会合がある。
むらの人々の生活は、生産活動と休息、豊作と家内安全を祈り感謝する行事、子ども・青年・家長・老人それぞれの信仰にむすびついた集団的親睦と娯楽が交互に展開する生活であり、それらが、それぞれにふさわしい社会関係や社会集団によって人間味豊かに、四季のリズムにのって展開しているのである。