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◎文久元年五月分 下原口御番所口役銀取立帳

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 下原口御番所における、文久元年(一八六一)五月分の「口役銀取立帳」である。別記嘉永三年の「下原口口役銀取立帳」は冬期で、この取立帳は夏のものである。季節によって商荷物の種類及び量、特に白木においてかなり大きな違いがみられるが、まずこの取立帳に記載されている品目を列記し、そのあと二冊の取立帳を比べて、その主な違いについて考察してみる。
 
  文久元年五月分 下原口御番所口役銀取立の品目
 
    五月朔日
中厨子(ちゅうずし・小型の仏壇か)2・小間物(こまもの)5・諸紙(しょし)・古手(ふるて・古着)2・
木綿(もめん)3・木綿縞(もめんじま)2・海羅(ふのり)2・帷子(かたびら)・上唐櫃(じょうからびつ)
    同 二日
木綿
    同 三日
茶碗(ちゃわん)・売薬(ばいやく)・中厨子・黄綿(きわた)・小間物・木綿・干蒟蒻(ほしこんにゃく)・
薯蕷(じねんじょ・山の芋)
    同 四日
木綿・木綿縞・小間物・海羅(ふのり)・帷子(かたびら)・砂糖(さとう)
    同 五日
木綿・上唐櫃
    同 六日
小間物・薯蕷
    同 七日
小間物
    同 八日
縒(より・糸をより合わせたもの、ひも)
    同 九日
茶碗・大根種・古手・木綿・木綿縞・小間物・砂糖・果子(かし・菓子)
    同 十日
果子・糸枠(いとわく)・麻苧(あさお)
    同十一日
瀬戸片口(せとかたくち)・天目(てんもく・湯飲み茶碗)・甲鉢(かぶとばち)・絹篩(きぬふるい)・
馬の尾篩(うまのおふるい)・竹篩(たけふるい)・茶碗・古手・木綿・木綿縞・小間物・海羅・帷子・諸紙
    同十二日
小間物・茶碗・縒・茶碗
    同十三日
果子2・薯蕷(じねんじょ・自然薯・山芋)
    同十四日
小梨子(こなし)
    同十五日
若和布(わかめ)・蕨粉(わらびこ)2・小間物2・木綿2・木綿縞2・海羅(ふのり)・筆(ふで)・墨(すみ)・帷子2・
大根種・果子
    同十六日
蚕種(かいこだね)
    同十七日
小梨子・上膳2・売薬
    同十八日
小なし・蚕種・鰹節(かつおぶし)・茶碗2・大根種・果子・諸紙・古手・小間物
    同十九日
縒・蚕種・山の芋・古手・酒・小間物2・中厨子・木綿・木綿縞・帷子
    同 廿日
蚕種・小なし・小間物2・米
    同廿一日
古手・小間物2・茶碗・薯蕷(じねんじょ)・手習筆(てならいふで)・絹篩・馬の毛篩(けふるい)・
竹篩(たけふるい)
    同廿二日
茶碗・素麺(そうめん)・諸紙・古手
    同廿三日
灰汁灰(あくはい)
    同廿四日
中厨子3・小間物3・小梨子・瀬戸片口2・天目2・甲鉢・山の芋・貫綿(ぬきわた・古綿)・茄子(なす)・木綿・
木綿縞・ふのり・手習筆・帷子(かたびら)・甲鉢・茶碗
    同廿五日
茶碗2・酒・木綿2・木綿縞2・小間物2・ふのり・帷子2・瀬戸片口・天目・甲鉢・菓子・燈油(ともしあぶら)・酢(す)
    同廿六日
瀬戸片口・天目・甲鉢・小間物・合羽・中茶・絹篩・馬の尾篩(ふるい)
    同廿七日
縒(より)・果子・縁取(ふちどり・縁取莚)・畳表(たたみおもて)・茶碗・古手2・砂糖・木綿・木綿縞・
小間物3・帷子
    同廿八日
酒2・米・蛹(さなぎ・繭)・木綿・木綿縞・小間物2・海羅・帷子・溜(たまり)
    同廿九日
蝋燭(ろうそく)・小間物2・山の芋・生姜・あらめ2・瀬戸片口・天目・甲鉢・菓子・木綿・木綿縞・帷子・諸紙
    同 晦日
瀬戸片口・天目・甲鉢・売薬・□□□・ふのり2・茶碗・干ぜんまい(ほしぜんまい)・若和布(わかめ)・
中厨子2・諸紙2・傘・中茶・古手・中厨子・ふのり2・米2・木綿・木綿縞・小間物・手習筆・
帷子(かたびら)・鉛
 
 
5-2-(2)-1 下原口御番所口役銀取立帳品目一覧表 文久元年(1861)5月分
 下原口を通って飛騨へ運ばれたと考えられるもの (一)食品
 品 目記帳件数数量合口役銀合主な荷主名・出身地名等
1砂糖3228斤(きん)40匁6分7厘久々野村3人
2菓子10105貫(かんめ)30匁4分6厘久々野村兵助・同清蔵・渚村藤吉・引下村重郎次各20貫ほか
3410石3斗20匁4分6厘下原町村・中切村ほか
4素麺(そうめん)18貫2匁3分6厘見座村次作1人
545斗5升4匁9分  久々野村利平次4斗。ほか3名不明
6溜り(たまり)14斗2匁8分4厘久々野村彦三郎1人
7酢(す)15升4分5厘久々野村新六1人
8中茶(ちゅうちゃ)2123斤8匁7分 厘柳島村平右エ門115斤ほか
9あらめ372.5貫3匁6分8厘見座・黒川・久々野村各1人
10わかめ114貫7分6厘名古屋1人
11鰹節(かつおぶし)170本1匁2分6厘尾州びわじま1人
12小梨子(こなし)59,000こ6匁4分8厘川辺4,250・名古屋4,000ほか
13生姜(しょうが)11斗4分7厘尾州1人
14茄子(なす)1500こ9分  名古屋1人
15大根種(だいこんだね)43斗27匁5分4厘渚村音吉・引下村市郎次各4斗。ほか越中2人
備考○砂糖の移入量が大きい。荷主は久々野村となっているが、下原口を通って飛騨へ搬入された品物はほとんど白木を美濃上有知へ運んだ久々野村を中心とする馬方が帰り荷として運んだものと考えられる。

 同上 (二)衣料
 品 目記帳件数数量合口役銀合主な荷主名・出身地名等
1古手(ふるて)12444枚と5ッ139匁3分8厘引下村伝右エ門114枚・久々野村利平次38枚×2。ほか
2木綿(もめん)20417反91匁9分  柳島村長三郎66反・久々野村利平次52反。ほか久々野村9人・
小坊・渚村・高山町・名古屋など
3木綿縞(もめんじま)16310反55匁5分3厘柳島村長三郎30反・久々野村利平次24反。ほか久々野村9人・
小坊村・渚村
4帷子(かたびら)14207枚55匁   2厘柳島村長三郎21枚・久々野村利平次18枚。ほか久々野村8人・
小坊・渚村
5麻苧(あさお)120貫22匁4分8厘引下村作右エ門1人
6黄綿(きわた)22.5貫1分5厘高山町2人
備考○古手=古着。江戸時代は古手商いが盛んであった。飛騨の衣料は麻が中心で、木綿の栽培は高冷地には適さなかったので、値段が高く、古手や古綿の商いを生業とする人々が多かった。

 同上 (三)小間物・雑貨・その他
 品 目記帳件数数量合口役銀合主な荷主名・出身地名等
1小間物35195.7貫119匁4分4厘久々野村14人・高山町7人(空町・新町・向町)など。
ほかに名古屋・関・山名
2上膳(じょうぜん)3498枚74匁7分  久々野村清蔵468枚ほか
3中厨子(ちゅうずし)88ッ48匁   高山町5人(八幡町・新町)・久々野村2人・柳島村1人
4上唐櫃(じょうからびつ)23ッ3匁6分  久々野村利平次2ッ・高山新町良右エ門1ッ
5諸紙(しょし)830.3貫12匁8分9厘引下村市次郎15貫・久々野村清蔵6貫。ほか久々野・小坊・見座・高山
64350対6匁3分  柳島村長三郎ほか久々野村3人
7160挺7分8厘柳島村長三郎1人
8燈油(ともしあぶら)13斗8匁  1厘久々野村長四郎1人
9蝋燭(ろうそく)12.7貫3匁5分8厘京都の3人1組
10茶碗12480こ12匁   越中7人・尾州4人・小坊村1人
11天目(てんもく)71,400こ18匁2分  下原町村助四郎200×2。ほか久々野・中切・小坊村
12瀬戸片口(せとかたくち)7210こ5匁6分7厘下原町村助四郎30×2。ほか久々野・中切・小坊村
13甲鉢(かぶとばち)7140こ8匁7分  下原町村助四郎20×2。ほか久々野・中切・小坊村
14海羅(ふのり)1080貫30匁7分6厘柳島村2人各12貫。ほか久々野村5人・小坊村2人・越中1人
15縒(より)4720筋31匁6分7厘尾張びわじまのほか三河・美濃の人々
16畳表(たたみおもて)180枚5匁6分8厘無数河村長四郎1人
17傘(からかさ)15本7分8厘久々野村兵助1人
18合羽(かっぱ)180枚5匁6分8厘越中高岡
19絹篩(きぬふるい)15ッ4分5厘尾張清須1人
20馬の尾篩(うまのおふるい)1106分2厘尾張清須1人
21竹篩(たけふるい)1154分1厘尾張清須1人
備考○天目は茶の湯で用いる天目茶碗ではなく、湯飲み茶碗のことである。数量も多く、口役銀も安い。
○縒が何に使われたか不明。

 売薬ほか、移入・移出の区別がつかないもの
 品 目記帳件数数量合口役銀合主な荷主名・出身地名等
1売薬(ばいやく)31.2貫9分4厘越中富山1人・名古屋2人
2蚕種(かいこだね)419枚1匁9分2厘濃州神淵ほか
3蛹(さなぎ)13斗1匁5分  国名不明1人
4糸枠(いとわく)1251匁   引下村長三郎1人
備考○蛹=まゆ。まゆは重さのほか、枡で計る場合もあった。
○蚕種の産地はよくわからない。この時代、高山でも蚕種は生産されていた。

 飛騨から下原口を通って美濃方面へ売り出されたと考えられるもの
 品 目記帳件数数量合口役銀合主な荷主名・出身地名等
1蕨粉(わらびこ)22石4斗9匁5分  小瀬が洞村・西洞村各1人
2薯蕷(じねんじょ)742貫13匁4分2厘下原町村勘助15貫・同村半兵衛15貫。名古屋3人・尾州2人
3干ぜんまい(ほしぜんまい)15貫7分5厘名古屋商人1人
4灰汁灰(あくはい)15斗4升7分  久々野村為七1人
5鉛(なまり)180貫16匁   一之宿村清左エ門1人
備考○鉛の荷主一之宿村清左エ門は広く鉱山・白木等の事業を手がける。運搬は馬方等に任せている。
○灰汁灰はアクを取る灰。国外から灰を買い入れるとは考えられないので、一応移出品とみた。

 枠外に記載されている無役荷物(白木)
 品目(長さ)数量願人備考
1唐桧(しらびそ)
葺榑(ふきくれ)長さ1尺5寸
109束一之宿村
清左衛門
葺榑は白木類のうち
2同 葺榑長さ4尺3寸31束同人送り先は不明
3同 葺榑長さ3尺2寸51束同人 
4同 葺榑長さ3尺8寸149束同人 
5同 葺榑長さ1尺7寸57束同人 
6同 葺榑長さ4尺3寸49束同人 
7栃椀木地(とちわんきじ)85箇(か)古川町方
和助
この椀木地は紀州黒江へ送られた
備考○一之宿村清左衛門は前出。 ○願人は白木稼ぎを願い出た者の意。稼ぎ人。
○白木・椀木地稼ぎは事前に御役所の許可を得、運上金を納めている。
○椀木地は102貝で1箇。85箇は8,160貝となる。