5-2-(21)-1 寛政12年 荒田口 諸口役銀取立目当帳
現存する「荒田口口役銀取立目当帳」は、最初寛政十二年(一八〇〇)四月に、中山口・荒田口・小豆沢口(いずれも越中国境近くに設けられている)の口留番所役人三人が一カ所に集まって会談し、それまでの「目当帳」を見直して作成したものである。
そのことはこの「目当帳」の終わりの部分に手短な文によって記録されているのであるが、その中には、例えば、今後この壁書に載っていない品物が通った場合には、前記三つの口番所役人が話し合って口役銀の額を定める、といった内容も記されている。
そのことは、金森藩時代にはどの口留番所の壁書も最初はほぼ同じ規定が示されていたが、時代とともにその地域、その口留番所の実状に合う壁書(口役銀取立目当帳)が作成されていったことを意味している。
さらにこの「荒田口諸口役銀取立目当帳」には、寛政十二年の申し合わせに続いて、文化八年(一八一一)九月に荒田口口留番所役人が認めた短い一文が載っている。
そこには、やはり小豆沢口・中山口・荒田口番所役人の申し合わせ事項として、いろは順にまとめた目当帳の項目(い なら い、は ならば は)のあとにそれぞれ白紙の部分を設けておき、何か新しい品物が出入りするようになった場合には、協議のうえ新しい口役銀の額を定め、それをその白紙の部分に書き込んでいくと記されている。
そしてさらに、もし紙面が不足するような場合には下札(さげふだ)や張紙をして、できるだけ詳細を期するように努めるとも書いている。
事実、この文化八年に作成された目当帳は天保六年(一八三五)まで使用されていた形跡があり、書き込みや下札・張紙が非常に多く、品物の大小、産地、行先まで細かく記されている部分も少なくない。
例えば、富山の売薬で有名な反魂丹(はんごんたん)については、
一 反魂丹 壱駄
薬箱 壱つ 壱匁五分
売薬 五貫三百目 四匁弐分四厘
〆 五匁七分四厘
一 同 壱荷
但 大壱つ・中弐つ・小三つ
薬箱 壱つ 壱匁五分
売薬 壱貫六百目 壱匁弐分八厘
〆 弐匁七分八厘
一 同 壱肩
薬箱 壱つ 壱匁五分
売薬 壱貫目 八分
〆 弐匁三分
一 売薬師壱人分
壱薬 三百目 弐分四厘
是れハ、他国へ通り候分。国内ニて売捌(さば)き候分は見分の上、[ ]。
是れハ、柳籠裏又ハ風呂敷包少々の分
のように非常に細かく規定されていて、こうした事項は決して少なくない。
それだけ、物品の出入りが頻繁になり複雑化して、流通量も増加したことを意味していると同時に、それにともなう口番所における口役銀取立の方法の変化、すなわち細分化・合理化が進められていったことを意味している。
しかし、ここでは紙面の関係上その詳細を記述することはできないので、ひとまず、目当帳に記帳されている品目名を列記し、流通物資の多様化や流通量の増加、及び口役銀の変化等については、「口役銀取立帳」・「口役銀寄帳」の項で触れる。
なお、この「諸口役銀取立目当帳」はかなり傷んでいて表紙の文字も読み取れないが、帳の終わりに記されている添書(そえがき)によって「寛政十二年七月」に作成された「荒田口口留番所」の「諸口役銀取立目当帳」であると判断した。
い
鰯(いわし)・いなだ(鰤の若魚・出世魚)・石首魚・芋種(いもだね)・硫黄(いおう)・入煙草(いりたばこ)・
石灰(いしばい)・石灰石(いしばいいし)
は
反魂丹(はんごんたん)・箸(はし)・はりばこ・はちめ・ばい・花種(田方肥(こや)しニ用ひ候)・
針線(はりがね)・箸木
に
にがり・にしん
ほ
干蒟蒻(ほしこんにゃく)・反故(ほご・紙屑)・干蕨(ほしわらび)・干ぢこう(ほしぢこう)・
干しめ治(ほししめじ)・ほしか(干鰯)
へ
縁取(へっとり)・片鰤(へんぶり・小鰤)・枇目(へぎめ・へぎ板)
と
燈油(ともしあぶら)・木賊(とくさ・みがき草)・荏油(ともしあぶら・燈油)・鳥取黐(とりとりもち)・
冬瓜(とうがん)・燈心(とうしん)・閉椛(とじかば・不明)・燈椛(ともしかば・椛(かば)=樺(かば)
燈火に用いる樺(かば)の皮)・燈竹(ともしだけ)・唐子戸棚(とうすとだな)・戸障子(としょうじ)・
心太草(ところてんぐさ)
ち
茶釜(ちゃがま)・丁子□(不明)
り
琉球(りゅうきゅう・琉球表(おもて) 上等の畳表)
ぬ
糠海老(ぬかえび・小形の海老)・塗折敷(ぬりおしき)・抜手綿(ぬきてわた・古綿)
を
大鰈(おおかれい)・大鯖(おおさば)・大鱪(おおしいら・大鱰)・大絸(おおまゆ・大繭)・大麦(おおむぎ)・
桶輪竹(おけわだけ)
わ
割干鰯(わりぼしいわし)・割干藻魚(わりぼしもうお・藻魚は海藻が茂る海岸に住む魚。メバル・ハタ・
ベラ・カサゴなどの雑魚)・蕨の花(わらびのはな・蕨粉(わらびこ))・椀木地(わんきじ)・
蕨粕(わらびかす・切干し蕨(きりぼしわらび))・山葵(わさび)・蕨縄(わらびなわ)・
若和布(わかわふ・和布は①やわらかい布。②わかめ)・草鞋(わらじ)
か
干鮭(かんざけ)・鰹魚(かつお)・鰹節(かつおぶし)・数の子(かずのこ)・蒲鉾(かまぼこ)・□・
皮緒(かわお・皮のひも)・唐粉(からこ・穀粉(からこ)。小麦の皮の粉)・皮(かわ・主に馬・牛の皮)・
合羽(かっぱ)・皮栗(かわぐり)・搗栗(かちぐり)・傘(からかさ)・
唐金まがい火鉢(からがねまがいひばち・唐金は青銅(せいどう))・唐津焼(からつやき)・
下品焼物(かひんやきもの・茶碗・染付皿・小徳利などで、質のよくない焼物)・笠緒(かさお)・
柿紙(かきがみ・柿渋(かきしぶ)を塗って干した紙。渋紙(しぶがみ))・鏡磨(かがみみがき)・蛎(かき)・
堅炭(かたずみ)・帷子(かたびら・麻・木綿・絹の単衣(ひとえ)物)
よ
万なし物(よろずなしもの)(なし物は魚の塩辛(しおから)のこと。昔は樽(たる)で運んだ)・よし簾(すだれ)
た
田作(たつくり・ごまめ。カタクチイワシを干したもの)・鱈(たら)・立真鱈(たちまだら・不明)・蛸(たこ)・
玉子(たまご)・たんころ(美濃・飛騨の方言。神仏に供える燈明皿)・溜(たまり)・畳表(たたみおもて)・
大豆(だいず)・竹簾(たけすのこ)・大根種(だいこんたね)・太鼓(たいこ)・たばこ・たらひ・大をけ(だいをけ)・
七夕(たなばた)桃燈(桃燈=行燈か)・竹皮(たけかわ)
そ
素麺(そうめん)・染藍(そめあい)・蕎麦(そば)
つ
角(つの)
な
中入綿(なかいれわた)・生烏賊(なまいか)・生海鼡(なまなまこ)・生鯨(なまくじら)・生(なま)□・茄子(なす)・
鉛(なまり)・菜種(なたね)・鍋(なべ)
ろ
蝋(ろう)・蝋の粉(ろうのこ)・魚蝋
む
筵(むしろ)
う
漆(うるし)・牛の角(うしのつの)・団扇(うちわ)・打物(うちもの・剃刀(かみそり)・小刀(こがたな))・
海ほうづき
く
車海老(くるまえび)・串海老(くしえび)・串海鼡(くしなまこ)・串蚫(くしあわび)・草刈鎌(くさかりがま)・
釘鍬(くぎくわ)・屑紙(くずがみ)・桑苗木(くわなえぎ)・黒砂糖(くろざとう)・櫛(くし)・菓子(かし)(くわし)
や
山漆の実(やまうるしのみ)・山の芋(やまのいも)・□□□・薬種・夜具(やぐ)・焼畑火鉢(やきはたひばち)・
山竹(やまだけ)
ま
蛹(まゆ)・蛹ひび(まゆひび)・舞茸(まいたけ)・抹香(まっこう)・松茸(まつたけ)
ふ
鰤(ぶり)・鰤骨(ぶりほね)・無塩鯛(ぶえんたい)・無塩鱸(ぶえんすずき)・無塩鮭(ぶえんさけ)・同鱒(ます)・
無塩鰡(ぶえんぼら)・無塩鯵(ぶえんあじ)・古鉄(ふるてつ)・筆墨(ふですみ)
こ
小鯖(こさば)・鯉(こい)・小鱪(こしいら)・小鰤(こぶり)・米・紺屋藍(こんやあい)・
紺屋藍鉢(こんやあいばち)・御座(ござ・ござ筵(むしろ))・楮(こうぞ)・糀(こうじ)・小道具・胡麻(ごま)・
肥灰(こえばい)・火燵櫓(こたつやぐら)・小麦
え
越中椀(えっちゅうわん)・荏粉(えこな)・塩硝(えんしょう)
て
鉄(てつ)・(古鉄・ふるてつ)・鉄火鉢(てつひばち)・鉄びん(てつびん)・出たばこ(でたばこ)
あ
鮎(あゆ)・𩺊(あら・スズキ科の海水魚)・小豆(あずき)・油荏(あぶらえ)・麻種(あさだね)・
荒昆布(あらこんぶ)・編笠(あみがさ)・飴(あめ)・灰汁灰(あくばい)・足駄(あしだ)・麻苧(あさお)
さ
鮭(さけ)・鰆(さわら)・刺鯖(さしさば)・栄螺(さざえ)・砂糖(さとう)・酒(さけ)・薩摩芋(さつまいも)
き
切た□□・刻昆布(きざみこんぶ)・刻煙草(きざみたばこ)・黄檗(きはだ)・木地鉢(きじばち)・胡瓜(きゅうり)・
きす・黄綿(きわた)
ゆ
柚子(ゆず)・ゆり粉(ご)(くだけ米。いりご)・ゆでいか
め
食杓子(めしじゃくし)・面桶(めんおけ)
み
味噌(みそ)・蓑(みの)・蜜柑(みかん)・芍薬(しゃくやく)
し
塩鱒(しおます)・塩鯵(しおあじ)・塩大魚(しおおおうお)・
芝居者着替(しばいものきがえ)並ニ諸道具(しょどうぐ)・生姜(しょうが)・生麩(しょうふ・醬粉)・
諸紙(しょし)・醬油(しょうゆ)・汁杓子(しるしゃくし)・白目銅(しろめどう)・椎茸(しいたけ)・
蜆抜身(しじみぬきみ)
ひ
干鯖(ひさば)・干鱈(ひだら)・干鰯(ひいわし)・屏風(びょうぶ)・稗(ひえ)・火鉢(ひばち)・干細魚(ひさいぎょ)
も
木綿かせ(もめんかせ)・木綿(もめん)・藻魚(もうお)・もろ蓋(ぶた)(折ぶた)・茂住椀(もずみわん)
せ
膳椀(ぜんわん)・銭(ぜに)・瀬戸物(せともの)
す
鯣(するめ)・すいぼ鱈(たら)・菅笠(すげがさ)・西瓜(すいか)・菅緒笠(すげおがさ)
ちなみに、今日からみて珍しい物品の例を少し挙げてみよう。
一 古鉄 壱駄 弐拾五貫目 銀五匁
一 玉子 壱肩(ひとかた) 弐百こ 壱匁四分
一 蒲鉾(かまぼこ) 壱荷 四百 弐匁
一 搗栗(かちぐり) 壱駄 四斗五升 三匁弐分
一 屑紙(くずがみ) 壱荷 四拾貫目 弐匁五分
一 黒砂糖(くろざとう) 壱荷 三拾斤 五匁三分四厘
一 蛹ひび(まゆひび) 壱荷 六貫目 三匁弐分八厘
一 無塩鯛(ぶえんたい) 壱荷
大鯛 五枚 壱匁三分四厘
中鯛 五枚 八分九厘
小鯛 五枚 三分三厘
一 無塩鯛 壱肩
大鯛 四枚 壱匁七厘
中鯛 四枚 七分壱厘
小鯛 四枚 壱分三厘
・壱肩は歩荷一人が背負う分。
・壱駄は牛や馬一頭に積める量。
・壱荷は一包(ひとつつみ)にした荷物。