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二、納経帳にみる大谷玉林 四国八十八カ所霊場順礼の行程

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 大谷家に遺っているこの納経帳は、いわば今日の朱印帳にあたるもので、四国へ渡って最初に参詣した寺院で、遍路装束・金剛杖などと一緒に拝受したものと思われる。
 表紙には、
 
    文化四卯年
         飛騨高山
  奉納四国納経帳
         医師
          大谷玉林
    五月吉祥日
 
とあり、文化四年(一八〇七)五月、第七十八番札所讃州仏光山道場寺(現在郷照寺)から始まり、文化五年(一八〇八)十二月五日、第七十七番札所讃州桑多山道隆寺をもって、大願成就(結願(けちがん))している。
 しかし、この納経帳によると、玉林は文化四年の七月十一日ころ、第五十六番札所伊豫国(いよめくに)金輪山泰山寺(現愛媛県今治市)の参詣を終えたあと、いったん順礼を中止して故郷へ帰り、翌文化五年十一月下旬再び四国へ渡って、第五十七番札所伊豫国石清水八幡宮・栄福寺(現府頭山栄福寺)から順礼を再開し、同年十二月五日に第七十七番札所讃岐国桑多山道隆寺において大願成就を果たしている。
 玉林がなぜ順礼を中断して故郷へ帰ったのか、その理由はよくわかっていないが、ともかく、玉林は全行程一四〇〇㎞とも一五〇〇㎞とも言われている四国八十八カ所の霊場を、およそ一五〇日間かかって歩き通し、順礼を結願していることは特筆に価する。
 いわゆる文化文政時代には、飛騨においても伊勢講・秋葉講・立山講などのほか、富有町人や富農たちの西国三十三所・関東二十四輩・西国紀行等、長期の旅に出る者も決して少なくなかった。
 しかし、四国八十八カ所霊場を巡る遍路道は修験の道とも言われ、難所も多く、せっかく四国へ渡っても、弘法大師空海生誕の地善通寺など北四国の霊場数カ所を参詣して本土へ帰る人たちが多かった。
 そうした状況の中で、大谷玉林の「四国納経帳」のように、四国八十八カ所霊場をすべて順礼し終えたことの証しとなる史料が公にされた例はあまり見当らない。
 そこで、改めてこの「納経帳」の順に従って、玉林の四国遍路の行程を追ってみたいと思う。
 表記はなるべく「納経帳」に従ったが、漢字は当用漢字に直し、寺号等現在のそれと異なる場合は※印をした。読みがなは『吉川弘文館・歴史大辞典』によった。
 
  大谷玉林四国八十八カ所巡礼行程
 
〔文化四年五月~七月〕
・(五月一日)
  78番 讃州 仏光山 ※道場寺(郷照寺(ごうしょうじ))
・五月二日
  79番 本尊十一面観音
      崇徳院御鎮座所
        讃州 ※広尼珠院(広照院)
・五月二日
  80番 讃州 白牛山 国分寺
・月日不明
  81番 讃州 綾松山 白峯寺
・月日不明
  82番 讃州 青峯山 根香寺(ねごろじ)
・月日不明
  83番 讃州 神毫山 一宮寺(いちのみやじ)
・五月五日
  84番 讃州 南面山 屋嶋寺(やしまじ)
     讃岐 眺海山 洲崎寺
  85番 讃州 五創山 八栗寺(やくりじ)
・五月六日
  86番 讃州 補陀落山(ふだらくさん) 志度寺(しどじ)
  87番 讃州 補陀落山(ふだらくさん) 長尾寺(ながおじ)
・五月七日
  88番 讃州 医王山 大窪寺(おおくぼじ)
  (同日、白間大神宮参拝)
・五月八日
  3番 阿州 亀光山 金泉寺(こんせんじ)
  2番 阿陽 日照山 極楽寺
  1番 阿波 竺和山(じくわさん) 霊山寺
・月日不明
  4番 阿州 黒厳山 大日寺(だいにちじ)
・五月十日
  5番 阿州 無尽山 地蔵寺
  6番 阿州 温泉山 安楽寺(あんらくじ)
  7番 阿州 光明山 十楽寺(じゅうらくじ)
・五月十一日
  8番 阿州 普明山 熊谷寺(くまだにじ)
  9番 阿州 正覚山 法輪寺(ほうりんじ)
  10番 阿州 得度山 切幡寺(きりはたじ)
  (加持水所・龍頭山柳水庵参拝)
・五月十三日
  11番 阿州 金剛山 藤井寺(ふじいでら)
  12番 阿州 摩盧山 焼山寺(しょうざんじ)
・五月廿日(?)
  13番 阿州 大栗山 大日寺
・五月十九日
  15番 阿州 薬王山 国分寺
  14番 阿州 盛寿山 常楽寺
  16番 阿州 光耀山 観音寺
  17番 阿州 瑠璃山 ※妙照寺(井戸寺(いどじ))
・五月廿日
  18番 阿州 母養山 恩山寺(おんざんじ)
  (重源大曼陀羅・阿国紫雲山参詣)
  19番 阿州 橋池山 立江寺(たつえじ)
・五月廿一日
  20番 阿州 霊鷲山 鶴林寺(かくりんじ)
  (20番奥院・慈眼寺参詣)
・月日不明
  21番 阿波国太龍密寺(だいりゅうみつじ)
・五月廿四日
  22番 阿波 白水山 平等寺
・五月廿六日
  23番 阿波 医王殿 薬王寺
・月日不明
  24番 土州 室戸山 最御崎寺(ほつみさきじ)
・五月丗日
  25番 土州 宝珠山 津照寺(しんしょうじ)
  26番 土陽 竜頭山 金剛頂寺(こんごうちょうじ)
・六月二日
  27番 土佐 行林山 神峯寺(こうのみねじ)
・月日不明
  28番 土州 法界山 大日寺
・六月四日
  29番 土陽 摩尻山 宝蔵院国分寺
・月日不明
  30番 土佐 百々山 善楽寺
     一宮
・六月五日
  31番 土陽 五台山 竹林寺
  32番 土陽 八葉山 禅師峯寺(ぜんじぶじ)
・月日不明
  33番 土陽 ※草林山 雪蹊禅寺
・六月七日
  34番 土州 本尾山 種間寺(たねまじ)
  35番 土陽 医王山 清瀧寺(きよたきじ)
・六月八日
  36番 土州 □□山 青龍寺(しょうりゅうじ)
・月日不明
  37番 □□ □□□ 岩本寺(いわもとじ)
・六月十四日
  38番 土州 ※足摺山 金剛福寺(こんごうふくじ)
  (土州・守月山月光院参詣)
・六月十九日
  39番 土州 赤亀山 延光寺(えんこうじ)
・月日不明
  40番 伊豫 ※医王善迎 観自在寺(かんじざいじ)
・月日不明
  41番 伊豫 稲荷宮神前龍光寺
・六月廿四日
  42番 (伊豫)一環山 仏木寺
・六月廿五日
  43番 与州 源光山(げんこうざん) 明石寺(めいせきじ)
      宇和
・七月朔日
  44番 伊与 菅生山(すごうざん) 大宝寺(だいほうじ)
・七月二日
  45番    海岸山(かいがんざん) 岩屋寺(いわやじ)
・七月九日
  46番 伊与 医王山(いおうざん) 浄瑠璃寺
  47番 与陽 熊野山(くまのざん) 八坂寺(やさかじ)
  48番 伊与 清瀧山(きよたきざん) 西林寺(さいりんじ)
・月日不明
  49番 豫州 西林山(せいりんざん) 浄土寺(じょうどじ)
  50番 □□ 東山(ひがしやま) 繁多寺(はんたじ)
・七月九日
  51番    熊野山(くまのざん) 石手寺
・七月十日
  52番 伊与 龍雲山(りゅううんざん) 太山寺(たいさんじ)
      松山
  53番 伊与 須賀山(すがさん) 円明寺(えんしょうじ)
・月日不明
  54番 伊豫 近見山(きんけんざん) 延明寺(えんみょうじ)
  55番 ※日本総鎮守別宮(べつぐう)火明神南光坊(なんこうぼう)
  56番 伊豫 金輪山(こんりんざん) 泰山寺(たいさんじ)
 
〔文化五年十一~十二月〕
・十一月廿二日
  57番 伊豫国※石清水八幡宮
(府頭山(ふとうざん))別当 栄福寺(えいふくじ)
・月日不明
  58番 伊豫 作礼山(されいざん) 仙遊密寺(せんゆうみつじ)
・十一月廿三日
  59番 豫州 金光山(こんこうざん) 国分寺
・十一月廿四日
  60番 伊豫 石鎚山(いしづちざん) 横峰寺(よこみねじ)
  61番 伊与 ※(栴檀山(せんだんさん))香園寺(こうえんじ)
・月日不明
  62番 ※伊豫一宮大明神別当宝寿寺(ほうじゅじ)
  63番 豫州 密教山(みっきょうざん) 吉祥寺(きっしょうじ)
  64番    石鉄山(せきふざん) ※神密寺(前神寺(まえがみじ))
・十一月廿八日
  65番 本尊十一面観世音
      奥院 弘法大師
  十一月廿八日     三角寺(さんかくじ)
・十一月廿九日
  66番 伊豫 ※金光山 ※仙龍寺(雲辺寺(うんぺんじ))
  (阿州、本尊千手観音辺寺)
・十二月朔日
  67番 讃州 小松尾山 大興寺(だいこうじ)
  68番 讃州 ※七宝山 神恵寺(じんねじ)
  69番 ※本尊正観世音
      ※寺社両務別当 観音寺
・十二月二日
  70番 本尊馬頭観音
        讃州 本山寺(もとやまじ)
・月日不明
  71番 本尊千手観音
     奥院八畳敷岩屋
      剣五山 弥谷寺(いやだにじ)
・十二月三日
  (番号なし)
  弘法大師御産生之所也
    讃州白方屏風浦(しらかたびょうぶうら)
     経尾山 海岸寺
・月日不明
  72番 讃州 我拝師山(がはいしざん) 曼荼羅寺(まんだらじ)
・十二月四日
  74番 讃州 医王山 甲山寺(こうやまじ)
  75番 讃州 屏風浦(びょうぶうら) 善通寺(ぜんつうじ)
  73番 讃州 我拝師山 出釈迦寺(しゅつしゃかじ)
・月日不明
  76番 讃州 ※本尊薬師如来 金倉寺(こんぞうじ)
・十二月五日
  77番 讃州 桑多山 道隆寺
 
〔裏表紙〕
     文化五戌辰
     大願成就
     月五鳥
 
 (月五鳥=十二月五日)