[御挨拶]


現町長

 わが武豊町が明治二十四年一月十四日町制を施行して以來、星霜移つてこゝに六十年、本日めでたくその記念日を迎えることの出來ましたことは我々武豊町民と致しまして誠に慶賀に堪えないところであります。
 想うに、半島中部の一小部落に過ぎなかつた本町が、明治維新後、いち早く文明開化のいぶきを受けて、開港場に指定され海外貿易の要衝として前途の發展を約束づけられた輝かしい出發をしたのであります。爾來、町政坦當者の時宜を得た賢明な施策と、先輩諸賢の精魂を傾け盡くしての努力とは、その間に横たわる幾多の困難を克服しつゝ隆々たる町運の礎を固め、更に進展させて、本町今日の盛況を見るに至つたのでありまして、その功績の數々はとうてい筆舌には盡くし難く、只々ひたすらに感謝の誠を捧げるのみであります。
 かゝる先輩の遺業を明らかにし、遺徳を顯揚し、町勢發展の跡をたずねたいと、かねて史料文献の蒐集に力めておりましたが、文献は散逸し、口傳の考證は困難を極めて、その業遲々として進まざるまゝ今日を迎えたのであります。
 これはたとい不完全なものでありましようとも、このめでたい日を記念して、さゝやかな小冊子をものしてこれを頒ち、一は先輩各位の偉大な功績を偲ぶよすがともなし、一は本町將來の進展の資ともなすのは、眞に意義深いことであると信じまして、敢て本誌を編んだ次第であります。
 幸に大方諸賢の御高覧を賜わらば幸甚に存じます。
   武豊町長 中川益平