村人たちは日常の生活の中に生きる知恵として、いろいろなことを案出している。たとえば、まじない、家伝薬などもその一例である。
医学が未発達で、しかも多額の薬料支払いなどは、とても当時の百姓にとって耐え難い負担であった。病気に対処する方法としては、運命を支配する神仏の力にたよるより仕方なく、祈りや呪詛という形式に訴えることが多かったのである。
長い間の習いは現在でも形を変えて生活の中に残され、このような一種の信仰、あるいは秘伝と称されている方法を現在に伝えている家がある。
平山嘉左衛門家には一子相伝の秘法が今もって伝えられている。それはムシ歯の痛みを止める方法である。歯が痛み出したとき、普段自分の使っている箸を持ってお願いに行くと、その箸を痛む歯に当てて呪文を唱えるわけであるが、その呪文によって痛みが消えるといわれている。
また佐藤市右衛門家でも、先代までは幼児の眼病を診療してくれた。ただれ目などを家伝の薬液で洗ったり、薬草などで施療し、治った人は非常に多い。そして、このようなことは、すべて慈善的に行われたのである。