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神馬お轡(くつわ)

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 産土様といわれる当社が村民と共に辿った歴史はさまざまのものがあった。正史に記述されているものとは別に、口伝によって語り継がれているものとして、「春日大明神神馬御轡(しんめおくつわ)」にまつわる話を、次に記録しておきたい。

神馬の御轡

 この轡は明治の中ごろまで風邪を治すまじないに用いられ、特に子供に対して効果があり、その頭上で轡音を聴かせて暝目する所作を繰り返すと、不思議にその風邪が治ったという。このことを聞いて各所から轡を借りに来る人が訪れたが、いつの間にか次ぎ次ぎに又貸しをされて行方不明となってしまった。
 この轡の持ち主惣右衛門家は馬匹の売買を家業としていたが、あるとき仕事のために水戸方面に出かけて、とある宿屋に泊った。そのとき宿の主人が「風邪を治すために又借りをしてそのままにしてある轡があるが、近年不幸が続くのも轡の祟(たた)りなのだろうか」と話しをするので、包を開いてみたらその箱に「御神馬轡 下総香取郡中村郷並木村 飯田惣右衛門」と自分の名が書かれてあった(この文字は現在もそのままある)。
 そこで惣右衛門は轡を引き取って持ち帰ったのであるが、これを聞いた村民達は、「お轡が故郷恋しくなって惣右衛門を呼び寄せたり、又借りのまゝでいた宿屋に災いをしたりしたのだろう」と語り合い、ますます呪(まじな)いの効果を信ずるようになったが、このことがあってからは三日以上は貸さないことにした、ということである。
 この轡は帛紗に包まれて二重の箱に納められ、現在でも飯田惣右衛門家に大事に保管されている。