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村の文書

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 村掟
 村人が日常遵守すべきものとして天明七年(一七八七)、惣百姓が連判して名主・組頭に提出した『多胡村掟書』がある。これは仲町助右衛門が名主のとき作成して領主の上覧に供し、村内五人組に各一冊を置いたものである。同じようなものは他の集落にも見られるが、内容に独特のものがあるので、いささか長文ではあるが、ここに掲載する。
 
   下総国香取郡多胡村掟書
一、往昔より百姓を勤め仕来り候面々、相互に隔意なく入魂(じっこん)にいたし、自今申し合せ、村事別(わけ)て大切に熟談致す可く候。只今は入懇にこれなく候共、何(いずれ)も先祖は何程懇意に致され候もはかり難く候。尤も代々の旁輩の契りこれ有る上は、諸事むつまじく申合う可き事。
一、御公儀様より、御地頭様仰出され候御法度之儀は、今更申すに及ばず、定めいよいよ堅く相守り、物ごと律儀に致す可き事。
一、御地頭様は惣百姓の御主様にて、重き百姓は田畑を所持致し、妻子を育て、軽き屋敷百姓の類は御年貢少し上納仕り、御百姓を名乗り候義、旁御厚恩申し尽し難く候間、平生御太切に崇敬奉る事。
一、御他領の武家様方、御検見或いは御知行御用に付き御通りの節、御道具持ちなさる候程の御歴々えは、馬上乗(うわの)り打ち堅く致すまじく候。軽き武士方へも路次の慮外これなき様相慎み申す可き事。
一、当村御役所下を常々馬乗り申すまじく候。且つ又夜中たりとも高声、高歌唄うまじき事。
一、私(四)壁の竹木往還之障(さわ)り、道に穴あき、或いは土橋等の破れこれ有り候はゞ、其の屋敷次にて修理致す可く、大損に候はゞ其の役人方え申し出づ可く、村離れの所は田畑の主より拵え可き事。
一、作場の細道昔より有りきたる通に致し置くべし。其所ばかりの田畑の勝手を以て仕直し申すまじき事。
一、有りきたる土橋を禿し、無い所を新規に橋をかけまじき事。
一、用水溝・悪水堀は、屋敷主・田地主ともに常々掃除致すべし。手前勝手を以て竹木をひたし水の流れを溜め、或いは溝の を仕出し溝をせばめ候義、堅く致すまじき事。
一、四壁、外山共に田畑えかぶり、難儀に及ぶ由申し候はゞ、其主よりかぶらぬ様に伐り取り申すべく候。大分に候はゞ役人え申し出ずべき事。
一、往来の人馬途中にて相煩い候を見付け候者、人えも知らせ早速かけつけ養育致すべし。大病に相見へ候はゞ、其所より近き役人え申し聞かすべき事。
一、当村境内に於て斃者これ有るを見付け候はば、時刻を過さず役人へ申し出ずべし。若し見付け候て延引に及び候はゞ、其の者越度(おちど)となす可き事。
一、耕作之致し方、田畑を場広く作り、こやしの用意もこれ無く、麁末(そまつ)に作り散し候事宜しからず、家内相応に作り、尤もこやし草分け之義肝要に候。且つ又人数不相応に少々作り、常々油断致しゆるがせに候も又以て然る可し。耕作の多少は隠れ無き物に候間、不精(ぶしょう)(情(ママ))に致す者は親類、五人組より異見を加へ、用いざる者をば申し出ず可き事。
一、其者病気にもあらず、三月下旬迠かび田を耕やさず、緩怠に罷り在り候はゞ、其田隣より申出ず可し。畑の義も同前となす可し。但し農業の最中、大病或いは病死等これ有り農行に後れ候はゞ、親類、近所、五人組より介力を加うべし。其近辺之力に及ばず候はゞ役人え申出ず可き事。
一、独身之者、其の業之これ無くば、五人組より取り立て、農職か商売を致さす可く候。家業これ無くばもっての外宜しからず、其分に差置き難く、異見を承引致さず者をば申出ず可き事。
一、所生の老人か、或いは病人、田畑屋敷壱所も持たずもの渇命に及び候はゞ、親身の者より扶持致す可し。好身(よしみ)これ無き者は役人え申出ず可き事。
一、他所者を年久敷(ひさしく)召仕え、其者働ならざる節追出し申まじく候。若し追出す義相聞き候はゞ、役人より申付け、其者親同前に養育致せしむべく候事。
一、両親病死の上孤りこれ有り、親類もこれ無きか又は親類の養育致し難くば、役人え申出ず可き事。
一、他所の市(いち)、町(まち)、神事、祭礼等え罷り出で候小商人、口論致し理不尽に申募り、先村の役人え罷り出でまじく候。惣じて他村役人断り申す程の儀に候はゞ、此方役人え相談致し差図を得申す可き事。
一、諸商人に寄らず、他所にて自然盗体の見苦き義致し、其の場はのがれ参り候共、後日に相知れ候はゞ急度(きっと)申付く可く候事。
一、他所にて嗛〓(けんか)を致しかけられ、疵(きず)を遂り候はゞ慥に相手を極め、滞り無く埓明け帰る可し。若し訳もなく大疵を請け参り候はゞ、五人組より早刻申出可き事。
一、当所へ参り候商人を、大勢立ち寄り、無法の申掠め、我侭に諸色買取り申まじき事。
一、住所不定の者、衣類諸道具によらず、下直なり払物持ち来り候共、一切買取り申すまじき事。
一、隠れ質の儀、縦え親類たりとも取り申すまじく候。若し露顕致し御定法の罪科仰付られ候はゞ難儀なす可き事。
一、往来雇いの駄賃馬、大概定の通り賃銭これを取る可し。若急ぎの旅人雨天か又は夜中などに参り候はゞ、其宿了簡致す可し。宿無の旅人えは駄賃馬参るまじく候。殊に先宿を最寄より承候て、先宿へ着き候迠は何者たり共大切に追届け申す可き事。
一、手前馬持たざる者、他の馬を借り罷出候途中にて、其馬怪我病死等これ有候はゞ、馬主の損失となる可き故に、借り申す者も能々(よくよく)遠慮これ有る可く候事。
一、他所者職人に寄らず、其所より請合これなき者を、親類又は縁者たり共、当所のもの請負い、当村に差置き申すまじく候。殊に他所者職商売これなき者を数日差置き申すまじく事。
一、江戸御屋敷より御追放の者、又は欠落(かけおち)者、当所の者に限らず、片時の宿をも致すべからず。且又当村払の者、村欠落の者も同前となすべし。若し出入致させ候はゞ、其の宿は申すに及ばず、近所五人組越度なるべき事。
一、奉謝(びしゃ)祭礼の酒盛りは日中に限るべし。夜に入りて高声致すまじき事。
一、名を替え候に、其者望に名を改め、名主へ披露ばかり致す類いもこれ有り候。上の御差し合いもこれ有る義に候間、向後名を替え申す者は先ず役人え申し出ず可し。尤も不相応の名付け難く候事。
一、若き者たり共、他所へ罷り出で候節、必ず異形の出立(いでたち)致すべからず候。将又(はたまた)見物等に出で候節、酒興の余り高声放埓を致し、自他領諸人の目に立ち候義、堅く致さず候事。
一、大小の百姓、常々有るべき様の見形(みなり)を心得、異風これ無き様に致すべし。 緒の足駄、上雪踏(せった)等は、大百姓にても然るべからず。尤も其れ以下は其の心得第一に候。軽き者の高足駄、唐笠等も不似合に候事。
一、近年は下男等も、唐笠足駄をはき候。畢竟(つまり)其の主人の誤りになり候間、村法度(はっと)の義、能々申し付け召し仕るべき事。
一、軽き者の家作、分限に過ぎ作る可からず。若我侭に致し候はゞ五人組より差し押へ、承引無ければ申し出ずべき事。
一、新宅を作る者、町通りの境目は検断の見分を得、町の外は其の組頭の差し図を得申すべし儀、昔よりの法式に候事。
一、田畑屋敷の境目、諍論出来候はゞ、田畑は其の近所の田畑の主共、並に双方五人組立会い取扱可し。屋敷も両五人組、其の近辺の者共取扱い、承引致さざる者をば役人え申し出ずべき事。
一、田畑の境目は大切に候。人により彼の田境を貪(むさぼ)り、是れ畑境をむさぼり、其の者壱人にて諸人の境目へ、多欲に掛り候者これ有るは申し出ずべし。其の科(とが)軽からず候事。
一、田畑共に段々階これ有る場所は、其の下の腰根は上より支配致す義大格定式に候間、田畑の腰根を下の田畑より掘りこぼし申すまじき事。
一、稲種をひたし候事、時節を考え、其近所最寄り申し合せ、壱度に致すべし。種井より上げ候も同前なるべし。田を植え掛り苗の過不足これ有時は、縦え親類たりとも村中植仕廻(しまわ)ざる間は、他領へ苗を出す義堅く致すまじき事。
一、田を植え仕付け候ても、草分けの事又大切に候。水の掛け干し、草取り候を油断致し、其の田不作に致候共、役人内検見の節吟味の上、不作帳に成り難く候間、其の段相心得可く候。
一、作場道、馬往来の堤は、元来横幅九尺より内はこれ無く、其の外に堤根三尺通り御検地を御引下し置かれ候間、堤ぎは田主共其の段相心得、田地切に堤をせばめ申すまじく候。然れ共馬多く往来これ無き所を過分に広げ候も無益に候間、大概人馬往来に不自由これなき様に致すべく候。若往来不自由の所は役人へ申し出でべく候事。
一、陸(おか)より遠き堤、人馬踏み破り往来の成り難き所は、秋収納仕廻り候後、其所往来の者打寄り、堀付けを致すべし。若其所を通り候者ばかりの力に及ばず候はゞ、申し出ずべき事。
一、若しか意趣を以って互に打ち果すか、或いは自害、或いは縊死、又は峯より落ち、又は釣瓶井え落ち相果て候等の惣(すべ)ての逆死これ有る節は、様子取り繕(つくろ)はず、其の侭に有体(ありてい)に致し置き、即刻役人え申し出ず可き事。
一、上の御存じこれなき百姓、縦え分限これ有る者たり共、死縁の節、小袖上下(かみしも)を着、葬礼の儀式過分に致し、楽人を頼み候義これ有るまじく候。但し酒食を供養致す儀は存じ寄り次第苦けまじき事。
一、死人これ有る節、勝手働きの事は、閙敷(いそがしき)時節なる共、其の辺田、其のくるわ、家毎に一人宛は罷り出ずべし。男なき家は女なりとも、常日頃懇意にこれ無く共、世間役に罷り出すべし。不出(でず)の者候はゞ内証にて詮義致す可し。左様の場へ隙をおしみ、出でぬ我侭者をば申し出ず可く候。且つ又働きに出候ても賃銭を取り、賄人え無作法を申す者これ有らば、賄人より急度申し出ずべく候。縦え軽き者たりとも、すべて左様の不仕合せの時は諸事心を附け始末をいたし、其の者の難義これ無き様に、大勢より心を添え申すべき事。
一、遠方に親類これ有る者も、死人を置く事二日を過す可からず。拠(よんどころ)無き義これ有らば役人え相願うべく、尤も町方は別て其の心得これ有るべく候事。
一、下人を抱え候に、男女共に、壱年季たり共、請状堅く致すべく候。人主(ひとぬし)請人これ無きものを抱え申すまじき事。
一、他所(よそ)の市町(まち)へ当所のもの罷り出、相煩い候を見捨て参るまじき事。
一、其の町、其の辺田の頭百姓は近所の小百姓へ常々差引を致すべし。組合の外たりとも公務の事おろそかに存じ候者えは指南致すべし。若し強いて相構(かま)わず近所に不届ものこれ有り候はゞ、其所の頭百姓不念たるべき事。
一、村中相騒ぐ程の出入りか又は願事出来候はゞ、先ず頭百姓打寄り、淳和に相談致し、前後の障り等相考え、念を入れ熟談の上に百姓へ談合に及ぶべし。畢竟大勢の相談は物の取りしめこれなく、無法の儀共申募り村の風儀を取り乱し候は大切之儀に候間、此の義又頭百姓能々感弁これ有るべく義に候事。
一、小百姓ばかり打揃い、頭百姓へ相談に及ばず、諸事申し出でまじく候。就中不作凶年の時御救米願候共、頭百姓を以って相願申出ずべき事。
一、頭百姓は諸事小百姓の真似を致すべからず、物毎穏和に致し、軽き者え御憐愍を加へ、手前また奢りこれ無き様相心得べし。内々は組頭同前に公用村用共麁相(そそう)これ無き様に致すべき事。
一、諸人他所者と交り候節、此方御地頭様、御役人様、惣て村役人迠の評判致す間敷候。諸傍輩の噂噺(うわさばなし)も了簡有るべく候。且又他所の役人え対し、平(手)懐(てふところ)これ無き様に相慎み申すべき事。
一、名主組頭、自然不了簡なる義これ有らば、二、三人も申し合わせ、遠慮なく申し出ずべし。推参には有るべからず候事。
一、名主米金の請払い、其の外御年貢納方に付き、不勘定これ有らば少々たりとも申し出ずべし。直談致し難く候はゞ、組頭えなり共申し出ずべき事。
一、名主、組頭え少しの音進も決して致すまじく候事。
一、惣百姓相互に湯治拝詣旅行の跡へ留主(守)見廻と申し、音物無用となすべく候。又帰国の者も土産を遣し配るまじく候事。
一、借金これ有る百姓は、手前持高相応に致し、五石持は五両、拾石は十両に限るべし。其の分限を越え候はゞ、請負口入れ致すべからず。頼母子(たのもし)等企て候も前々申し渡し候通り同前となすべし。勿論頼母子相止め申し度き願の節、手前企てこれ有る者は遠慮致すべく候事。
一、屋敷百姓、或いは水呑み等、其の日その日の家職を以って親を養育致し候者、親存命の内は別(わけ)て情(精)を出し養ふ可し。但し当分の勝手を以って妻を呼び向え、子数多く出来候はゞ、自ら親へ疎く罷り成るべく候間、其の覚悟これ有るべく候事。
一、落葉をさらいに出候男女、後家、孀(やもめ)等、其の山主の大切にかこひ置き候薪を取るべからず。猶又山近き畑にこれ有る蕪大根、薪の内へ包み参る事致すべからず。顕(あらわ)れ候はゞ、別て大事となすべく候間、其の旨相心得実体に致すべき事。
一、秋の最中に子共等を穂拾ひに出すべからず。其の訳は落穂を拾はず、堤根道通りの立穂を切り、近年道通りの田主共難儀致す申し出て候間、一向に出すべからず候事。
一、稲刈りの居候場所へ、餅、酒、菓子を持参、稲と商(あきない)候事堅く致すまじき事。
一、小作田作り候者、其の田不作の時、地主へ聢(しか)と相談無く、理不尽に田を上げべからず。地主も又了簡なく請取るべからず。地主と小作人の談合に及ばざる所は、両五人組より出合い、田を検分致し取扱うべし。若両五人組の扱を請けぬ地主か小作人これ有らば、役人へ申し出ずべき事。
一、手習いを致す子共の親、其の師匠え談り申し、楽(らく)書、落し文等をいたさせ申すまじく候事。
一、銘々所持の印判は、重く大切の儀勿論に候。火災急難の節紛失致し候はゞ、早速名主へ申し出で、印判改め常々所持致すべし。米金借用、或いは奉公人請状等の証文は重て取り戻す義に候。其の外何事によらず、他所へ証文相渡す義は、役人え内意を申し差し図を請けべく候事。
一、盗人を見付け候て、大勢取り集り候時分、棒打ちは然るべし。刀、脇指(わきざし)を以って切り申すまじき事。
一、物の借り借(か)しは拾年を限るべし。拾年を過ぎ候事は品により役人へ申し出で候ても了簡致し難く候事。
一、無法の狼藉(ろうぜき)者これ有り候共、理不尽に打擲(ちょうちゃく)致すべからず。捕え置き早速申し出でべく候事。
一、思慮分別これ有る者も発明にはこれ有るべからず候間、万端和淳に近所諸旁輩へ差引致すべし。左もなく結句六ケ敷(むつかしき)を発立、彼へ根持を致し、是へ理屈を教へ、贔屓(ひいき)に事をたくみ、諸人の障げになる由相聞え候はゞ、免すべからず候事。
一、米金借用、或いは頼母子等の請人に立ち候者、当分軽き儀に存すべからず候。質地これ有り候共、金元は質地より請人を慥(たしか)に存る事に候間、兼々左様相心得、請人は質地を能く能く了簡致し請負べし。借り主不埓の時は、質地は請人支配いたし、金元えは相定めの通り金子にて返すべし。猶(なお)頼母子も同断となすべき事。
一、田畑売買之儀、名主加印これ無候てはなり難く、御定法の御事能々相心得べし。常々家業油断致し、又は大酒を好み、其の外不行跡これ有る者は、右願いに出し難き候由、依って其の身持を大切に存ずべき事。
一、諸旁輩の沙汰に及ぶ程の愚癡なる者より、田畑によらず、諸道具等にても売買候はゞ、他人の了簡を以って落着すべし。計略、謀(はかり)ごとを以って押売り押買致すべからず。惣て愚なる者を見かけ、人を交へず相対致すべからず。家督継ぎ或いは養子定め、其の外縁辺の義尤も第一に心得べき事。
一、所生の者たり共、他所に住居し、妻子を持ち拾年余役人へおとづれこれ無きもの、其所にて渡世成り兼ね、当所へ帰り度き願いこれ有り候共、返し難く候間、親類敢て取り持ち申すまじき事。
一、当村境内に安置致す処の道祖神、  (禿僉)昔より有り来るは怠慢これ無き様に致すべし。新規に祭り建て候義堅く致すまじく候。猶又奉謝祭礼新規に取り立て申すまじき事。
一、有り来る寺田地を、寺借金これ有るか、又は修覆なすなどに売り候儀、成り難き筋に候。且つ又寺へ田畑を寄進か又は売り渡す義も成り難く候は、寺院所持の田地は高役除きの義に候間、麁忽(そそう)には成り難く候事。
一、 (極)老にもこれ無く、内証(ないしょ)にて忰に家督を相渡し、忰不働にて借金多く致し候上親不孝を申し立て、追放願いに出で候義堅く成り難く候間、身台(しんだい)を渡す親はその覚悟を致すべく候。猶又其の身隠居の披露を遂げず、五人組の談合事、或いは村寄り合い等、惣て役人前へ忰を出し候義堅く成り難く候事。
一、他出致す者は、其の日帰りに候共、隣家え申し聞かすべし。五・三日の旅立ちに候はゞ役人へ申し断るべき事。
一、老若によらず、剃髪致し度き願いのものこれ有らば、役人え願い出ずべし。村役人の了簡に叶い難く候間、上之御下知を以って申し附くべく候。我侭に落髪致す者これ有らば、五人組より隠し置くべからず。早速申し出でべし。殊に遁世致す者、役人え罷り成り候間、姿を替え三衣を着候ても、当所へ帰参致す義叶うべからず候事。
一、辻々の火の番、火の用心触(ふれる)に斗(ばか)り限らず、高声致す者、或いは火縄を持ち、松明(たいまつ)をともし、夜更け候て通り候者を能々吟味致すべし。若し見のがし脇より見とがめ候はゞ、番人の越度となすべく候事。
一、若し出火之これ有る時は、遠近によらず壱足も早く欠付(かけつ)くべし。尤も水、龍水桶其の外溜め道具取合次第持参致すべし。早速大勢寄り候はゞ大火には成べからず候。心得違いの者は火の元より間遠く候ても、火元へは参らず手前の諸道具に耳(のみ)掛り、混雑致す事無益の義に候。罷り出でざる者は諸人皆存ずる処に候間、自今は必ず欠付け申すべく候。此外臨時の相談は追て申し渡すべく候事。
一、村中寄り合いを触れ候はゞ、他出致さず、大小の面々罷り出ずべく承知候。日中の寄り合いはまれにて、多くは夜陰に候間、家業の障りにも成るまじく候。軽き小百姓は村寄り合いに出でぬものこれ有り候、不届至極に候間、向後必ず罷り出ずべし。諸法度申し触の義、別て軽き者え流通これ無く候ては成り難く候間、急度罷り出でべく候事。
 右の荒増(あらまし)、大小の御百姓能々承(きゝ)届け、庶幾は自今此の儀に順(したが)ひ、奢り、放埓を致さず、家業に油断これ無く候はゞ、自然と村中堅固に相続致す所、繁栄の元意に罷り成るべき旨申し聞かせ候処、委細承届け歎(ママ)納致し候。依ってこの書壱冊宛五人組判頭え預り置き、時々披見致し、右の段一事も背(そむき)申すまじき由堅く一同に申し候間、其の趣に相定め候。
 若し此の上格外に相背く者御座候はゞ、何分にも仰せ上げらるべく候。少しも御恨みに存じまじく候。その為め村中惣連判上げ候と申す所よって件(くだん)の如し。
                                         惣百姓 判
   天明七丁未年四月
    名主 組頭衆中
 
(注) この掟書は文化二年(一八〇五)の写しであり、虫害が甚だしく、どうしても読み難い所は にした。また読みやすいように書き下し文にし、適宜送りがなを付した。