序文

 ~ 

 待望の『富田林市史』第一巻(本文編Ⅰ)がここに刊行の運びとなりました。

 大阪東南部に位置するわがまち富田林市は、金剛・葛城連山の麓、石川の清流と豊かな緑にはぐくまれて、古より人々の営みがさかんな地でした。それは市域各地に現存する諸遺跡が如実に物語るところです。古代、渡来人は高い文化や技術をこの地に伝えました。中世には楠合戦、嶽山合戦など幾多の戦場となりました。そしてこのような戦乱の中から平和と自由を願う人びとが新しい町、寺内町を作ったのです。豊かな農村地帯を周囲にもつこの町は大いに発展し、商業のまちとして栄えました。近代になるとその商業的機能を背景に教育、行政の施設が本市域に集まるようになり、また一方、新しい思想の波は人間一人ひとりを大切にしようという叫びとなって現われてきました。そうして現在、人口十万余を擁する都市に成長した本市は、羽曳野丘陵を中心に金剛・金剛東団地を開発し、昭和のまちづくりを着々と進めています。

 開発が古い過去の遺産を破壊することから始まった時期は終わり、歴史的伝統的環境をいかに現代に取り入れて調和させるかが重要になってきている今日、新しいまちづくりにあたって、先人の足跡をたずねることは非常に意義深いと考えます。すなわち、快適な住環境はその地域の生活や文化の発展・蓄積の歴史と切り離して追求することはできないものですし、また時代時代を生きぬいた人びとの知恵に私達や私達の次の世代が教えられることは多いと思います。本書が明日の富田林市の発展のよすがとなれば誠に幸いです。

 ここに、ご執筆いただいた諸先生、貴重な史(資)料を快くご提供下さった方々、あたたかいご援助ご協力を賜わった関係各位に厚く御礼申し上げます。

 

   昭和六〇年三月

 

                      富田林市長 内田次郎