補遺 羽曳野丘陵の象化石

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 第一章を執筆したのち、第一節で予測しておいた可能性がおもいがけなくも早々に実現した。一九八一年五月三一日、富田林市錦ケ丘町の府営富田林西住宅の西側に隣接する壁土用の土取場で、ブルドーザー作業中、象の牙状のものが見つかったとの報告が富田林市教育委員会に寄せられたのである。同委員会が翌六月一日発掘を実施したところ、二本の象の牙の化石が発掘された。

 二本の牙は砂礫の混じった淘汰の悪い粘土の層中にほぼ直交して横たわっていた(口絵参照)。最初に発見された方の牙は、先端より約八〇〇ミリの部分のみが残されていたが、地層に残された型から判断すると、全長一五〇〇ミリ以上あったと推定される。全体に弯曲は弱く、かすかにねじれている。二本目の牙は、ほぼ全体の形状が残されていて、全長一五一〇ミリで、基部には歯髄腔(しずいこう)が残されている。全体に弯曲が強い。わずかにねじれがみられる。形状(22)、産出状況、産出層準から判断されるところではシガゾウかアカシゾウのものである可能性が考えられる。

22 象の産出化石、下が1号切歯、上が2号切歯 スケール 10cm

 発掘地点は、羽曳野丘陵の東縁に位置し、大阪層群下部の地層が露出している。ほぼ南西から北東に延びる富田林背斜の軸部にあたる。地層の走向、傾斜は一定せず、多くの小断層がみられる。参考として化石産出地点付近の地質柱状図を掲げておこう(23)。化石産出層は大阪層群のMa1の下位約三〇メートルの層準に位置すると考えられる。

23 化石産出地点付近の大阪層群地質柱状図 A:海成粘土層 B:淡水成粘土層 C:シルト層 D:含礫シルト層 E:砂層F:砂礫層 G:ピート層

 富田林市教育委員会では、京都大学理学部地質鉱物学教室教授亀井節夫氏に鑑定を依頼したが、同氏の鑑定では産出層準、牙の形状から判断するかぎりではシガゾウの牙である可能性が強いとのことであった。これまで大阪層群中から発見されたアカシゾウとシガソウとの関係について記しておくとつぎのようになる。

 アカシゾウ 兵庫県明石市で多く化石が見つかっているので、この名がある。ステゴドン属に属し、大阪層群中の千里山火山灰から竜ケ池火山灰ぐらいの層準から発見されている。

 シガゾウ 最初に滋賀県で化石が発見されたので、この名がある。これまで発見例が少なく、はっきりしたことは分からないが、エレファヌス属の象で、マンモスの先祖とも考えられている。大阪層群中ではMa0からMa5あたりの層準から発見されている。