サヌカイトと二上山

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さて、ここでとくに指摘しておかなければならないのは、この縄文時代と弥生時代とを通じて、生活の必需品ともいうべき石器の原石が、石川谷の東方から産出したという事実である。この原石は、ふつう「サヌカイト」という名称で知られているが、学名を「紫蘇輝石安山岩」といい、叩くと、金属に似た打撃音を発する、黒色の非常に硬くて緻密な鉱物である。上手に打撃を加えると貝殻状に剥離していく性質があり、縁辺が鋭利な刃となるので熟練した方法で細密な加工を行なうことによって、切断や刺突に適した打製石器の道具を作ることができる。近畿地方から出土する石器のうち、ほとんどすべての石鏃、石槍、石匙がこのサヌカイトの原石から作られているといえば、この地域圏に住む当時の人たちが、いかにこの石材に依存していたかがわかるであろう。この最大の産地が、大阪府と奈良県の境にそびえる二上山の西南麓から北麓にかけての一帯に存在したわけである。二上山は標高五〇〇メートルに近い山で、南北の二峯にわかれ、北を雄岳、南を雌岳といい、火山活動によって生じたものである。