放射性炭素による年代測定

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錦織の縄文遺跡が、今から何年ほど前のものであるかについては、最も知りたいことである。現在の段階で、錦織遺跡そのものの年代はわからないが、縄文前期の年代は自然科学的な測定法を用いて算定された例がある。この方法は放射性炭素による年代測定(ラディオカーボン・デイティング)といい、測定法が第二次世界大戦後にアメリカのシカゴ大学、リビー教授とアーノルドらによって実用化された。簡単に言えば、空気中に含まれる炭酸ガス中の炭素の中に、一四の質量数をもつ放射性の同位元素が、ごく微量含まれていることを利用するものである。このC14は、高空の成層圏中で宇宙線に含まれた中性子が、大気中の窒素原子と衝突して生じるものである。この場合、地球に到達する宇宙線の量が過去を通じて不変であるとすれば、C14の生成量も一定していることになる。そしてC14は、五七三〇年±四〇年という放射能の半減期をもっているので、大気中に含まれるC14の量は一定の割合を保つことも明らかである。

 さて、大気中の炭酸ガスに含まれたC14は、植物の同化作用で他の炭素とともに植物体内に入ることになる。そして、この植物を摂取した動物の体内や骨中にも入るわけである。植物体内や動物体内のC14の割合は、それらが生存している限り変わらない。ところが、植物が枯死したり、動物が死亡すると、新たにC14を体内に摂取する途が閉ざされるので、C14の量は半減期のために次第に減少する。

 こうした検体のサンプルをとり、燃焼させてガス化したのち、C14の残存量を精密な測定方法で調べると、その割合によって古さが明らかになる。この方法は、七万年以前は測定不可能となるが、人類文化が複雑に発達した年代は主としてこれ以後のことであるから、サンプルの入手の上からも、理論の上からも、これほど考古学の研究で絶対年代を決定する手段として役立つものはない。ただし、宇宙線の量が不変であるという仮説をはじめとして、種々の難しい条件がともなうので、きわめて便利な方法とはいえ、今後においても測定値を補正してさらに正確な年代に近づけるよう理論の検討を重ねていく必要がある。