縄文土器の技法

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縄文土器には各種の施文が認められ、錦織遺跡でも爪形文と縄文とが通有的に存在する。爪形文とは、あたかも爪先で軟かい粘土上に押捺したような半月形の凹文が、連続してつけられているものをいう。実際には解説にあるとおり各種の施文具を用いていて、このうち爪形が右側に突出してアルファべットのD字形に似たものをD字爪形文と呼び、反対に左側に突出したC字形と区別している。D字爪形文は前期でも比較的古い北白川下層Ⅰ式に認められ、C字爪形文は比較的新しい同Ⅱ式以降に施文されている場合が多い。錦織遺跡ではD字の古い爪形文を印した土器は出土していない。

 縄文は最も通有の施文で、とくに斜縄文が大部分を占める。この施文法は撚紐を回転して押捺したもので、施文具として用いられた三~六センチ程度の長さの紐を縄文原体と呼んでいる。縄文原体は条が二本ないし四本撚り合わされているので、土器の軟らかい粘土の表面を回転させると条の圧痕が斜方向に連続して印せられることになる(52)。この場合に原体の紐を右撚りに撚るのと、左撚りに撚るのとでは縄文の方向が逆となり、右撚りでは左上から右下に縄文が走り、左撚りでは右上から左下となる。

52 縄文土器の施文法、縄文原体を軟らかい粘土の表面にころがす

 このように細かい区別がなぜ必要かというと、長期にわたる縄文施文の中で複雑な技法が工夫され、結節を作ったり結束を試みるなど時代や地域差によって、手法の相違が撚紐の作り方ひとつからも観察できるからである。解説中にR{LLなどとあるのは、左撚りの細条二本を合わせて右撚りにした縄文原体を使用していることを示している。さらに羽状縄文というのは、右撚りと左撚りの異なった二つの撚紐を用いて、交互に上下の帯として押捺していったもので、鳥の羽毛が軸から両側へ、それぞれ斜めに交差する角度をなして密生している状況と似ているところからつけられた名称である。また磨消縄文手法は縄文を施文したのち、その一部分を帯ないし斑点状に研磨、抹消して装飾効果を挙げることを意図したもので、山内清男氏によると、前期にその萠芽が認められ、中期以降は関東を中心として、広く全国的に流行した技法であるという。