莫大なサヌカイト片の出土

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一九七一年一月、遺跡の中央を東西に貫いて暗渠埋設の工事が行なわれ、その際、竪穴住居址の一角と、V字状の遺構が発見されたことは遺跡各説で改めて触れることにしよう。この調査で断面の主要部分から検出されたサヌカイト片を、微少な破片を除いてできる限り採集した。その総数は一八三二片に達したが、これを分類、検討してみると、原石として採取したままの石塊は全く存在せず、ことごとく人工的に打裂を加えて割截した剥片からなることが剥明した。大きな破片は最大長一二・八センチ、重さ二五八グラムあり、小さな破片は最大長〇・八センチ、重さ〇・五グラムあるが、これ以下の鱗片状の微細な剥片も包含層中に多数含まれていた(93)。この中で破片として最も多くを占めるのは、長さ一・三~五・〇センチ、重さ一・〇~四・四グラムの範囲にわたるもので、約七五〇個ある。

93 サヌカイト剥片最大長表

 これらの剥片は、ことごとく石器の加工の工程で原石から割截、剥離されたものであるから、その形状と打裂面を通じて生産過程を明らかにすることができるはずである。すなわち完成された石器の加工痕から技法を解明する手段とは逆に、原石を処理していった方法をネガティヴな形で知りうるであろう。一個の打製石器を作り上げるためには、原石を割る作業に始まって、最後の仕上げに至るまでの間、石の表面から大小さまざまの薄片を剥離することが必要だからである。このために、ヨーロッパの旧石器文化を研究する部門の一つとして、旧石器の製作技法を実験的に解明することが広く行なわれている。アメリカ・インディアンの石鏃を、製作技法から分類したスナイダーの研究もその一環をなすものである。