このうち三角縁神獣鏡は、古墳から出土する多くの鏡の中で、現在の学界において最も関心のもたれている鏡式といってもよいであろう。問題をしぼるために、真名井古墳から出土した鏡を取り上げて、具体的に解説するところから始めることにしよう(口絵参照)。
鏡の正式な名称は三角縁三神三獣獣帯鏡という。青銅製の鋳造品で、直径二二・一センチの木盆のような円板形をしていて、重さは八九〇グラムに達する。鏡面はもとよく研磨の加えられた凸面をなしていて、現在では緑青でおおわれている部分も多いが、面貌などを映すに足るものであったとみられる。埋納時に鏡面を絹布で包んだのか目の細かな布帛が付着した形跡が認められる。
鏡の出土状態は主体部の棺外の頭端にあたり、小口板の外側に面を外に向けて立てかけた状況で置かれ、この周囲に鉄製の鉇・錐・刀子と大小二個の斧頭が配置されていた。工具類と共存した事実から察せられるように、実際にはこの鏡面を化粧道具として利用する場合は日本ではほとんどなかったとみられるが、その理由は後述することにしよう。鏡式として研究の対象になるのは、裏側の鏡背にあたる面で、ここには鋳造の際に鋳型にさまざまの文様の型を施している結果、銅鏡特有の図柄が認められるわけである。