まず拓本を見て頂きたい(184)。鏡背の中央には大きな半球形の鈕(ちゅう)があって、鈕座をめぐって有節重弧文の円圏がある。文様は鈕を中心に鏡縁に至るまでの間を同心円状にとりまいているが、これを内区と外区とに分けている。内区には六個の背の高い円錐形をした乳(にゅう)という突起を配列し、その間に交互に一個ずつの神像と獣形を放射状に配置していて、三神三獣とはこの部分を指している。神像は三体とも古代中国貴族の衣裳をまとった座像を半彫刻の手法で表現していて、頭頂には飾りをつけ、眉、眼、鼻、口などの描写も適確である。獣形もまた三頭とも共通した図柄で、体躯は右を向き、大きな頭部を強くそり返らせて顔貌は正面していて、両眼を刮目し巨口を開いた威嚇的な表現である。この主体文とは別に、鈕と乳との間の狭い空間には、二個の小乳状の突起を横に並列したり、動物と小乳を配したものを交互に入れている。後者の動物とは、うずくまった蟾蜍(せんじょ)、つまり分かり易くいえばひきがえるを上から見下ろした表現で、頭部には突出した両眼と体側の四足を鋳出することも忘れてはいない(185)。