上述の兵庫県城の山古墳からは六面の鏡が出土し、その中には1~3号鏡と名づけた三角縁神獣鏡が三面含まれていた(192)。これらについて報告書では2号鏡についてのみ「仿製三角縁神獣鏡の原型となったものといわれる鏡であろう」という解説を加えているほか、ことさら舶載・仿製の区別はしていない。しかし樋口隆康氏は「古文化財」の年次報告の中で、武庫川女子大学の安田博幸教授らによって行なわれた原子吸光分析法による分析結果を検討し、あわせてサビ表面の蛍光X線分析による錫と鉛の測定値とを比較して、たんに錫の含有量の大小をもとに舶載、仿製を区別するよりも、錫と鉛の銅に対する相対比の方が一層明瞭な場合のあることを指摘した。とくに舶載であることがほぼ確実な方格規矩鏡(6号鏡)と3号鏡がグラフの座標値の位置で同じ錫と鉛の比を示すパターンに属するのに対し、1号鏡はこれらと著しく異なって「典型的な仿製鏡のパターン」に位置している。ただこれらの結果からすると城の山古墳出土の三角縁神獣鏡の中には舶載・仿製の両者を含むことになって、先に引用したような城の山古墳例から直ちに真名井古墳鏡などを仿製品と判断するような積極的見解を導き出すことは困難ではないかと考えられる(193)。
成分 | 銅 | スズ | 鉛 | 鉄 | ニッケル | 亜鉛 | 計 |
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鏡 | (%) | (%) | (%) | (%) | (%) | (%) | (%) |
1号鏡(三角縁獣文帯三神三獣鏡) | 78.3 | 13.6 | 9.1 | 0.15 | 0.08 | 0.009 | 98.2 |
2号鏡(三角縁獣文帯三神三獣鏡) | 74.5 | 14.5 | 5.7 | 0.19 | 0.07 | 0.007 | 95.0 |
3号鏡(三角縁波文帯三神三獣鏡) | 74.4 | 17.8 | 5.6 | 0.15 | 0.07 | 0.02 | 98.0 |
4号鏡(四獣鏡) | 66.7 | 20.6 | 7.0 | 0.13 | 0.06 | 0.02 | 94.5 |
5号鏡(唐草文帯重圏文鏡) | 77.0 | 17.9 | 3.4 | 0.05 | 0.07 | 0.03 | 98.5 |
6号鏡(方格規矩鏡) | 74.5 | 17.8 | 3.4 | 0.06 | 0.08 | 0.02 | 95.9 |