石室内の二個の石棺

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二個の家形石棺はいずれも石室内部の広さに比べると著しく大きく、凝灰岩を用いた刳抜式の構造をもっている。石室発見当時この古墳を調査した小林行雄氏は「二棺はいずれもいわゆる屋根形の蓋をもち、その左右の長辺に各二個、前後の短辺に各一個、計六個の方形突起を作り出した松香石製の家形石棺であって、この形式の石棺としては、各部の稜角に面取りを施した特殊な遺品」としてその特徴を指摘した(小林行雄「南河内郡中村芹生谷金山古墳」『金山古墳および大藪古墳の調査』大阪府教育委員会一九五三年)。

 玄室の中まではいりこんで手探りしながら石棺を調べると、石材の表面がほとんど風化していないこともあるが、当初から実に入念な加工によって仕上げている状況がよくわかる。玄室の石棺は、棺蓋の長さ二・三六メートル、幅一・三三メートル、全体の高さ一・五三メートルあり、刳抜かれた内部の広さは奥行きが一・七六メートル、幅〇・七六メートル、深さ〇・五八メートルというから、成人の遺体を充分に伸展葬できる空間をもっていることになる。これに比べると羨道の石棺はやや小さく、棺蓋の長さ二・二六メートル、幅一・一九メートル、全体の高さ一・四メートルある。棺蓋の方形突起はふつう縄掛突起の名称で呼ばれるもので、長さ三二センチ、幅三七センチ、厚さ二八センチ内外の大きさをもっている。

 本稿の脱稿時に近くなって玄室内の家形石棺の撮影を依頼することができた。玄室一杯を占める棺蓋は広い頂面の平坦部と、四辺の屋根から突出した壮大な縄掛突起とが、非常な重量感をもって迫ってくる。手前の側面が弯曲しているのは超広角のレンズのためで、本来直線をなす縁がこのように歪むのはレンズの性質上やむをえない。縄掛突起にそれぞれ面取りが加えられていること、玄室の側壁の積石が野石と称する自然石を用いているとはいえ、表面がかなり平滑に加工調整された形跡が認められること、玄室の床面に礫石が細かく敷きつめられていることなどがよくわかる(219)。

219 金山古墳玄室内の家形石棺、面取りをした縄掛突起をもつ棺蓋が玄室一杯に占めている

 この石棺の小口には盗掘孔が穿たれていて、棺内の状況をうかがうのに都合がよい。盗掘孔からの内部の写真は河南町教育委員会の木下光弘氏らが試みたことがあるが、今回は細部の加工手法を撮影することができた。この写真で見ると、内面の仕上げ加工の鑿は棺蓋の場合、長軸と直交する横方向に削り跡を残していて、しかも各鑿跡がはっきり認められるほど粗い。棺身の内壁面はこれと同一方向の垂直に鑿跡が残っている。報告書にも明らかなように、棺材は二上山産の松香石すなわち凝灰岩なので、比較的軟らかな材質を切削できたのである。なお棺床上には現在水が溜っていて、外から投げ込まれた小石も認められる(220)。

220 石棺の盗掘孔からみた棺内の状況、棺底には水がたまり投げ込まれた石しか見えないが、蓋の内面のノミ跡が横縞状によく残っている