1号墳の遺物として注目すべきものは、石棺内から赤色顔料とともに発見された沓とみられる金銅製品であろう。惜しいことに破砕していたというが、黄色と青色のガラス玉を装着し、別に糸でつないで連条としたらしい同色のガラス玉も多数出土した。また純金製の耳環と金銅装単鳳の環頭大刀把頭の出土も注目すべきものである。土器は三群に分けて存在した。まず玄室の東壁中央に接して須恵器の杯・高杯・短頸壺と土師質のかまど形土器セット、また石棺に接した西壁には須恵器の杯・高杯・短頸壺・台付広口壺が置かれ、東側の袖部には須恵器の杯・高杯・甕・器台と土師質のかまど形土器セットなどが副葬してあった。
金銅装の環頭大刀は全国的に類例は多いが、石川谷周辺の後期古墳の出土としては珍しく、変形した竜体を表した鐶の内側に、単体の鳳頭を鋳造した雄健な金銅製品で、長さ約八センチの断片ながら優秀な遺物といえよう(225)。また土師質のかまど形土器セットは、高さ一五・六センチのかまどの模型を中心に、こしき・鍋・釜をかたどった小型の土製品を組み合わせた炊事用具一式のミニチュアである。もとより実用品ではなく、墓室の中に埋納する明器として作られた品物にあたる。従来の日本の墓制の下での社会習俗とは異なった戸を単位とする家族生活の象徴が、ここに登場してきたといえる点で大変面白い。