鹿谷寺址から西北方に約二キロ離れて、穴虫街道と近鉄南大阪線の走る山麓に、牡丹洞と称して南向きに大きく口を開けた洞穴がある(273)。中に入ると全面に凝灰岩の層が露出していて、いくつもの枝坑に分かれてなかなか奥が深く、至るところに長方形に採石した痕と、のみ痕とが認められる(274)。同様な痕跡は付近の凝灰岩が露出した崖面に見られるので、牡丹洞を含めてこの付近一帯は大規模な古代の石切場であったといえよう。地質学的な調査によると、前述した岩屋・鹿谷寺址と牡丹洞とは、二上山の西南麓をL字形に廻る「下部ドンズルボー層」で結ばれ、瀝青岩あるいは古く松香石と呼ばれた鉱物を産するという(森本良平ほか「二上山の地質」『地球科学』一一、一九五三年)。