3 千手院跡

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 嶽山の東南麓を龍泉集落から頂上に至る市道が通じている。それに面して現在龍泉寺駐車場が所在し、それに対峙する西側に富田林市水道局調圧水槽が位置している。当該部分は、先の絵図によると「千手院」に該当する場所で、昭和四九年二月から三月に、建設に先だち大阪府教育委員会によって発掘調査がおこなわれた。

 調査の結果、建物三・柵列二・溝二・土坑一の遺構と瓦器・土師器などの遺物が出土した。遺物は調査域全体から検出されたが、北側では丘陵の傾斜にともない遺構はみられず、東側の道沿いは道路建設にともなう撹乱をうけていた。以下、各遺構について記述する。

SB01建物

 南北四間、東西二間以上の礎石をともなう建物である。柱礎石は大半が抜き去られた後で、二〇~四〇センチの自然の花崗岩の根石が認められた。なお南北の柱間は二一〇センチ(七尺)、東西は二七〇センチ(九尺)である。遺物には、瓦器・土師器をはじめ、国産陶器、中国からの輸入磁器がみられるが、瓦の出土が少なく、瓦葺き建物の可能性は少ない。

SB02建物

 かつての道路建設によって大半が失われたとみられる建物である。SD04溝と、SD05溝によって囲まれた範囲に所在したとみられるもので、これらを雨落ち溝とみると、南北七メートル前後の建物が想定される。なお南西端に礎石の抜き跡がみられる。SB01と同様、瓦の出土が少なく、瓦葺き建物の可能性は少ない。なお中国銅銭(皇宋通宝・元豊通宝・嘉祐通宝―いずれも北宋)や国産陶器・瓦器・土師器・鉄釘などの遺物が出土している。

SB03建物

 調査範囲の南端で検出された礎石から推定されたもので、あるいはSA07の延長上にあたることから、SB01建物とSB02建物を閉鎖する施設の可能性もある。

SA07柵列

 調査地域の中央部を南北に境する柱列である。北側部分で直角に曲がって西側に連なっている。このことからSB01建物を取り囲む塀ないしは柵列であると考えられる。

SB04建物

 調査報告ではSA07柵列に交差するSA11柵列としたが、柱跡との関連などから、SB01建物の北に北西から東南方向の建物を想定する方が妥当という見解に至った。SB01建物との前後関係は、切りあいがみられないので明らかではないが、先のSA07柵列とそれに連なるSA08柵列との関係からみると、SB01・02建物、SA07・08柵列より後出段階の建物である可能性が濃い。なおSX10、SK06土坑は当該建物の時代に形成されたものとみてよいだろう。