8 満福院北坊

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 霊園の拡張工事にともなって発掘調査をおこなった部分から検出された建物および遺物である。従来の坊院建物の確認は一部分をかすめたという程度で、その実態にはせまることができなかったが、当該地域の検出建物は、比較的まとまっており、一定程度の想像が可能なものである。

 発掘調査の当初は、満福院北坊跡という本来地図にみられない名称を付していたが、地図を再度検討した結果、当該遺構が本来の満福院であることが明らかとなった。とくに同じ範囲を異なる年次に一部を重複して調査を実施し、建物の連続関係について不明な点のないように配慮した。

SB01建物

 南北一〇・八、東西九・四メートルをはかる建物である。柱間は四間×三間のほぼ長方形をなし、わずかに南北方向が長い。周囲には雨落ち溝とみられるSD02・3・4溝がめぐっている。またSD02溝の北、南にみられる柱穴から、当該建物にともなう庇のような施設が付属していたことがわかる。また入り口については、かつて北側と推定したが、建物が祭祀をともなうものであれば、逆の南に入り口が求められることになり、先の庇は、出窓状の施設にともなうものとなる。一方、方向に関係なく、遺構のみから判断すれば、北側の出入りがもっとも妥当であろう。いずれにしても伽藍中心部からは、一段下がった部分に構築された建物であり、ほかの坊院と同様に、祭祀施設とみない方がよいのかもしれない。なお当該建物は建て替えられることなく最終的には焼失したものとみられる。

SD02・3・4溝

 いずれもSB01建物を取り囲む溝である。とくに人為的に設置されたものではあるが、素掘りのままで、建物の軒下の雨落ち溝として供されたものと考えられる。

SK05土坑

 SB01建物内部から見付かっているが、明らかに建物廃棄後の遺構である。とくに何らかの祭祀をおこなう施設というようなものではなく、単にごみの処理に供された穴とみてよいだろう。SK06・07土坑についても同様であろう。内部から瓦の破片や土師器などが出土している。