大阪東南部、石川の中流域に位置する富田林は、地形と水利の面から見ると、三つの地域から成り立っている。第一は、金剛山麓の最も西の丘陵地域にあたる甘南備・龍泉・佐備村や別井村などであり、佐備川・東条川などを水源としている。第二は、石川右岸の低地と左岸の段丘上の地域であり、右岸には石川の水を利用する嬉・横山・伏見堂・彼方・板持・山中田・大伴村などがあり、大伴村は東条川の水も利用していた。また、左岸には錦郡・甲田・毛人谷・新堂・中野・喜志村などがあり、石川の水や西部の羽曳野丘陵にある溜池を利用していた。第三は、羽曳野丘陵にある錦郡新田・伏山新田・廿山・加太新田などであり、溜池に依存していた。溜池への依存は羽曳野丘陵の地域に限らず、富田林地方の全域にわたって丘陵地、段丘地には大小数多くの溜池が点在している。
以下、近世の富田林における灌漑水利について、各地域ごとに見ていくことにしよう。