天保の御料所改革

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天保一四年(一八四三)六月、上知令の発令や印旛沼工事など、重要政策の実施と前後して、「御料所改革」と称する幕府の強力な農村改革が実施になった。それは閏九月、水野忠邦の失脚とともに中止された。御料所改革は幕領の年貢増徴をその主たる内容としたもので、天保改革の諸政策に充てる資金の確保を目的とするものであった。この改革は当時、印旛沼工事、上知令、大坂御用金、海防の諸政策と一括して、「五カ条之新政」といわれていた広範囲の政治改革でもある。ところで、天保期の後半、天保九年(一八三八)から嘉永元年(一八四八)にかけて、摂河泉の幕領支配代官は、大きな異動があった。大坂谷町代官は天保一一年から、池田岩之丞が転出し竹垣三右衛門に代わり、大坂鈴木町代官には、弘化元年(一八四四)築山茂左衛門が武蔵・相模の代官となり、代わりに、設楽八三郎が就任した。近江大津代官の石原清左衛門は、天保一四年陸奥川俣へ転出し、都筑金三郎が着任している(村上直・荒川秀俊編『江戸幕府代官史料―県令集覧―』、『大阪府史』七)。大坂谷町代官竹垣三右衛門の役所には、すでに、一四年六月に上知令の通知をうけ、七月には御料所改革の申渡があった。竹垣三右衛門の支配地は摂津・河内・大和・播磨などにわたり、幕府の上知令の対象となる地域を含んでいたので、竹垣は上知の事務と御料所改革との二つの任務を同時に遂行し、鈴木町代官築山茂左衛門らとともに、もっとも多忙をきわめたのである。そこで、摂・河を中心に、七月下旬に定免年季明けの村々に検見を行う旨の勘定所の申渡が布達され、八月末から閏九月にかけての現地廻村に際しては、新田・切添等の検地高入や坪刈による免直しなどが行われた。しかも、上知令の中止の報を受けても検見等の廻村は一〇月下旬ごろまで継続したという(藤田覚「天保十四年御料所改革について」(『日本歴史』三六二))。市域に近い丹南郡岩室村の幕領庄屋の日記をみると、幕領の村々では検地同様のきびしい調査が、六月下旬より実施され、庄屋が本検地帳の書き抜きをつくり、六〇日以上を費して閏九月一七日、やっと大和穴虫村に宿泊の都筑金三郎代官に提出、三~四回も訂正したといわれる。そして、代官らは地押のため廻村したことがわかり、村々に強い不安を与え、実地見分のため収穫取入れが、大変おくれ、稲・木綿両作とも大不作であったと述べている(『狭山町史』二)。

 市域の幕領で近江大津代官の所領であった石川郡北大伴村と板持村とでは、天保一四年九月ごろに、支配領主の交代があり、石原清左衛門から都筑金三郎に変更になったらしい。両村とも、「其村々此度自分御代官所被仰付候間得其意・・・」という文言が見られる(北大伴三嶋家・東板持石田家文書)。支配代官の交代の結果、新代官からつぎのような村政改革の方針が触れ出されている。①農業に出精し、村高外の地や作付不能空地などは届出で、地所相応の年貢を納入すること。②天保一三年以来の改革政治で質素倹約を厳守し、衣食住万般にわたりその方針によること。③今回の御料所改革に沿い諸帳面類取調べ、新開、切添、切開の場所を申出る。④百姓の良好な風俗の維持と博奕と賭の諸勝負の禁止、⑤年貢米金銀納入は定められた期日を厳守、郷宿などより納入することは不可。⑥文政六年(一八二三)から天保一三年(一八四二)までの免状写、同四~一三年間の皆済目録写と村明細帳を提出する。⑦百姓間の公事は双方とも早く和解のこと。⑧村入用は無駄を省き勘定出入りを正確に設置し、小前百姓らの指弾なきよう努めること。⑨公用で代官・手代らの廻村のとき、先触以外に余計な人馬は不必要。宿泊所も普通のままでよい。食事は一汁一菜で人足賃は役所から給付すること。⑩代官所の手付・手代への贈物は厳禁。以上は天保期の御料所改革の重点として、全幕領を対象として耕地の収穫などの調査、定免年季明けの村の検見取、新田畑・低年貢地の年貢増、切開などの小規模な新田の掌握と、高外の土地への課税などによる貢租収入の増大をねらう方向が強調され、あわせて、天保改革の農村への布達一般の内容が、後半の条項を中心にふれられている。前述した具体的な改革の目標の上にたって村々では庄屋・年寄・百姓代と総百姓の連印でつぎの四項目につき厳守することを述べている。それは、①村内で居酒屋、湯屋、髪結床、大小研師拵の四種の職業は、五街道筋や在郷町以外では営業を認めない。②じょうるり、小唄、三味線は、座頭・瞽女(ごぜ)が在村する村々以外は、認めない。以上の条項のほかに北大伴村では、③村方出入一件が発生した直後であるので、村入用の勘定会計について、村役人らからその全貌を高札場などに公開掲示し、あわせて助郷人馬の村割当ての部分も、書き添えること、④孝行の者か、一〇〇歳以上の高齢者が在村のとき、申し出ることなどをつけ加えている。天保改革のときの御料所改革の一斑が、理解される(同上)。