廃藩置県の直後の明治四年(一八七一)七月二四日、政府は、租税規則を全国共通のものに改正すべきであるが、急に変更すれば民心を動揺させるおそれがあるので、本年は旧慣による旨を布達した。その上で、同四年九月、田畑勝手作を許可し、五年二月には田畑永代売買禁止令を撤廃するなど、税制改革の準備を進めた。五年四月、政府は、「地券渡方規則」を制定し、納税義務を負う土地所有者を確定するために地券を交付することにした。初めは売買譲渡される土地だけに交付することになっていたが、七月にはすべての土地に交付することに改められた。八月、堺県では「従来所持之田畑山林」に地券を交付するので、雛形に従って「地券願書」を地主一人に二通ずつ作成し、村ごとにまとめて早急に提出するよう命じ、五年九月末までにできない時は、あらかじめその事情を届け出るように指示している(『堺県法令集』一)。雛形では、田畑については、国郡村名・地番・字・地目・石高・地代金を列挙し、最後に田・畑ごとに集計し、「右之通相違無御座候間、地券御下渡被下度、此段奉願候」と願い出ることになっていた。しかし、同年九月、「地券渡方規則」が改正され、田畑の区別が廃止されすべて耕地と改められ、石高を廃して反別を用いることになった(以上『堺県法令集』一)。龍泉(りゅうせん)村では、五年一一月、これに従って、一部の土地の「地券願書」(岸之本谷口家文書「地券御願書」)を作成している。山林については、国郡村名・字・地形・反別・立木有無・地代金を列挙することになっているが、龍泉村の場合は反別がなく、境目として四至(しいし)が記されている(同「地券山林御願書」)。
県では「地券願書」と図面を照合して受理するが、後で誤りが発見されることが多かった。そこで六年四月、堺県は、まだ「地券願書」を提出していない村に対して、地券作成に従事した計算に堪能な者を、提出時に同伴するように通達した(『堺県法令集』二)。龍泉村では、六年五月に「地券願書」をまとめて提出しているが(岸之本谷口家文書「山林地券御願書」)、それには、五年八月の雛形どおりに国区郡村名・地番・字・地目・反別・石高・地代金が記されている。地目・石高は旧来のものを踏襲するが、反別は検地帳に記されたものではなく実反別を書くことになっていた。地代金は、堺県では地主が申告したものの適否を戸長が取り調べ、区長が再調査して提出することになっていた(『堺県法令集』一)。「地券願書」の提出は、はかどらなかったようで、堺県地券掛が回村して督励することになった。第二十九区では、六年五月二四日から六月一〇日にかけて回村が行われ、ようやく全村の「地券願書」が提出されることになった。回村にあたっては、村々の質疑にも応じたようで、「今般河村庄八・平井四郎次両人差向候条、懇切疑問之儀も有之候ハヽ打合成功ヲ遂」(新堂平井家文書「地券遅延ノ村々取調廻村順書上」)と通達している。龍泉村の「地券願書」も、この時に提出されたものと思われる。
市域の他の村々でも、龍泉村同様、明治五年と六年に「地券願書」を提出したようである。この時交付された地券は、地租改正以後の地券と区別するため、「地券渡方規則」が制定された明治五年が壬申(じんしん)の年に当たるのにちなんで「壬申地券」と呼ばれている。現市域のうち錦部郡の壬申地券に記された反別・地価の組ごとの集計は、表7のとおりである。なお、明治七年に堺県下で作成された「一村限取調帳」には、地券反別・実地反別・新反別・反別などと記されたものと、旧反別・元反別・本反別などと記されたものと二種類の耕地反別が併記されている。前者がこの地券調査による耕地面積、後者が検地帳記載の耕地面積であると思われる。壬申地券には、「方今適当ノ地価」(『法令全書』)が記載されることになっていたが、ただちにこの地価を基準にして地租を徴収するのではなく、全国の地価を総合した上で、これを参考にして新しい税法を定めることになっていた。ところが地価の算定は困難を極め、地券の交付は予定どおりにはかどらなかった。大蔵省では、収穫高あるいは小作料高から全国統一的に地価を算定する方法を採用することになり、壬申地券の交付が完了しない段階で、全国の府知事県令を集めて地方官会議を開き、地租改正法案を提案し可決された。
1番組 | 2番組 | 3番組 | ||
---|---|---|---|---|
旧高 | 1,752 石 4 斗 5 升 8 合 4 勺 | 2,289 石 5 斗 7 升 0 合 1 勺 | 1,970 石 3 斗 9 升 6 合 | |
地券反別 | 160 町 1 反 1 畝 10 歩 4 厘 | 225 町 4 反 2 畝 8 歩 5 厘 2 毛 | 223 町 0 反 9 畝 28 歩 | |
内 | 田 | 128.4.3.20.7 | 123.3.9.8.5.2 | 132.5.0.7 |
畑 | 19.5.8.10 | 70.1.6.3 | 36.8.7.7 | |
屋敷 | 5.2.7.17.7 | 7.9.1.10 | 7.0.7.8 | |
山 | 5.9.4.2 | 46.1.7.11 | ||
山林 | 15.2.5.15 | |||
池 | 8.7.20 | 8.7.0.12 | 4.7.25 | |
地価 | 21,470 円 50 銭 4 厘 | 34,517 円 61 銭 2 厘 3 毛 | 26,751 円 0 銭 2 厘 1 毛 | |
公有地 | 12 町 7 反 7 畝 20 歩 | 29 町 2 反 9 畝 29 歩 | 6 町 6 反 5 畝 7 歩 |
注1)1番組 錦郡村・錦郡新田・伏山新田
2番組 新家村・甲田村・加太新田・廿山村
3番組 板持村・彼方村・伏見堂村・横山村・嬉村
2)「旧高地券反別聯合惣計取調帳」(近代Ⅱの二)より作成。