南河内郡の成立

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大阪府の郡制は、明治三一年(一八九八)六月一日に施行され、郡は地方自治体としての性格を有することになり、議決機関として郡会が設けられた。郡役所は引き続き富田林村に置かれ、郡長も深瀬和直が留任し、職員は表56のとおりであった。郡会議員は、各町村会で選挙される町村選出議員と大地主選出議員とからなり、町村選出議員の定員は各郡二〇人、任期は六年で、三年ごとに半数を改選することになっていた。郡内町村の公民は、すべて選挙権を有し、無記名投票であった。原則として各村一人を選出するが、南河内郡の村数は四九か村であるから、人口を標準として二、三か村を組み合わせて一人を選出することになった。その選挙区域は表57のようである。選挙は六月一五日に実施されたが、農繁期ということもあって低調で、特に合併町村の投票率は悪かったようである。大地主選出議員の任期は三年、その資格は地価一万円以上を有するもので、南河内郡の該当者は三一人であったが、町村選出議員の三分の一を超えることはできないことになっていたので、七月一日に郡役所で互選会が行われた(『大阪朝日新聞』明治31・4・26、6・1、6・25)。七月二二日に臨時郡会が開かれ、郡会議長代理者に中野新十郎(大地主議員)、郡参事会員に田中源太郎・乾倉次・田中彦太郎を選出した(『大阪朝日新聞』明治31・6・23欄外)。翌三二年三月、郡制の改正によって大地主議員は廃止され、町村選出議員も四年任期の全員改選と改められ、南河内郡の定員は三四人と定められた。選挙は九月三〇日に行われたが、選挙区・当選者は表57・58のとおりである。

写真71 明治32年 郡会議員当選通知 (杉山家文書)
表56 南河内郡役所職員
職種 氏名 推定俸給
郡長 深瀬和直 年俸800円
書記 杉田善作 8級俸
泰正真 8級俸
奥田多賀雄 7級俸
阪野延重 7級俸
平井専一郎 8級俸
中村正純 9級俸
千谷猛馬 10級俸
藤田辰治郎 10級俸
高辻保 月俸11円
喜田亀太郎 月俸9円
梅川増太郎 月俸8円
矢野栄三郎 月俸8円
西村亀三治
古川末吉
平田克巳
成川静太郎
乾徳太郎
杉山保三

注)八尾市立歴史民俗資料館所蔵旧深瀬家文書より作成。

表57 明治31年郡会議員選挙区
町村名 人口 人口計
富田林町 3,108 6,495
新堂村 3,387
喜志村 2,178 4,365
石川村 2,187
磯長村 2,296 4,370
山田村 2,074
白木村 1,935 5,585
河内村 1,229
中村 2,421
赤阪村 2,023 4,459
千早村 2,436
大伴村 2,293 4,308
東条村 2,015
廿山村 1,803 5,317
錦郡村 1,698
彼方村 1,816
市新野村 1,698 6,193
長野村 2,459
三日市村 2,036
川上村 1,514 4,446
天見村 1,562
加賀田村 1,370
高向村 2,397 4,616
天野村 2,219
狭山村 3,035 5,559
平尾村 2,524
三都村 2,654 6,321
野田村 2,224
大草村 1,443
金岡村 3,127 5,564
北八下村 2,437
日置荘村 1,639 5,399
南八下村 2,221
丹南村 1,539
黒山村 2,032 6,321
丹比村 2,207
埴生村 2,082
高鷲村 1,793 5,248
藤井寺村 1,834
小山村 1,621
西浦村 2,228 5,490
古市村 3,262
駒ケ谷村 2,168 6,046
玉手村 986
国分村 2,892
道明寺村 4,184 6,526
柏原村 2,342
太田村 1,876 4,541
志紀村 2,665

注)『明治三十年大阪府南河内郡役所統計書』より作成。

表58 明治32年郡会議員選挙区
町村名 郡会議員 人口 人口計
富田林町 田守三郎平 3,108 3,108
新堂村 高井幸次郎 3,387 3,387
喜志村 阪井種治 2,178 2,178
大伴村 杉山九右衛門 2,293 2,293
石川村 竹綱荘太郎 2,187 4,122
白木村 1,935
磯長村 吉村駒三郎 2,296 4,370
山田村 2,074
河内村 1,229 3,650
中村 長澤頼三 2,421
赤阪村 2,023 4,038
東条村 道籏才蔵 2,015
千早村 豊田広作 2,436 2,436
川西村 岩根猪五郎 1,803 3,619
彼方村 1,816
錦郡村 1,698 3,396
市新野村 田中仁平 1,698
長野村 西條與三郎 2,459 2,459
天野村 西端喜之治 2,219 2,219
高向村 辻松治郎 2,397 2,397
三日市村 2,036 3,406
加賀田村 田中為吉 1,370
天見村 中谷楠太郎 1,562 3,076
川上村 1,514
金岡村 吉村敏雄 3,127 3,127
南八下村 2,221 3,760
丹南村 森繁次 1,539
北八下村 織田郁三郎 2,437 2,437
古市村 奥野轟 3,262 3,262
駒ケ谷村 真銅住太郎 2,168 3,154
玉手村 986
西浦村 乾正一 2,228 2,228
国分村 柘植三悦 2,892 2,892
狭山村 澤田精雄 3,035 3,035
三都村 山本信治 2,654 2,654
野田村 井上幾太郎 2,224 3,667
大草村 1,443
黒山村 柳本喜市郎 2,032 3,671
日置荘村 1,639
平尾村 杉田良蔵 2,524 2,524
丹比村 小池伝平 2,207 2,207
埴生村 山上浅太良 2,082 3,875
高鷲村 1,793
藤井寺村 岡田寿一郎 1,834 3,455
小山村 1,621
道明寺村 松永森太郎 4,184 4,184
柏原村 小山玄松 2,342 4,218
太田村 1,876
志紀村 林繁作 2,665 2,665

注)八尾市立歴史民俗資料館所蔵旧深瀬家文書より作成。ただし人口は表57と同じ。

 郡は課税権を持たず、郡制が施行されても収入の大部分を町村の負担金に頼っていた。表59は富田林村外四十九ヶ村組合と南河内郡の各村の負担金である。二九年度富田林村外四十九ヶ村組合の負担金は、地価割一〇分の五、戸数割一〇分の五の割合で賦課され、南河内郡の町村分担金は前々年度の直接国税府税徴収額を基準に賦課された。富田林村外百八十五ヶ村聯合会の二一年度予算は一三一六円九七銭五厘で、すべて各村分担することになっていた。明治二九年度富田林村外四十九ヶ村組合の町村負担金(組合町村税)は、富田林村外百八十五ヶ村聯合会の明治二〇年度予算四六九円六三銭六厘を上回っているが(富田林市所蔵文書「富田林村外百八十五ヶ村聯合会議事録」)、三二年度の南河内郡の町村分担金は、その四倍になっている。町村分担金は、明治三九年度には若干減少するものの、四三年度には二倍になり、大正三年(一九一四)には二・四倍、五年には二・八倍と急増している。明治三七年第二一回帝国議会以降、郡制廃止が議会でしばしば問題になる一因は、このような負担の重さにあった。第一次大戦後、郡の財政規模が著しく膨張するが、歳入の六〇%は町村分担金で占められ、明治三二年の一七倍余に達している。

表59 各町村の負担

単位:円

村名 明治29 明治32 明治39 明治43 大正3 大正5
富田林 12.432 41.910 54.569 187.096 290.428 352.090
新堂 17.985 65.503 52.349 132.244 150.009 172.310
喜志 12.581 51.189 40.203 103.083 116.278 141.250
大伴 11.735 45.002 32.199 82.245 102.318 123.120
石川 10.837 39.384 30.522 80.110 94.509 110.640
磯長 14.726 60.893 45.514 116.588 132.402 155.830
山田 12.069 39.542 31.226 78.859 85.414 103.140
白木 12.051 51.478 39.719 98.497 113.720 133.600
河内 5.570 17.644 14.103 34.720 41.284 59.400
13.321 53.183 42.321 104.506 120.873 144.800
赤阪 10.840 44.183 35.129 87.204 104.014 129.090
千早 9.925 26.442 27.844 72.931 114.534 116.850
東条 12.513 50.049 37.354 95.384 108.030 126.030
廿山 12.304 56.710 44.222 109.912 124.366 145.300
錦郡 11.244 49.033 37.864 91.699 101.593 122.510
彼方 12.893 58.703 44.823 117.113 137.068 166.700
市新野 11.470 50.451 39.403 97.767 114.180 132.290
長野 13.743 58.771 51.984 130.024 304.411 339.510
天野 13.005 55.694 40.258 102.660 119.048 139.090
高向 11.083 42.840 35.814 89.601 101.841 119.770
三日市 10.470 40.572 33.019 79.804 98.469 121.090
加賀田 7.382 25.788 21.822 54.257 64.171 71.630
天見 7.388 23.887 19.060 47.815 58.485 66.430
川上 7.245 24.943 23.339 55.073 96.842 72.190
金岡 28.243 134.236 101.271 247.356 283.894 328.700
南八下 16.662 73.055 56.039 140.180 158.495 182.430
北八下 20.394 103.056 76.676 190.269 217.294 260.120
古市 18.799 77.543 61.396 177.294 184.678 218.970
駒ケ谷 12.645 51.352 37.166 102.749 116.084 149.460
西浦 14.636 62.393 47.960 119.729 137.705 166.130
国分 13.665 46.936 34.999 90.680 103.993 124.350
玉手 6.188 26.275 19.283 47.013 54.322 65.260
狭山 19.118 80.765 60.710 148.335 166.239 216.220
三都 12.883 51.168 39.661 95.744 110.819 129.280
大草 6.269 20.753 16.097 37.931 41.407 50.500
日置荘 11.202 48.311 42.785 94.024 104.099 127.550
野田 13.306 54.165 42.980 106.943 121.066 145.910
平尾 15.654 64.756 48.451 116.376 132.922 158.670
黒山 14.938 70.396 54.021 137.643 151.486 178.470
丹南 10.792 47.637 36.693 93.689 101.968 124.670
丹比 13.995 57.052 42.612 106.188 120.989 140.640
埴生 10.958 44.701 37.217 90.599 96.966 103.800
高鷲 12.157 55.593 41.210 104.465 121.036 142.450
藤井寺 12.227 55.306 45.964 117.234 134.677 298.670
道明寺 21.447 83.185 67.170 166.306 188.767 224.040
小山 11.144 48.333 37.684 95.158 109.865
柏原 11.734 44.596 40.428 104.888 141.211 173.190
太田 12.800 52.683 41.241 103.297
三木本 10.654
志紀 18.178 89.420 69.980 171.718 194.731 225.640
合計 645.500 2617.460 2074.354 5255.000 6189.000 7299.780

注)明治29年は美原町檀野家文書「組合書類」、32年は山中田杉山(三)家文書、43年は富田林杉田家文書、明治39・大正3・5年は千早赤阪村伏井家文書の各「郡会議案」、大正9年は富田林市所蔵文書 錦郡村「議事書類綴」より作成。