第一次世界大戦後の大都市大阪の発展は目覚ましく、周辺の郡村にも大きな影響を及ぼした。表62は、富田林市域と府下市郡の人口の変遷である。大正元年(一九一二)は、国勢調査実施以前で統計の基準が異なるので正確な比較は困難であるが、趨勢(すうせい)をうかがうことはできる。大正前期は、大阪市周辺の諸郡の人口は微増しているが、隣接していない南河内・泉北・泉南の三郡の人口は若干の減少がみられる。大正後期になるとすべての郡が増加に転じ、なかでも中河内・三島・豊能(とよの)の三郡の人口増は大阪市に比肩し、昭和期に入ると大阪市の増加率を上回ることになり、郊外住宅化の進展を物語っている。その中にあって南河内郡は、大正後期も人口がほとんど増えず、昭和になっても停滞しており、人口動態からみる限り、都市化の進展に取り残されていたといえる。本市域に限ってみれば、大正前期には富田林町と川西村で若干の増加がみられ、錦郡・彼方(おちかた)・新堂村は停滞し、他の諸村はむしろ減少している。大正後期は、富田林町を除けば人口の停滞が続き、新堂・東条・川西村はやや減少しており、昭和期に入っても人口の停滞は当分続くことになる。このように本市域は、南河内郡の中でも都市化の影響の少ない地域だったといえる。
市郡町村 | 大正元年 | 大正9年 | 大正14年 | 昭和5年 | |||
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人口 | 人口 | 増加率 | 人口 | 増加率 | 人口 | 増加率 | |
人 | 人 | 人 | 人 | ||||
富田林町 | 3,553 | 3,618 | 1.02 | 4,344 | 1.20 | 4,470 | 1.03 |
新堂村 | 3,833 | 3,709 | 0.97 | 3,662 | 0.99 | 3,859 | 1.05 |
喜志村 | 2,425 | 2,229 | 0.92 | 2,353 | 1.06 | 2,483 | 1.06 |
大伴村 | 2,699 | 2,248 | 0.85 | 2,274 | 1.01 | 2,429 | 1.07 |
東条村 | 2,044 | 1,826 | 0.89 | 1,802 | 0.99 | 1,862 | 1.03 |
川西村 | 1,821 | 1,939 | 1.06 | 1,924 | 0.99 | 2,015 | 1.05 |
錦郡村 | 1,682 | 1,676 | 1.00 | 1,732 | 1.03 | 1,827 | 1.05 |
彼方村 | 2,096 | 2,091 | 1.00 | 2,160 | 1.03 | 2,119 | 0.98 |
大阪市 | 1,596,564 | 1,768,295 | 1.11 | 2,114,804 | 1.20 | 2,453,573 | 1.16 |
南河内郡 | 114,199 | 112,282 | 0.98 | 118,500 | 1.06 | 128,892 | 1.09 |
中河内郡 | 117,410 | 123,166 | 1.05 | 146,194 | 1.19 | 188,935 | 1.29 |
北河内郡 | 85,415 | 86,508 | 1.01 | 95,853 | 1.11 | 107,917 | 1.13 |
三島郡 | 81,474 | 81,976 | 1.01 | 97,665 | 1.19 | 119,396 | 1.22 |
豊能郡 | 54,474 | 63,441 | 1.16 | 78,349 | 1.23 | 95,537 | 1.22 |
泉北郡 | 112,611 | 109,604 | 0.97 | 124,503 | 1.14 | 139,690 | 1.12 |
泉南郡 | 137,541 | 121,876 | 0.89 | 142,406 | 1.17 | 150,627 | 1.06 |
注1)大正元年は『大阪府全志』1より作成。大阪市は東成・西成郡を合算した。
2)大正9年以後は昭和5年『国勢調査報告』4より作成。
しかし、人口の増加傾向が顕著でないからといって、村政が都市化の影響を受けなかったのではない。大正一二年二月、錦郡村では助役を二人に増員する案が村会に提出され可決されるが、その提案理由は次のように述べている(錦郡村「議事書類綴」)。
近時世運ノ進歩ニ伴ヒ年ト共ニ事務ノ増加ヲ来タシ、加フルニ本村内ニ大阪、南海高野線両鉄道ノ停車場設置以来、都市トノ交通利便ナル為メ年々人口住宅増加セル而已ナラズ、富田林町外六ヶ村組合伝染病舎ノ設置アリテ、其事務并(ならび)ニ学校組合ノ事務等ノ管理モ本村長ニ嘱託セラレ、益々事務ノ繁多ヲ来シタルヲ以テ書記ノ増員ヲ計リタルモ、近時相当ノ素養アル者ハ多クハ職ヲ都市ノ銀行、会社等ニ求メ町村行政事務ニ従事務<ママ>ニ従事スルヲ欲セズママ>
鉄道の開通によってわずかではあっても新しい住民が増え、村民が都会に職業を求め通勤できるようになれば、村政もそれに対応しなければならなかった。