富田林町の新事業

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大正一五年(一九二六)一二月、富田林町では杉田善作町長が病気のために辞任し、助役の北野忠治が第六代町長に就任した。一か月後の昭和二年一月三〇日付『大阪時事新報』には、「富田林の火葬場移転漸く具体化す」との記事が掲載されていて、「近時同町がだん/\発展するに伴ひ、同火葬場が人家に接近してきてその移転の急に迫られてきた」と記し、町当局は「過般主務当局に之れが移転費一万円の低利資金の借入方を申請すると同時に、該移転候補地の物色に努めてゐる」と報じていた。富田林町は、この年の暮れに、火葬場改築を含む新しい事業計画を発表していて、二年一二月七日付『大阪朝日新聞』朝刊は、「富田林町の新事業」の見出しで、次のように報じている。

大阪府南河内郡富田林町では、既報のとほり道路、下水、火葬場新改築のため予算不足額四万円の町債を起債することになつたが、この計画内容は左の如く決定した。

道路改新築事業―(一)学校前駅より堺筋に至る幅員三間、長さ百九十二間の新設。(二)古御坊より稲葉に通ずる幅員二間長さ百七十間の改修新設。(三)富田林より深に至る幅二間長さ百十間の改修新設(この工費三万一千一百円)。

下水道改良事業―町の中央部より東西に貫通、石川へ注ぐ幹線を幅員五尺高さ六尺の鉄筋コンクリート暗渠(あんきよ)式に改築しこの延長二百間、ほかに支線も改良(この工費一万八千円)。

墓地火葬場改築―墓地の整理を行ひ、新式の火葬釜五個を新設(この経費一万円)。

なほ各項にわたる設計はすでに完成したので、遠からず工事に着手の予定である。

 右の新事業計画は、大正後期における富田林町の発展に対応したかたちで立てられたものであった。同町では起債のうえ、早々に着手し完工する予定であったが、道路用地の買収にともなう昭和三年(一九二八)暮れの町議会の紛糾と翌四年初めの町長辞任に続いて、五年秋には同町歳計現金預け入れ銀行である富田林銀行が破綻休業したために、この事業計画の実施は大幅に遅れることとなった。

 表75は、富田林町の歳入決算額の内訳を示したものである。昭和六年度の同町の歳入総額は、七万一二二一円九〇銭であった。このうち、繰越金が三万七六一八円五九銭となっていて、歳入総額の五二・八%も占めていた。同年度予算では、繰越金は五〇一四円となっていたから、繰越金の決算額が予算よりも三万二六〇〇円も多かったことになる。この著しい予算額と決算額の差について、昭和六年度の「富田林町歳入歳出決算書」(富田林町「町会会議録綴」)は、「曩(さき)ニ休業セル町歳計現金預入銀行ノ和議法ニヨル和議成立ニ付、預入金払出ノ制限アルニヨリ、已ムナク計画セル事業ヲ遂行スルヲ得ザリシニヨル」と説明していた。「計画セル事業」とは、「墓地火葬場改築、下水道改良並ニ道路新設」であった。前に挙げた新聞記事では、この事業のための起債額は四万円と報じられていたが、富田林町は必要起債額を三万五〇〇〇円と決定し、これを日本勧業銀行から借り入れていた。同町は、この借入金のほとんどを昭和五年度の歳出として、六年中に支出してしまうことにしていた。ところが、現金預け先の富田林銀行が破綻したために計画事業が実施できず、五年度(実際には六年中)に支出してしまうはずの金額が、六年度の歳入決算の繰越金として残った。

表75 富田林町の歳入内訳
昭和6年度 昭和7年度 昭和8年度
円 銭 円 銭 円 銭
財産より生ずる収入 413.42 0.6 300.36 0.4 325.23 0.5
使用料及び手数料 3,256.70 4.6 3,121.10 4.2 3,388.20 5.1
交付金 1,071.32 1.5 792.46 1.1 699.15 1.1
国庫下渡金 5,115.13 7.2 5,324.32 7.2 5,236.41 7.9
国庫補助金 6.73 0.0 607.31 0.8 631.21 0.9
府補助金 1,028.12 1.4 3,647.27 5.0 1,036.79 1.6
寄付金 688.85 0.9 1,102.96 1.5 1,618.53 2.4
繰越金 37,618.59 52.8 33,899.23 46.0 28,555.39 43.1
雑収入 1,118.97 1.6 114.56 0.2 121.42 0.2
町税 20,904.07 29.4 24,751.38 33.6 24,649.30 37.2
総計 71,221.90 100.0 73,660.95 100.0 66,261.63 100.0

注)「富田林町歳入歳出決算書」から作成。

 破綻休業した富田林銀行の債権者会が開かれたのは昭和六年七月であり、和議が確定したのは同年一二月であった。富田林銀行の払い出し制限は、七年八年と続きその結果、富田林町の歳入総額に占める繰越金の百分比は七年度四六%、八年度四三%という高い数値を示した。ただし、年額五〇〇〇円程度の預金引き出しが可能となったので七年度と八年度には火葬場の改築が実施され、両年度とも火葬場営繕費二〇〇〇円が支出された(表76)。昭和八年の「富田林町事務報告」(富田林町「町会会議録綴」)には、「墓地火葬場ハ大半工事終リ、昭和九年度ニ於テ完成スル見込ニテ、之ガ完成ノ暁ハ衛生上万事遺憾ナキモノト認ム」と記されている。なお、これと並行して、不況下の農村振興土木事業と重なるかたちをとりながら、かねて計画の道路の改修新築に着手したようである。

表76 富田林町の主な歳出費目と決算額
昭和元年度 昭和6年度 昭和7年度 昭和8年度
経常部 円銭 円銭 円銭 円銭
役場費 9,294.31 22.4 9,043.39 24.2 9,952.08 22.1 9,813.55 21.9
土木費 824.13 2.0 427.37 1.1 599.78 1.3 966.69 2.2
小学校費 14,997.44 36.2 15,292.42 41.0 15,741.56 35.0 16,388.35 36.6
青年訓練所費 384.50 0.9 767.98 2.1 792.36 1.8 816.18 1.8
幼稚園費 1,584.18 3.8 1,713.00 4.6 1,747.44 3.9 1,801.89 4.0
裁縫女学校費 1,159.99 2.8
伝染病予防費 1,333.34 3.2 89.32 0.2 164.07 0.4 108.08 0.2
汚物掃除費 1,145.98 3.1 1,179.65 2.6 1,195.41 2.7
火葬場費 126.68 0.3 1.38 0.0 3.81 0.0
公設市場費 430.52 1.0 430.44 1.2 573.97 1.3 474.34 1.1
勧業諸費 120.00 0.3 60.00 0.2 60.00 0.1 60.00 0.1
警備費 486.46 1.2 254.55 0.7 398.62 0.9 195.22 0.4
基本財産造成費 1,663.00 4.0 690.57 1.9 596.00 1.3 604.00 1.3
財産費 137.57 0.3 175.59 0.5 175.59 0.4 175.59 0.4
諸税及び負担 1,157.09 2.8 737.65 2.0 738.55 1.6 681.62 1.5
その他 458.97 1.1 398.15 1.1 359.23 0.8 375.20 0.8
34,158.18 82.5 31,227.79 83.7 33,082.71 73.6 33,656.12 75.2
臨時部 土木費 1,603.88 4.3 5,084.47 11.3 2,989.82 6.7
公債費 6,159.22 14.9 3,502.83 9.4 3,513.03 7.8 3,358.44 7.5
補助金 1,100.00 2.7 961.57 2.6 1,030.53 2.3 1,721.89 3.8
火葬場営繕費 2,000.00 4.4 2,000.00 4.5
陸軍特別演習関係費 164.45 0.4
上水道敷設調査費 1,000.00 2.2
その他 26.60 0.1 70.04 0.2 30.00 0.1
7,259.22 17.5 6,094.88 16.3 11,862.52 26.4 11,100.15 24.8
総計 41,417.40 100.0 37,322.67 100.0 44,945.23 100.0 44,756.27 100.0

注)「富田林町歳入歳出決算書」から作成。