昭和二九年(一九五四)三月一日、マーシャル諸島のビキニ環礁でアメリカが水爆実験を行い、東方約一六〇キロの海域で操業中であった静岡県焼津港の漁船・第五福竜丸(一四〇トン)がその実験に遭遇、放射能をあびるという事件が起きた。
この実験で被爆した乗組員二三人は、目が痛み、皮膚は火傷し、食欲不振・嘔吐・下痢・頭痛などの症状を訴えた。そのうちの一人、無線長であった久保山愛吉は、国立東京第一病院で、九月二三日死去した。
また、静岡県焼津港に水揚げされたマグロなどからも、放射能が検出され、そのうちの二三本が、大阪中央市場に入荷された。富田林中央青魚卸売市場にも、その中の一本が卸され、その一部を市内の三軒の魚屋と南河内郡磯長(しなが)村(現太子町)の一軒の魚屋が購入した。しかし、富田林市民が原爆マグロの事実を知ったのは、マグロが市場に出まわった後で、すでに二〇〇人以上の人が食べてしまっていた。市衛生課の広報車は、原爆マグロを売った業者名を連呼しながら、「マグロを食べた人は保健所の健康診断を受けるように」と呼びかけた。結局、検診を受けた一五九人のうち五一人の白血球が下がっていることがわかり、市保健所ではビタミンB12の無料注射などの治療を行った。また、売れ残りのマグロはすべて業者から引き上げられ、地中に埋められた。
この原爆マグロの騒ぎで、市内の魚屋の客足は激減し、なかには「当店は原爆マグロに関係ありません」というビラを張り出す店も出たが効き目なく、また、市の広報車が原爆マグロを売った業者名を連呼してまわったので、富田林中央青魚卸売市場の代表者は、「原爆マグロを売った店名をはっきり宣伝して歩いたあと、食べた人に確かな処方も指示せずにいるのは、皆を不安にするうえ、われわれ業者の営業を侵害する」と抗議した。
五月に行われた臨時議会では、仲谷健一議員より原水爆禁止に関する決議案の緊急提案がなされた。
緊急に提案して申し訳ありません。
本件に関しましては説明するに及ばないものと思います。
かつては三月の市会中に衛生課長より原ばくマグロの報告があり我々も不安に思います。かえりみまするに放射能の雨が降っておる昨今、私も以前は少々の雨でも、かさをもたずに出勤いたしておりました。新聞紙上には飲料水にも放射能が含まれており、顔を洗った為に失眼したという例もあります。我々日本人は、こういった恐怖に脅かされている事は日本人のみでなく全世界掲げてこれに反対すべきであります。かかる意味からいって原爆マグロの被害の第一線にあたる本市として、これを禁止するよう又被害に対する保証等を決議し強く政府にあたるべきだと思います。府下でも布施市等もすでに決議しております。
決議案に右政府に要請するということで御了解ねがいます。
以上簡単ですがよろしくお願いいたします。
この時、提案された原水爆禁止に関する決議案は、満場一致で議決された。