宅地造成事業指導要綱

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このような急激な開発による人口増は市勢の発展を示しているが、同時に環境整備や教育などに関する莫大な量の公共施設を市が背負い込まねばならないことを意味している。これは富田林市だけでなく、同じような状況に出合った当時の多くの自治体の悩みの種であった。昭和四二年(一九六七)五月、兵庫県川西市は「川西市住宅地造成事業に関する指導要綱」を施行した。これは「川西方式」とよばれ、全国各地の自治体に波及した。四九年までに、二五〇余の自治体が同種の要綱を定めた。この現象は、高度経済成長のあおりを受けた自治体の苦闘をあらわしていた。

 昭和四三年一〇月一日、富田林市も「川西方式」にならって、民間業者による無計画な宅地開発を規制するために、開発に一定の基準を設けた「富田林市住宅地造成事業等に関する指導要綱」を施行した。

 全文一九条から成るこの要綱によって、住宅地造成事業者が富田林市の行政区域内において〇・五ヘクタール以上の住宅地を造成する場合、監督官公庁に許認可の申請をする前に市長に申し出て、指導・承認を受けることが義務づけられた。〇・五ヘクタールというと、約七〇メートル四方、二、三〇戸程度の分譲住宅団地の大きさに当たる。この程度のかなり小規模な宅地造成をも対象とし、府など他の官公庁の許認可よりも、市の指導・承認が先であるとの地元優先の原則を明記した。

 民間のディベロッパーは宅地を造成して売るだけに専念し、あとの始末はすべて地方自治体が行うという従来の常識を打ち破り、業者に相応の後始末を課した画期的な要綱であった。主な内容は次のとおりであった。

(1)造成地内の道路、上下水道、広場、緑地、水路、消防用貯水施設は業者が負担する。

(2)保育所、幼稚園、小・中学校、公民館、消防署など公共施設は市と協議のうえ、業者の負担で設置し、市に寄付、または譲渡する。

(3)新設または改良する道路は業者の負担で舗装する。

(4)造成地内のため池は緑地または公園として整備、保全する。

(5)造成地内の文化財は保存につとめる。

(6)造成事業によって被害が生じた場合の補償の責は業者が負う。

 羽曳野丘陵を中心に、市内一帯への住宅誘致によって、大規模で近代的なまちづくりに励んできた富田林市は、ついに民間ディベロッパーによる乱開発を規制しなければならなくなったのである。