住民同意規定

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無秩序な開発行為を防止することを目的とした富田林市開発指導要綱は、市民の住環境を守る役割を果たすことになった。たとえば、高さ一〇メートル以上の中高層建築物の開発者は「建築物の設計に先だって日照について影響をうける附近住民の同意を受けなければならない」との第一六条の規定などは大きな意味を持つ。日照侵害については、近隣住民の同意が必要であると明記されたのである。

 昭和五四年(一九七九)四月一日施行の大阪府の日影条例は、中高層建築物が出す日影を一定基準のもとに規制し、日照条件の悪化を防ぐとともに、間接的には通風・採光・プライバシーの保護を図り、良好な居住環境を保つことを目的としていたが、富田林市など自治体の動きの積み重ねがこのようなかたちで実を結んだといえよう。同時期、近隣の松原市・羽曳野市・河内長野市などでも、開発指導要綱がつくられているのである。

 なお、富田林市開発指導要綱における公害と日照侵害に関する条文の変化を次に記しておこう。

 昭和四八年一二月一日施行の開発指導要綱には、第一〇条の「開発者は、開発(建築)事業に起因する公害は、いかなる場合においても発生防止につとめなければならない」との公害防止規定と、第一六条の日照に関する前述の近隣住民同意規定が存在した。これが五二年一一月一日施行の改正によって、第一〇条には「開発者は、公害の発生が予想される開発(建築)行為については、附近住民の同意を得たのち施行しなければならない」との公害についての住民同意規定が付け加えられた。そして、第一六条の日照についての住民同意規定はそのままであった。公害対策基本法(環境基本法)に規定されている七公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)と事実上は公害である日照侵害に関する近隣住民同意規定が存在することになった。このことは、日本の公害問題の歴史のうえで注目すべきことである。

 開発指導要綱は昭和五六年四月一日施行の改正によって、第一六条の日照についての規定は「開発者は、建築物の設計に先だって日照について影響をうける附近住民等と必要な調整をはかっておくものとする」となった。「附近住民の同意」が「附近住民等と必要な調整」へと大きく後退した。次いで昭和六二年一月一日施行の改正によって、公害防止の第一〇条で開発者は「やむを得ない公害の発生が予想される開発(建築)行為については、説明会等を通じて関係者と必要な調整を行ったのち施行するものとする」となった。こうして、一般公害においても近隣住民同意規定は消滅したのである。

 平成一四年(二〇〇二)四月一日施行の「富田林市開発行為等に関する条例」に基づいて、従前の開発指導要綱は廃止され、新たに「富田林市開発指導要綱」が定められた。その第一二条の公害防止は「説明会等を通じて関係者と調整」、第一八条の日照問題は「影響を受ける周辺住民等と必要な調整」と記され、住民の「同意」ではなく、「調整」となっていて、公害・環境行政の後退の固定化を示している。