進出企業の経済的結合関係

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次に、この富田林中小企業団地の事業所について、平成二年(一九九〇)三月に富田林市産業部商工観光課により実施された(調査の企画・分析については富田林市総務課市史編集係と大阪府立大学総合科学部藤井正も商工観光課と共同で行った)企業実態調査(回収率は八〇・九%)をもとに、進出企業の経済活動や従業者の生活の実態とともに、富田林市の地域経済との関連性、問題点の所在について述べる。この調査は中小企業団地を構成する四つの協同組合(大阪富田林工業団地協同組合・富田林中小企業工業協同組合・ナニワ紙加工協同組合・南大阪工業団地協同組合)を通じて行われた。

 まず、回答のあった事業所の規模と業種について概説する。回答企業の従業員規模(正社員)は、一〇人未満は二七・五%、一〇~一九人が二九・四%、二〇~二九人では二〇・六%、三〇人以上が一九・六%となり(不明は二・九%)、半分以上が従業員数二〇人未満の企業によって構成されている。業種を産業分類で検討すると、多い業種から順に表98のような構成となる。金属工業をはじめ、紙加工、機械製造などの業種が中心となっている。なお、生産の受注・下請をどこから受けるのか、あるいは製品の販売の方法としては、表99のように系列メーカー以外からの受注・下請が多く、自主製品製造も含めると半分以上が特に系列に属さない独立的な中小企業といえる。また、技術開発への取り組みでは、生産技術の改善・改良に取り組んでいるという回答が約六割を占め、製品の改良や開発に取り組むという回答は、三割前後を示すにとどまった。

表98 業種構成

単位:%

産業分類 構成比
金属製品製造業 35.3
パルプ・紙・紙製品製造業 9.8
電気・精密・その他機械器具製造業 9.8
鉄鋼業 7.8
出版・印刷、同関連業 6.9
化学工業 4.9
その他 22.5
不明・無回答 2.9
表99 受注・販売方法
方法 (%)
系列メーカーからの受注 11.8
他のメーカーからの受注 22.5
商社・問屋からの受注 7.8
自主製品の製造・直接販売 16.7
自主製品の製造・代理販売 12.7
その他 6.9
不明・無回答 21.6

 続いて進出事業所の本社所在地と富田林中小企業団地への移転の状況を検討する。本社所在地は、団地内が五五・九%、次いで大阪市内二八・四%、府下一四・七%であり、移転前の所在地は、大阪市内三四・三%、府下五二・〇%(府下のうち東大阪市一一・八%、富田林市八・八%、八尾市六・九%)、不明など一三・八%となっている。大阪市内では平野区がもっとも多く(八・八%)、大阪市東南部や東大阪・八尾からの移転企業が多いことがわかる。また、富田林中小企業団地における操業開始は、昭和五八年(一九八三)がもっとも多く(二九・四%)、昭和五七~五九年に回答企業の約七割が操業を始めている。

 それでは富田林中小企業団地の事業所は、どのような地域と経済的な結びつきを持っているのであろう。主要な経済活動について示したのが表100である。主取引先とは、生産を受注し、製品の納品先となる事業所のうちで、各事業所の出荷額に占める比率のもっとも高い取引先を意味する。この主取引先は、表100に示すように当然大阪市とのつながりがもっとも強いが、他府県の構成比も二八・四%で大阪市を除く大阪府全域と同比率と高く、富田林中小企業団地の経済的つながりは、大阪府下のみにとどまらない。さらにこの他府県のうち、大阪府以外の近畿地方は九・八%であるのにたいし、関東地方の企業が一一・八%を占め、広域に及ぶ取引関係の存在を示している。なお、この主取引先の三八・二%は工場で、次いで商店・商社・代理店が三〇・四%となっており、この取引先の規模は、従業員数一〇〇〇人以上の大企業が二五・五%でもっとも多く、次いで一〇〇~二九九人の企業が二一・六%を示す。

表100 経済的な結合関係

単位:%

大阪府 その他の都道府県 不明
大阪市 その他 合計
主取引先 34.3 28.4(北:8.8 東:7.8 南:11.8) 62.7 28.4 9.8
下請・外注先 29.3 58.0(富田林市:18.2 堺市:13.8) 87.3 12.2 0.6
取引銀行 41.2 36.2(富田林市:20.6) 77.4 0 22.5
機械保守など 44.2 47.7(富田林市:22.1) 91.9 0 8.3

注)( )内の北・東・南は、大阪府の北部・東部・南部の構成比。また、富田林市・堺市は、大阪府下のうち各市の構成比。

 また、表101の受注方法は、取引先の作製した図面・仕様書で生産を行うものが四〇・七%でもっとも多いが、取引先の指示で自社作製するものも三四・三%と多く、三番目の自社独自で作製・製品化するというもの(二三・一%)を合わせると、図面・仕様書の自社作製は半分を超える。なお、主取引先への製品の種類は、完成品が半ばを占め、再加工される中間製品あるいは同業種や異業種の他社の製品に組みこまれるという回答(一二・七~一四・七%)を大きく上まわった。これら受注・納品の状況からも、ある程度技術力を持った独立的な企業の存在がうかがわれる。

 さらに、この富田林中小企業団地における企業の技術力と産業の地域連関に関する点について、もう少し詳しく分析したい。上記表101の①~④の項目は、図面・仕様書、あるいは独自製品の作製能力という点で、企業の技術力を示す。たとえば、①や②の項目に属する企業では、図面や仕様書は取引先が作製するので、技術的には主取引先に依存していると考えられる。これら企業の主取引先は、より近隣の大阪府下に多く七三・九%に達する。上記のように、全企業平均では大阪府下は六二・七%であった。一般に、これら技術的に取引先に依存する企業は、出荷額における主取引先への依存度も高くなる。

表101 主取引先からの受注方法
受注方法 (%)
①図面・仕様書を作製・使用していない 1.9
②取引先が作製した図面・仕様書を使用する 40.7
③取引先の指示により、自社で作製する 34.3
④自社独自で作製し、自社独自の製品を作っている 23.1

 表102は、この技術力を反映する受注方法と主取引先の出荷額に占めるシェアの関係を示している。この表から、相対的に技術力の高いAに分類される企業は、主取引先シェアの低い企業の方が多く、取引先が分散していることを示している。一方、技術的に主取引先に依存するCの分類の企業では、主取引先のシェアが高いものが多い。なお、A分類でありながら、主取引先シェアが六〇%以上の企業群が見られる。これらは、市場への従属性の強い企業で大阪府下の取引先のシェアが大きいと考えられ、こうした企業が狭域的な産業連関を構成するといわれる傾向を裏づけている。その結果、もっとも高い技術力を示す④(独自製品を製造)と回答した企業の主取引先は、大阪府下に半数、近畿以外の他地方に約四割と二極化した傾向を示している。

表102 技術力と主取引先シェア

単位:%

主取引先シェア 受注方法
A B C
60%以上 10.8 3.9 15.7
30%以上60%未満 16.7 2.9 14.7
30%未満 18.9 1.0 5.9

注)A・B・Cは、表101の項目でどの受注方法と答えたかによる分類。
  Aは、③または④と答えた企業。Cは、①または②と答えたもの。
  Bは、これらの中間で、②も③も両方あると答えた企業。それぞれ全事業所にたいする構成比。

 一方、前掲の表100に示したように、富田林中小企業団地の企業からの下請依頼先や外注先、あるいは取引銀行や機械保守など利用するサービス業の所在地は、大阪府下が八~九割に達する。原材料や部品の加工、半製品製造などからなる下請・外注などは、より近隣に求められる頻度の高いつながりであり、各種サービス業と共通する性格を持つものといえよう。従業員の職場環境に関するサービス機能でも、たとえば昼食は多くが仕出しの弁当にたより、その業者は大阪市と富田林市内、次いで羽曳野市に所在している。表100の経済的結合は全般に大阪市への依存がまだ大きいが、これらサービス業などでは富田林市内が二割前後に達し、市内において今後の整備が求められる機能といえよう。また、この日常的な経済圏とも呼びうる近隣レベルの連関は、人の日常的移動を媒介とすると考えられ、次に見る事業所立地に伴う生活空間形成の側面とも共通するものといえよう。

 ここで進出企業の経営状況に言及しておく。問題点としては、表103に示すように、人材確保をあげる企業が回答の七七・五%を占める。次が技術開発で二〇・六%、販路拡張一四・七%、合理化の難しさ一一・八%と続く。なお、資金確保をあげた回答は三%にすぎない。またこれらの問題点のうち、富田林中小企業団地に進出したことにより、より厳しい状況になったと思われるものとしても、圧倒的に人材確保の点をあげている。一方、中小企業団地進出により解消に向かった問題点は、さまざまな点があげられているが、選択肢の中では合理化や販路拡張という回答が比較的多い。最近の営業利益の動向は、微増が三七・三%でもっとも多く、次いで横ばい(二八・四%)、かなり上向き(二二・五%)となっている。この調査がバブル経済期ということもあり下降していると回答した企業はほとんどない。

表103 進出企業の経営上の問題点
問題点 (%)
人材確保 77.5
技術開発 20.6
販路拡張 14.7
合理化の難しさ 11.8
資金確保 2.9
その他 2.0

注)複数回答を含む。