富田林中小企業団地進出の理由と効果に関する各企業の回答をまとめたのが、表110である。富田林中小企業団地への進出理由としては、事業規模の拡大を約八割の企業があげ、交通条件や騒音問題など立地環境に関する理由を半分の企業があげている。立地環境については、移転の理由としてあげた企業よりも、移転して効果があったとした企業の方が若干多い。進出理由の三位の物資の輸送に便利であるという点も、効果が認められたようである。しかし、用地拡大など事業規模の拡大は、予想したようには進まなかったというものも見られる。後の表112に示した今後の見通しで、四割弱の企業が富田林中小企業団地内で事業拡大したいという希望を持っていることも、こうした企業の指向と一致する。先に触れたように、労働力確保の点では、進出の際には、若干の期待があったようだが、効果があったとするのは六企業で、ことに正社員に関して三企業しかなく、パートの確保で効果を見た回答の方が多い。表111のように、むしろこの点は、中小企業団地進出後の問題点としてあげている。
項目 | 理由 | 効果 |
---|---|---|
用地拡大など事業規模の拡張 | 82.4 | 73.5 |
交通渋滞や騒音など周辺地区との関係 | 51.0 | 53.9 |
材料や製品の配送などの物の輸送が便利 | 16.7 | 18.6 |
労働力の確保に便利 | 5.9 | 8.8 |
納品先の近さ | 4.9 | 4.9 |
同業者が近くに多い | 2.0 | 2.0 |
通勤や取引の際に人の移動が便利 | 1.0 | 1.0 |
外注・下請先が近い | 0 | 2.0 |
仕入元の近さ | 0 | 1.0 |
その他 | 6.9 | 2.0 |
注)複数回答を含む。
問題点 | (%) |
---|---|
周辺の商業・サービス施設が少ない | 28.4 |
大阪から遠いので不便 | 35.3 |
納品先が遠い | 24.5 |
仕入元が遠い | 13.7 |
同業者が少ない | 3.9 |
外注・下請先が遠い | 19.6 |
正社員の確保が難しい | 35.3 |
パートの確保が難しい | 22.5 |
取引の際の移動が不便 | 8.8 |
社員の通勤が遠くなり不便 | 34.3 |
駅から遠い | 52.0 |
幹線道路から離れている | 11.8 |
材料や製品の配送など物の輸送が渋滞などで不便 | 12.7 |
機械保守や社員厚生を外注する企業が少ない | 6.9 |
その他 | 2.9 |
注)複数回答を含む。
富田林中小企業団地進出に伴う問題点(表111)としてもっとも多いのは、駅から遠いという五二・〇%である。ただし遠いことによる取引上の不便さを指摘した回答は少なく、これは経済活動上の不便さではなく、通勤が不便である(三四・三%)という回答とともに生活面での不便さを指摘するものである。また、上述の労働力確保の問題や大阪が遠いという回答も三割を超える。後者は、具体的には納品先や外注先など関連事業所が遠い、あるいは周辺の商業・サービス施設の不十分さをあげる回答と共通すると考えられる。
最後に表112は、回答企業の考える今後の見通しである。転業や富田林中小企業団地の事業所の縮小や撤退を考える企業はない。富田林中小企業団地の事業所の拡張やそれをベースにした他の地域への進出を、各企業は希望している。
項目 | (%) |
---|---|
富田林中小企業団地以外の場所にも進出してゆきたい | 22.5 |
富田林中小企業団地で積極的に事業拡張したい | 37.3 |
現状維持でゆきたい | 21.6 |
富田林中小企業団地で他の事業にも進出してゆきたい | 2.0 |
富田林中小企業団地で他の事業に転業したい | 0 |
富田林中小企業団地の事業所は縮小・撤退する | 0 |
不明(無回答) | 16.7 |
このように経済的結合関係については、二つのレベルが読み取れる。広域に及ぶ主取引の経済圏というレベルと近隣の業務サービスなどの関係圏レベルである。これは、これまでの尼崎の研究でも明らかにされているものである。そこで、尼崎のように古い市街地で工業の集積した地域と、そのような地域から郊外に移転した場合との相違がここでは問題となる。主取引では、郊外化した中小企業でも広域の経済圏が形成されている。一方、業務サービスなどの日常的取引レベルでは、大阪市または近隣との結合が強い。これは人の移動との関連も考えられ、生活行動の動向とも対応しているといえよう。つまり、郊外の産業地域社会の原型とも位置づけられ、今後、これを郊外でどのように展開させて、中間レベルに郊外の自立的地域の形成を見るかが今後の課題となろう。
事業所の郊外移転に伴う通勤の変化は、大都市圏における地域構造の変化の重要な要因である。現在の富田林中小企業団地進出企業の従業者の通勤動向からも、富田林とともに事業所移転前の所在地周辺に居住地の集中が見られる。また、移転に伴う遠距離通勤も発生している。郊外化は必ずしも職場の居住地への接近を意味するとは限らない。錯綜した通勤流動が生じているのである。郊外間通勤の増加は、結果として自動車通勤としてあらわれるとともに送迎バスなどの移転対策も取られている。また、近隣からのパートの通勤も、郊外間通勤の大きな構成要素であるといわれるが、富田林でもそうした傾向が見られる。人材確保を大きな問題とする企業の回答からは、郊外労働市場のミスマッチも読み取れる。