現地ロケ編全文テキスト

■島貴金属製作所


(島貴金属製作所にて)
【島さん】指輪、ブローチ、ペンダント。ほとんどが女性用の装飾品ですね。金とかプラチナをメインに作ってますね。たまたま僕、大塚で生まれて大塚で育ちまして、叔父が貴金属の会社を大塚で経営してたんですよ。それでスカウトされまして。100パーセント受注仕事なんですよ。問屋さんから仕事依頼がきまして。ところが時代とともにですね、問屋さんていう形態がだんだん少なくなりまして、バブルの時代は金庫の中に3か月先の仕事が入っていた時代があるんですよ。こういう仕事って継承っていうのもあるんですけど、やっぱり自分自身の技術なんですよ。なんて言うんだろう…作り手の人が技術を追求してくれて、だからあくまでも自分は自分。そういうものじゃないかしらって思いますね。
 

■千川上水(暗渠)


(千川上水沿いを歩きながら)
【矢尾さん】春になるとすごく綺麗ですよね…桜がね。もっとこう枝垂れてたんですけど、だいぶ切って。
【島さん】だけどまた満開になるとね。
【矢尾さん】そうですね。
(カメラマン:ここも川だったんですか?)
【矢尾さん】そうなんです。ここずっと流れてたんです。むこうに向かって。それでこう蛇行して…千川ってすごく蛇行してるんですよね。曲がりくねってね。昭和の初めとか、そんな時には蛍が飛んだりね。泳いでたなんて話をちょこっと聞きますけれども。それでね私が思い出すのはね、ここのところ…もう向こうは板橋区なんですけれども。ここに貝屋さんがあったんです、この角にね。それで朝置いていくのかな?そうすると、山盛りの貝を剥いて、剥き身をつくってるなんていう思い出があります。ちょうどその四つ角の向こう側が商店街ですね。
【島さん】そうですね。これが酒屋さんで。
【矢尾さん】(昭和)50年代の初めくらいまでは…
【島さん】そうですね。
【矢尾さん】お店が続いてましたよね。商店街と言わなくてもね。
【島さん】ここにね、中村屋さんがあったんです。こちら側に。
【矢尾さん】そうですね。この辺にお寿司屋さんがあったでしょう?
【島さん】そうです。千川寿司っていうお寿司屋さんがあって。それから魚屋さんがあって。
【矢尾さん】時計屋さんもあったし。
【島さん】そうですね。
【矢尾さん】そうですね、2時ごろになると皆さん買い物袋を持って、ぞろぞろぞろぞろ行ったものでしたね。
 

■彫刻家 長谷川義起(1891~1974)


【矢尾さん】昔のことは覚えているんですけれど、最近無くなったお宅のことは忘れちゃって。自分が歳をとったなと思って。(ある邸宅を指しながら)こちらもね、画家さんだったんです。素敵なお家でね。とてもモダンなデザインでした。(マンション「ドルフ長谷川」の前で)こちらがドルフさん。
 
(長谷川義起のご子息・長谷川熙さんの自宅「ドルフ長谷川」で)
【矢尾さん】私子どもの頃にね、すごい敷地でしたでしょ?
【長谷川熙さん】父・長谷川義起は、最初にアトリエを建てたのが世田谷区内だったんですけれども、私が生まれて1~2年しまして、まさにここに。周辺はもう野っ原のようなところだったんです。それで今、こちらの方は長谷川義起のアトリエが3棟建っていたんです。父自身はアトリエに閉じこもってたもんですから、子どもとですね、少なくとも父親の関係は、まあ離れているといったほうがよかったと思うんです。
【長谷川熙さん】(作品の写真を広げながら)これ戦前戦中のものですけど、ほとんど男性像です。それからスポーツ。戦後になりますと、こっちの類型と、戦後ですとこれ、特徴が違っています。こっちが女性の裸像です。男性像が全くと言っていいほど消えていきまして、一貫して続いているのは相撲の彫刻でありますけれども。
【島さん】これは緑青がわいて緑色になるのは自然に緑色になるわけですかね?
【長谷川熙さん】納品される時の私の記憶では、いや、いろんな色の場合があったと思います。
【矢尾さん】千川の長く住んでいる者でもね、あまり長谷川さんのこと存じ上げていないのね。それすごく残念だなと思って。だけどドルフ長谷川っていうのを建ててくださって、あそこに彫刻を飾ってくださってね。
【長谷川ノリコさん】今、孫にあたるね、娘が少しそういう関係の方に勉強してますから、父が喜んでいるだろうなと思いますけどね。
 

■洋画家 名井萬亀(1896~1976)


【矢尾さん】(名井敏子さんに向かって)どうもいつもお世話様でございます。よろしくお願いいたします。
 
(名井萬亀のアトリエにて)
【島さん】わあ、素敵だ。
【名井敏子さん】(写真を見せながら)表のアトリエの外のところにこれだけの芝生がずっとあったらしいですね。これが父で母で、これが私の主人だと思うんですけどね。あと妹と…。昔は石神井公園の方に、そちらの方で仕事してたっていうか、描いていたみたいなんですけどね。こちらに建てたのは昭和15~6年頃に、建ててからここです。これはすごい立派な方の設計だそうです。こんなまあ綺麗な風にはなってなくて、そこらへんにベッドを置いて、すごいキャンバスを真ん中に置いて、で描いてましたね。不思議だなと思ってね。人間だって、足がとんでもないところから出てたりとかね。わからない絵だなと思ってね。でも今見てもね、こういう線なんかすごく綺麗だなと思います。
【矢尾さん】キャンバスを抱えてね、向こうの方からお帰りになっていらしたとこをお会いしたこともあったわ。でも気さくな方だったんですよね?
【名井敏子さん】そうらしいですね。
【矢尾さん】ある時「遊びに来てよ」なんて言われて、それでお庭に…
【名井敏子さん】いらしたことあるの?
【矢尾さん】そうなの。小さいときに。このお庭でおままごとをちょっとしたり、ほんと素晴らしかったですね。でもね、こうお残しになって…
 

■榛名神社


(榛名神社に向かいながら)
【矢尾さん】あ、もう待ってらっしゃいます。榛名神社のところで。
【島さん】いつも幟(のぼり)は立ってますか?
【田島勝司さん】いや、お祭りの時とか、節目だけで立てています。
【矢尾さん】ここ何年ですか?総代してらっしゃるのは?
【田島勝司さん】10年経たないかどうかですね。
【矢尾さん】とても手入れがよくして下さってるから。
【田島勝司さん】(昔の地図を見せながら)昔長崎村の境窪って場所だったんです、ここは。その地域の方のまだ健在な方が氏子会になってますね。要町の通りがまだないんですけれども、池袋の方から来る道はこの道だと思いますけれど。この一帯がずっと全部畑なんですよね。こっちのほうは街になってるんです。ここずっと見渡すかぎり畑です。
【田島喜久雄さん】稲作じゃないから。
【矢尾さん】お麦がね、やっぱり多かったし。
【田島喜久雄さん】麦とやっぱり大根ですよ。
【田島勝司さん】(写真を見せながら)これお神輿。こさえたお神輿なんですよ。
【田島喜久雄さん】廃材で作った。
【島さん】立派なね。
【矢尾さん】ご兄弟で作ったんですよ、手作りで。
【田島勝司さん】千川一丁目はたまたま子どもがかつぐお神輿がなかったもので。
【田島喜久雄さん】重くてね。
【田島勝司さん】重くてあれなんで、我々が子どもたちのためにこさえて。
【矢尾さん】今も使ってるんですもんね。
【田島喜久雄さん】何にもないのに頭んなかで全部こうね、あれしてね。
【矢尾さん】素晴らしいですよね。
【田島勝司さん】まあそんなところでこの地域をやってるところなんですよ。
 

■彫刻家 中野素昂(1897~1985)


(千川彫刻公園にて)
【井上さんたち】こんにちは。
【井上さん】公園ができる前はここは中野さんの御宅でした、全部。
【長谷川さん】こっち側が母屋でこの辺にアトリエがあって。
【井上さん】その脇に木彫室というのがありました。木彫室があってアトリエがあって住まいがありました。私どもは昭和13年にこちらに越してきました。その時にはすでに中野さんの御宅はありました。こことお隣とそれからこちらの先代と3軒だけがありました。で、結局うちが来て4軒。常に4軒で仲良く…行動っていうんですかね?(昔の写真を指して)こういう感じでした。これが全部ここから行くと、うちのここへ入る。我が家はこれですから。何にもないです。ここからすーって行かれます。で、これが焼けなかった中野さんの古い御宅です。これは多分…母のここに書いてある言葉を見ると、素昂さんが亡くなって悲しんで、おばあさんが泣いてなによっていうのをうちの母が言ってる場面だと思います。
【和栗さん】アトリエに光採りの窓があって、「お母さん大変だ」って2階から降りてきて、「女の人が裸で立ってるんだ」って、それで「えっ?」って言って行ったら、「あれはモデルさんだ」って教えてくれたのは覚えてますね。
【井上さん】要するに「芸術家っていうのは燃えてなきゃいけない」と。「恋をしなきゃだめなのよ」って。「今わしは…」わしっておっしゃってた。「わしは家内に追い出されて行くところがない」って言って、それでうちにいらして、とうとうお夕飯まで一緒にっていうことも何回かありましたけどね。だから監督するためにアトリエに中二階を作って、それでその奥様…奥様なんて言ったことないよね。おばさん。おばさんはそこから見てたんです。だから「ああ、このおじさん恋してるのか」って思って。それで作ったのがこれ(公園にある像)です。これが多分最後くらいだと思うんですけどね。
【矢尾さん】そうですか…
【井上さん】そんなことですね。
【矢尾さん】なんであんなにお庭が綺麗だったんでしょうね?
【井上さん】お庭はとっても本当に綺麗でした。手入れはものすごく良かったです。
【矢尾さん】文化の発信みたいな、あれもあったのかしらね。
【井上さん】そんな風に思ったことないわね。
【矢尾さん】ああ、そうですか。おじさん?
【井上さん】おじさんしか。おじさんっていうイメージで…みなさん、先生っておっしゃる。
先生って誰?あれ中野さん?あのおじさん、先生?
 
(千川彫刻公園で写真撮影をしながら)
【矢尾さん】一番いいのを…だめなんです写真は。