「放置自転車等対策推進税」「狭小住戸集合住宅税」条例案可決(平成15年12月9日)「放置自転車等対策推進税」「狭小住戸集合住宅税」条例案可決(平成15年12月9日)

 前項では約半世紀にわたる特別区の自治権拡充のあゆみをたどり、平成12(2000)年4月に実現した都区制度改革の意義を改めて確認した。
 この都区間の関係を見直す動きと同時に、国と地方においても、旧来の中央集権的な上下・主従関係を対等・協力関係へと転換する地方分権改革が進められた。その第一次となる「地方分権一括法」(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)は地方自治法をはじめとする関係法令475件を一括して改正するもので、平成11(1999)年7月に成立し、都区制度改革と同じく12(2000)年4月に施行された。これにより国の機関委任事務は廃止され、法令等により義務づけられる法定受託事務を除き、地方自治体が担う事務は各自治体が自主的に実施する自治事務に再編された。また同時に改正された地方税法により、自治体の課税自主権を強化する法定外税の拡充が図られたのである。
 本項では、この法定外税として豊島区が創設した「放置自転車等対策推進税」と「狭小住戸集合住宅税」のふたつの新税について、その構想の背景から条例化に至る動きをたどっていく。

区税調査研究会報告書

 平成12(2000)年4月施行の改正地方税法により、同法に制限列挙された法定税以外に、自治体が条例により税目を新設することができる法定外税について、それまでの法定外普通税の許可制が協議制に改められ、国による関与が縮減されるとともに、新たに法定外目的税が創設された。使途が限定されない法定外普通税に対し、この法定外目的税はあらかじめ使途を特定した上で課税する税で、これにより一定の行政目的に寄与することを可能としたものである。この法改正を受け、全国自治体に法定外税の導入を検討する動きが広がった。
 豊島区においても改正法施行の翌5月、庁内に「区税調査研究会」を発足させ、法定外税導入の可能性を探っていった。本章第1節でも述べてきた通り、前年11(1999)年4月に加藤区政から高野区政に移行したこの当時、区財政はかつてない危機的状況に陥っていた。その一方で、加速する少子高齢化により、ますます増大が予測される行政需要に応えていくためには、従来の枠組みにとらわれない、新たな手法を駆使して政策実現を図っていくことが求められていた。そうした中で課税自主権の活用、特に新たに創設された法定外目的税は単に財源不足を補うためだけではなく、区が抱える様々な行政課題を解決するための有効な手法のひとつとして期待されたのである。
 同研究会は会長を政策経営部長とし、副会長は財政課長と税務課長を、その他10名の委員は若手職員を中心に構成した職員による政策研究の先駆けとなるものであった。6月7日の第1回から翌13(2001)年1月までに9回の会議が重ねられ、1月29日の政策経営会議に「豊島区における法定外税の活用に向けて-中間報告-」が提出された(※1)。
 研究会がまず取り組んだのは、「地方分権の推進と区政の主体性確立」、「税財源の充実・確保と課税自主権の活用」、「行政サービスの受益と負担の明確化」の3つの視点から法定外税に対する理解を深めていくとともに、港区の「たばこ自動販売機設置税」や杉並区の「レジ袋税」等の先行自治体の動向を調査していくことであった。その上で豊島区の地域特性を踏まえ、中間報告では法定外税の具体的な検討対象となる行政課題として、(1)副都心特有の行政需要(①昼間流入人口・②来街者・③風俗産業)、(2)生活環境の保全(①放置自転車・②空き缶等のポイ捨て・③ごみ排出抑制と資源リサイクルの推進)、(3)健全な街づくりの誘導(①狭あい道路整備の推進・②違反建築物の解消・③ワンルームマンション建築の抑制・④CATVによる電波障害対策)の3分野10項目がピックアップされている。いずれの項目も人口密度が高く、住宅が密集している都市特有の課題であり、また鉄道網を中心に交通利便性が高いがゆえに来街者も含めた人口移動が極めて大きく、区民生活に様々な影響を来している課題であった。中間報告ではこれら各課題の現状と新税導入の可能性について考察が加えられているが、(2)の②、(3)の①②及び④については、実効性や区の施策との整合性の観点から課税対象とするのは困難としており、これらを除いた各項目についても導入の可能性はあるものの、引続き慎重な検討が必要であるとしていた。
 このため、研究会は中間報告後さらに約1年をかけて検討を重ね、導入の可能性が高い課題を絞り込み、13(2001)年12月27日の庁議に最終報告となる「豊島区区税調査研究会報告書」(以下「研究会報告」)を提出した(※2)。
 この間、他自治体でも導入に向けた動きは進んでいたが、港区の「たばこ自動販売機設置税」は税収に対し徴税コストの割合が高くなるなどの理由から、13(2001)年2月に導入が見送られた。環境問題に一石を投じた杉並区のレジ袋税も、13(2001)年11月の区議会定例会に条例案は提出されたものの、その時点では調査や検討、区民・事業者への周知徹底が不十分であるとして継続審査とされていた(翌14年可決、その後5年間の削減目標達成期間〔施行猶予〕を経て、区の方針転換により20年条例廃止)。また横浜市の「勝馬投票券発売税」は12(2000)年12月に条例案そのものは可決されたが、総務大臣との協議で国の経済施策に照らして適当でないとの理由で不同意とされたため、国との係争に縺れ込んでいた(16年条例廃止)。東京都も13(2001)年10月、大気汚染対策と産業廃棄物対策を首都圏自治体が共同で取り組む広域的事業に位置づけ、「大型ディーゼル車高速道路利用税」と「産業廃棄物税」の2つの法定外目的税の導入を首都圏 3県と政令市に提案していくと発表、さらに翌11月には「ホテル税」(宿泊税)の導入を発表するなど、法定外税導入に向けた動きを加速させていた(3税のうち「ホテル税」のみ「宿泊税」として14年施行)。だが、これら様々な導入に向けた動きはあるものの、13(2001)年12月時点で法改正後に新たに実施された法定外税は「臨時特例企業税」、「遊漁税」、「産業廃棄物」の 3 税目のみで、結局、新税導入を断念、見送るとした自治体も少なくなかった。
 こうした他自治体の動向を踏まえつつ、研究会の最終報告では豊島区において導入を検討すべき法定外税として、「放置自転車等対策税(仮称)」と「ワンルームマンション税(仮称)」の2税が提起された。
 「放置自転車等対策税(仮称)」(以下「放置自転車等対策税」)は、区内鉄道駅前の放置自転車の解消を目的とし、その誘因者である鉄道事業者に税を課すというものである。この構想の背景には、全国でワーストとなる池袋駅周辺をはじめ、区内各駅前に大量に放置された自転車により周辺道路の通行や防災上の安全性が著しく損なわれている状況が深刻化している実態があり、その一方、放置自転車のほとんどが通勤・通学のための駅利用者によるものであるにも関わらず、鉄道事業者からは駐輪場整備などの対策に十分な協力が得られていないという事情があった。12(2000)年度決算で区の放置自転車対策経費は10億円を超えていたが、その大部分には放置自転車と直接関わりのない区民の税金が投入されていたのである。放置自転車等対策税はこうした経費負担のあり方を見直し、実際に放置をしている自転車利用者と誘因者である鉄道事業者、そして区民の安全確保の責務を負う行政の三者が適切に分担すべきとの考え方に基づき、放置自転車利用者から徴収する撤去手数料を2,000円から3,000円に引き上げるのに伴い、鉄道事業者にも応分の負担を求めようとしたものである。
 一方の「ワンルームマンション税(仮称)」(以下「ワンルームマンション税」)は一定規模以下の狭小な住宅建築の抑制を目的とし、その建築主に税を課すものであった。区は平成5(1993)年に策定した「住宅マスタープラン」に基づき、公共住宅の整備や良質な民間住宅の供給誘導などの定住化対策を推進していたが、区内住宅戸数に占めるワンルームマンションの比率は23区で最も高く、約7万1千戸の民間借家の65%が床面積30㎡未満という状況だった。こうした住宅ストックの現状は世帯構成にも色濃く反映され、区内全世帯のうちファミリー世帯の占める割合は約20%にすぎないのに対し、単独世帯は過半の約56%を占めるという偏った状況になっており、地域コミュニティにおいても様々な問題が生じていた。また、バブル崩壊後の地価下落により民間分譲マンションの供給は活発化しつつあったものの、収益性の高いワンルームマンションの供給が依然として多く、現行制度下ではその動きに歯止めをかけることは困難だった。このためワンルームマンション税導入の狙いは、ワンルームマンションの建築主に税負担を求めることにより、ワンルームマンション建設のハードルを上げ、代わってファミリー向け住宅の建築を誘導することにあったのである。
 研究会報告はこれら2税の構想に加え、今後の条例化に向けた手順として①有識者等による会議体の設置、②納税義務者への説明、③区民意向の調査、④条例案の準備・区議会への提案、⑤国との協議、⑥導入態勢の整備等を挙げ、そのおおよそのスケジュールを示している。それによれば14(2002)年度当初に会議体を設置し、半年間の審議を経て11月の区議会第4回定例会に条例案を提出、その議決をもって総務大臣の同意を得、15(2003)年度の施行が想定されていた。

新税構想に対する様々な反応

 区は前年暮れの庁議で承認した研究会報告に基づき、翌14(2002)年1月23日に記者会見を開き、「放置自転車等対策税(仮称)」と「ワンルームマンション税(仮称)」の2つの新税構想を発表した(※3)。
 図表2-22は構想発表時の課税概要である。
 この時点では放置自転車等対策税、ワンルームマンション税のいずれの税も使途を特定した法定外目的税に位置づけられていた。放置自転車等対策税の税率3,000円は放置自転車利用者に課している撤去手数料 3,000 円に相当し、それによる収入は年間2億1,300万円と見込まれた。ただし、前述した通り、この税の目的は放置自転車対策経費について受益と負担の適正化を図るものであり、鉄道事業者の協力度合いにより減免される制度設計がなされていた。またワンルームマンション税の税率50万円は、不動産に関する既存の税に比べ過重な負担にならないよう、また売買・賃貸時に価格転嫁ができない範囲内となるよう勘案されたものであり、年間3億3,000万円の収入見込額もワンルームマンションを建築しなければ非課税となり、税収にはつながらない。すなわち、いずれの税も収入を得ること自体が目的ではなく、課税行為をそれぞれの課題解決に向けた誘導要因として機能させるところに区の狙いはあったのである。
図表2-22 新税構想発表時の課税概要
 新税構想の発表同日、区の構想に真っ先に異を唱えたのは放置自転車等対策税の納税義務者とされた鉄道事業者であった。東日本旅客鉄道(以下「JR東日本」)、東武鉄道、西武鉄道、帝都高速度交通営団の4者から構想撤回の申入れがその日のうちに提出された(※4)。
 この申入れの趣旨は、「鉄道事業者を放置自転車等の誘因者と独断し、これに納税義務を負担させようとする区の構想は全く理解し難く到底受け入れられるものではない」というものであった。その理由として、「放置自転車等対策については従来から出来る限りの努力・協力をしてきており、区から自転車法に定める自転車等駐車対策協議会等の協力要請がないにもかかわらず、鉄道事業者の努力姿勢を評価せず逆に非協力的と断じている」、「本来自転車等放置者を対象とすべきところ安易に鉄道事業者を狙い撃ちして負担を強いるものであり、私的財産権に係る憲法上の保障、租税原則等に照らし、重大な疑義が存する」などを挙げ、真っ向から区の構想に反対する姿勢を見せた。
 こうして鉄道事業者から猛反発を受ける一方、区は新税構想に対する区民の理解を広げるため、区広報紙に新税の概要を掲載するとともに、3回にわたって区民集会を開催した(※5)。2月13日、放置自転車等対策税をテーマに開催された第1回目の区民集会には定員100名を超える140名の区民が参加し、活発に意見が交わされた。「導入に全面的に賛成」というものから「鉄道事業者から税金を取ったからといって解決できる問題ではない」「放置する人のモラル向上が先決」というものまで、参加者の意見は賛否それぞれであったが、集会後のアンケート(回答数85)では64%が構想に賛成との回答が得られた。続く第2回目は4月11日、ワンルームマンション税をテーマに70名の区民が参加した。「若者が減るのではないか」「地元経済の沈滞につながる恐れがある」など区の構想を懸念する意見もあったが、地域の生活環境やコミュニティの阻害要因になっているワンルームマンションの規制を望む声は多く、「税を払えばいいという抜け道になるのではないか」「管理上の問題をより厳しく指導できないか」など、より一層の規制強化を求める意見も見られ、アンケート(回答数33)でも61%が構想に賛成と回答していた。第3回目は7月5日、両税をテーマに62名の区民が参加し、ここでも賛否様々な意見が交わされたが、アンケート(回答数44)では放置自転車等対策税について73%が、ワンルームマンション税については55%が賛成と回答していた。こうしたアンケート結果からも、区民の過半は新税導入に賛成していたと言えるが、個別意見では税による課題解決の実効性を問う声も少なからず見られ、区民の中にも様々な意見があることが窺えた。
 また区の新税構想は発表直後から新聞・テレビ等のマスメディアで連日のように取り上げられ、社会的にも大きな関心を集めた。各報道機関による取材を通し、鉄道事業者はもとより不動産業界、国や都、識者等のコメントのほか、街頭インタビューによる「街の声」も拾われていたが、それらもまた賛否様々であった。放置自転車等対策税については都営地下鉄等を運営する都も納税義務者であったが、他の鉄道事業者のように表立って反対を表明することはなかったものの、区の突然の構想発表に対する困惑は隠せなかった。国も課税自主権の活用そのものに異を唱えることはなかったが、構想の中味についてはより広範な議論が必要との慎重な構えを見せていた。またワンルームマンション税に対する業界や「街の声」としても、「ファミリー向けマンションを建てても簡単に売れる時代ではない」など区の政策と市場原理のミスマッチを指摘する不動産業者の意見や、学生などシングル世代を中心に単身者排除だと不満の声が多く挙げられていた。
 当然のことながら、鉄道事業者の反発はもとより、新税構想について様々な異論が唱えられることは区も想定していたことであり、むしろ構想発表をそうした議論を巻き起こす契機と捉えていた。そのため拙速に条例化することなく、議論の場として納税義務者も含めた検討会議を設けることを次の段階に位置づけていたのである。
 こうした区の考え方は、新税構想発表後の平成14(2002)年2月15日に開会された区議会第1回定例会での招集あいさつにも示されている(※6)。
-今回の新税創設への取組みの大きな意義は、基礎的自治体としての自らの意思と責任において、行政サービスと負担のあり方について独自の考え方を自ら決定し、全国に発信できたことであります。
 この二つの新税構想に対しましては、発表と同時に、区民はもとより全国各地から非常に大きな反響がありました。今後、導入に向けましては、広く区民の方々のご意見を伺うとともに、有識者による検討会議などを通じて幅広いご議論をいただきながら、肉づけを行い、合意形成ができるよう全庁挙げて取り組んでまいります。新税創設というかつて挑んだことがない極めて難しい課題を乗り越え、豊島区政がさらに輝きを増すことを願ってやみません。
 この区長の決意表明にも込められているように、区の新税構想は現行制度化では解決しがたい都市問題に一石を投じた形になり、その議論の行方に社会の注目が集まるなか、次の段階の検討会議の場へと進んでいくことになった。

放置自転車等対策税構想の背景

 検討会議での議論の経緯をたどる前に、2つの新税構想の背景となった当時の状況について改めて概観する(※7)。
 放置自転車問題の発生は昭和50~60年代に遡り、以後、全国都市部で急速に拡大していった(※8)。大量生産による低価格化により手軽に購入できるようになった自転車は、オイルショック以降、環境にやさしい交通手段として急速に普及した。特に鉄道網の発達とともに住宅地が形成された都市部では、通勤・通学のため最寄り駅まで行く交通手段として自転車を利用する人が増え始め、それに伴い自転車による交通事故や放置自転車問題が浮上してきた。
 こうした状況に対応するため、昭和55(1980)年11月、「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」(以下「自転車法」)が制定された。同法により自転車駐車場の整備に関する全般的な施策の実施が国や自治体に義務づけられるとともに、自治体・道路管理者・警察・鉄道事業者に対し放置自転車の排除に努力すること、また自転車利用者に対しては駐車場以外の場所に自転車を放置することがないよう努めなければならない旨が規定された。このように自転車法は放置自転車問題に係る関係者の責務を規定する初の法律ではあったが、その規定の大半は努力規定に止まり、放置自転車の定義や罰則規定もなかった。また、自転車駐車需要を生じさせる公益的施設や商業施設等に対して駐輪場の設置に努めなければならないと規定する一方、大量の放置自転車を誘引している鉄道事業者に対しては、駐輪場の設置に対する協力を求めるだけに止まっていた。
 自転車法施行後、自治体による駐輪場の整備は一定程度進んだが、増え続ける放置自転車に駐輪場整備が追いつかない状態は続き、放置自転車問題の根本的な解決にはつながらなかった。自転車利用者や鉄道事業者等の責任の所在が曖昧なまま、駅まで自転車で乗り付け、そのまま駅前広場や歩道に放置する行為は常態化し、「銀輪公害」と言われるほど放置自転車が路上に溢れかえる状況が広がっていったのである。
 豊島区においても昭和50年代以降、駅前の放置自転車問題が顕在化した。区内12駅の放置自転車台数は、50年代前半に3,000台だったものが後半には6,000台と倍増し、58(1983)年の有楽町線要町・千川駅開業後は8,000台を超えていた。駅前周辺道路に無秩序に放置された大量の自転車は、通行の妨げになるだけでなく、交通事故の誘発、さらに災害時の消火・救急活動の障害になり、その被害は地域社会全体に係わる問題となっていた。同年7月に実施した調査(区民約3,000人回答)でも、放置自転車により通行妨害など何らかの迷惑を受けたという人が7割を超え、約9割が強制的な処分に賛成していたのである(※9)。
 こうした状況に対し、区は駅周辺の空地等を活用して無料の自転車置場を次々開設し、昭和60(1985)年度末時点で24か所、収容台数は約4,400台までになっていたが、増加の一途をたどる放置自転車にはとても追いつかなかった。また60(1985)年4月には土木部管理課に自転車対策係を新設し、通行の障害となっている放置自転車の整理や移動を連日のように実施するほか、キャンペーンや広報紙等を通じて放置防止や徒歩での通勤・通学を盛んに呼びかけた。だが通勤・通学時間帯を境に駅前に溢れる放置自転車の「洪水」状態は一向に解消されなかった。
 このため昭和63(1988)年4月、区は初の有料駐車場となる池袋駅北自転車駐車場(池袋大橋下:自転車651台、原付二輪車17台収容)と池袋駅西自転車駐車場(西池袋公園地下:自転車1,913台収容)の2施設を開設し、その設置と対策を盛り込んだ「豊島区立自転車等駐車場条例」(以下「自転車駐車場条例」)並びに「自転車等の放置防止に関する条例」(以下「自転車放置防止条例」)を施行した(※10)。
 自転車駐車場条例は文字通り施設の名称や位置を定める設置条例であり、利用方法や利用料等について規定している。条例施行当初の定期利用料金は1か月2,000円、原付二輪車2,500円だった。一方の自転車放置防止条例は自転車駐車場の設置に伴い、周辺エリアを自転車等放置禁止区域に指定し、これに違反した自転車を撤去・処分できる権限を区長に与えるものであった。これによりそれまでは長期間放置されているいわゆる不法投機された自転車しか処分できなかったものが、警告シール貼付後1時間を経過してもなお放置されている自転車を撤去できるようになり、撤去後、保管期間内に引き取りに来た際に手数料として自転車1台につき500円、原付二輪車1,000円を徴収することとした。また同条例には商業施設等を新築・増築する場合、その規模に応じた駐輪場の設置を義務づける規定も盛り込まれたが、既存の施設や鉄道事業者については前述した自転車法の規定に準じ、努力規定に止まるものであった。
 こうして池袋駅と2つの自転車駐車場で囲まれた一帯を放置自転車禁止区域に指定し、63(1988)年4月から撤去活動が開始された。第1章第1節第1項で述べた通り、当時、西口地区では東京芸術劇場やメトロポリタンプラザビル等の再開発事業が進められており、それらのまちづくりの動きに合わせ、玄関口にあたる西口駅前の放置自転車を一掃しようとしたのである。だが条例施行後、西口駅前の放置自転車台数はピーク時の約4,000台から4割程度減ったものの、依然として約2,500台が放置されている状態だった。約6億円もの建設費を投じて整備した西池袋公園地下の駐車場は、駅までは徒歩で5分ほどかかる距離にあったため、期待していたほど利用率は伸びず、また撤去した自転車で保管所がじきに満杯になってしまうため、撤去活動を十分に行えないジレンマがあった。このためさらに平成2(1990)年に自転車駐車場条例・放置防止条例の両条例を改正し、同年4月から駐車場の定期利用料金を2,000円から1,000円に引き下げる一方、撤去手数料を500円から1,000円に引き上げ、また従来の3倍近い保管場所を確保して撤去活動の強化を図った(※11)。
 以後、区は自転車駐車場の整備と撤去活動を放置自転車対策の柱とし、平成14(2002)年度までに池袋駅東口グリーン大通りの有料登録制自転車置場(※12)も含め19施設・収容台数計9,710台分(原付二輪車は除く)の駐車場を整備した。これに9か所の無料自転車置場を含めた収容台数の合計は11,000台に達していたのである(図表2-23「自転車駐車場・置場の整備状況(収容台数)の推移」参照)。
図表2-23 自転車駐車場・置場の整備状況(収容台数)の推移
 西池袋公園地下の駐車場の例からもわかるように、駅から距離のある自転車駐車場は利用されにくい状況にある一方、鉄道事業者が整備した自転車駐車場は、西武池袋線椎名町駅及び東長崎駅の5施設(うち1施設はレンタサイクル)、収容台数960台のみであり、鉄道事業者からの用地提供等の協力も皆無に等しかった。
 平成2(1990)年に池袋駅東口の国鉄清算事業団用地(現P’パルコ)に自転車駐車場を確保する計画を進めていた際も、同用地の売却にあたってコンペ方式が採用され、結局、区の自転車駐車場をテナントに入れる案は選定されず、計画を断念せざるを得なかった経緯がある。その後、区は同地近辺に溢れる放置自転車を解消するため、11(1999)年度に約5億円をかけ、隣接する池袋駅前公園地下に池袋駅東自転車駐車場(収容台数550台)を整備したのである(※13)。
 駅近辺に駐車場用地を確保することが極めて困難ななか、区が整備した駐車場の多くはこの池袋駅東自転車駐車場や前述した池袋駅西自転車駐車場のように地下空間を利用したもの、あるいは民有地や民間ビルの一部を借上げて開設したものであったが、地下工事は建設費が割高になり、借上げ施設の賃料は年間数百万円から数千万円に及んでいた。
 平成9(1997)年8月に駒込駅前の染井吉野桜記念公園地下に開設した駒込駅北自転車駐車場(収容台数850台)も、基礎工事を含め整備費は約6億円にのぼり、都営大江戸線落合南長崎駅の開業に合わせ、10(1998)年1月に長崎中学校のテニスコートの地下に開設した南長崎自転車駐車場(収容台数270台)も約1億3000万円の工事費がかかっていた(※14)。また14(2002)年4月に開設し、目白駅前の放置自転車を劇的に解消した目白駅東自転車駐車場(収容台数800台)は第1章第1節第4項で述べた通り、目白駅舎の改築及び目白通りの拡幅等の目白駅周辺整備事業の中で区が2億円以上をかけて駅前広場の地下に整備したものであった。さらにその用地は区が取得した線路脇の清算事業団用地と駅前のJR所有地とを等価交換して得たもので、この清算事業用地を取得するために30億円近い巨費を投じていたのである(※15)。また「おばあちゃんの原宿」として高齢者で賑わう巣鴨駅前も大量の放置自転車が歩道に溢れていたため、区は平成13(2001)年度に駅の南北と白山通り沿いの3か所に自転車駐車場を開設した。そのひとつである巣鴨駅北自転車駐車場(収容台数1,216台)は、約6億5千万円で取得した450㎡の土地を最大限活用するため、全国初の立体機械式駐車場として建設したもので、その工事費は約4億円7千万円にのぼり、用地取得費と合わせた整備費は11億円を超えていた(※16)。
 こうして多額の経費をかけて区内各駅の近接地に自転車駐車場を整備するとともに、それにあわせて周辺エリアを放置禁止区域に指定し、放置自転車の撤去活動を展開していった。平成元(1989)年度に7, 640台だった撤去台数は6(1994)年度に 2万台を突破し、駐車場整備が加速した13(2001)年度には約3万5千台に達し、さらに目白駅前の駐車場が完成した翌14(2002)年度には4万台を超えていた。またそれら大量の撤去自転車を保管するため、公共施設用地や道路整備予定地を活用したほか、利用率の低い池袋駅西自転車駐車場の一部を保管所に転用するなどして(※17)、14(2002)年4月時点で保管所8か所、4,570台分を確保した。だが撤去台数を増やせば作業にあたる人員も増やさなければならず、その人件費は4(1992)年度に8,600万円だったものが13(2001)年度には2倍を超える1億8,500万円に膨らんでいた。
 この撤去活動にかかる経費や駐車場・保管所等の管理運営経費、さらにこれら施設の整備費を含めた放置自転車対策経費として、平成4(1992)年度から13(2001)年度までの10年間に区が支出した累計額は約87億4千万円に及んだ(図表2-24「放置自転車対策関係経費の推移」参照)。その一方、駐車場使用料や撤去手数料による収入は9億4千万円の1割強に止まり、施設整備費を除いた経常的な経費の60億7千万円に対しても2割に満たなかった。そして残りの8割を超える経費の大半は税収等の一般財源で賄われていたのである。
図表2-24 放置自転車対策関係経費の推移

※13 東京都豊島区立池袋駅東自転車駐車場(仮称)新築工事(H100925企画総務委員会資料)
池袋駅東自転車駐車場の新設について(H101109・H111122区民建設委員会資料)
H120330プレスリリース

※14 駒込駅北自転車駐車場の新設について(H070929・H090709区民建設委員会資料)
東京都豊島区立駒込駅北自転車駐車場(仮称)新築工事(H080701企画総務委員会資料)
東京都豊島区立自転車等駐車場条例の一部改正について【南長崎自転車駐車場】(H090930区民建設委員会資料)
H090728プレスリリース

※15 東京都豊島区立自転車駐車場条例の一部改正について【目白駅北・目白駅東自転車駐車場】(H131130・H140222清掃都市整備委員会資料)
事業団用地の取得について【目白駅】(H050226区民建設委員会資料)
H140330プレスリリース

※16 東京都豊島区立巣鴨駅北自転車駐車場(仮称)新築工事(H120706総務委員会資料)
東京都豊島区立自転車等駐車場条例の一部改正について【巣鴨駅南・北自転車駐車場】(H121201清掃都市整備委員会資料)
巣鴨駅北口白山通り駐輪場の開設について(H190622都市整備委員会資料)
H130329プレスリリース

※17 放置禁止区域の拡大と自転車駐車場の収容台数の変更(規則改正)について(H141007清掃都市整備委員会資料)

 この使用料と手数料については平成2(1990)年の改定以降、さらに2回の改定が行われ、9(1997)年改定時に駐車場定期利用料金(1か月)・撤去手数料ともに1,000円から2,000円に、13年(2001)改定時には定期利用料金は2,500円、撤去手数料は3,000円にそれぞれ引き上げられた(※18)。これにより13(2001)年度の収入額は前年度比7,000万円増の約2億円となり、同年度の対策経費総額約9億円の2割、建設費を除いた経常経費約7億円の3割程度になった。しかしルール違反・マナー違反として、放置自転車対策にかかる経費のすべてを駐車場利用者や放置自転車の利用者に負わせることは現実的でなく、ペナルティとして撤去手数料を高くすれば撤去自転車の返還率が低下する恐れもあった。当時、撤去自転車を保管期間内に引き取りに来るのは7~8割程度で、引き取り手のない自転車はその一部をリサイクル自転車として再生し、廉価での区民向け販売や発展途上国への海外譲渡などに活用されていたが、大半は廃棄処分されていた。そしてその処分経費も区が負担していたのである。
 なお、13(2001)年の改定時には、それまで一般・学生の別だけだった利用料金に区内・区外別の枠を設け、区内利用者の1か月定期利用料金2,500円に対し、区外利用者は3,000円とした。前述したように放置自転車対策経費の大半は区民からの税金等、区の一般財源で賄われていたため、区外利用者により多くの負担を求めることにしたものである。
 平成13(2001)年当時、区内にはJR山手線・埼京線、東武東上線、西武池袋線、営団地下鉄3路線(丸ノ内線・有楽町線・南北線)、都営地下鉄2路線(三田線・大江戸線)の9路線が運行し、各路線13駅(所在地が区外の丸ノ内線新大塚駅及び大江戸線落合南長崎駅を除く)の乗車人員(乗り継ぎ・乗り換えは含まず)は年間約4億人、一日平均110万人にのぼっていた。その数は当時の区総人口約25万人の4倍以上にあたる。特に通勤・通学時間帯には6路線が乗り入れる全国有数のターミナル駅・池袋を中心に多数の路線バスが各駅に乗り入れ、区内はもとより区外からも少なからぬ人々が毎朝、区内各駅になだれ込んでいたのである。忙しい朝の時間帯の数分の違いは大きく、徒歩で10分もかからない距離でも時間を短縮するため、あるいは交通渋滞等で遅れがちなバス利用を止め、自転車に乗り替える人が増えていったことは容易に想像できる。
 放置の状態が駅前エリアに局地的に見られ、また朝の通勤・通学時間帯から帰宅時間帯までに集中していたことからも、放置自転車の大半がそうした通勤・通学のための鉄道利用者のものであることは明らかだった。平成14(2002)年度に自転車駐車場の定期利用申請時や撤去自転車の引き取り時に行ったアンケート調査でも、約7割が鉄道利用者であり、また約4割が区外利用者だったのである。
 この放置自転車問題は豊島区に限らず、都内及び全国都市部の自治体が抱える共通の課題だったが、平成バブルによる地価高騰で自転車駐車場用地の確保はますます困難になり、バブル崩壊後の地方財政の悪化も重なってその対策も頭打ちの様相を呈していた。このため平成4(1992)年2月、放置自転車問題の抜本的な解決に向けて相互に連携を図っていこうと、全国172区市町により「全国自転車問題自治体連絡協議会」(現「全国自転車施策推進自治体連絡協議会」、以下「全自連」)が結成された。全自連は結成直後から国や国会、関連議員等に働きかけ、自転車法の改正、特に鉄道事業者に自転車駐車場の付置義務を課すよう強く求めていった。
 こうした自治体からの要望を受け、また放置自転車問題が一向に解消されない現状を踏まえ、平成5(1993)年12月、昭和55(1980)年の制定以来13年ぶりに自転車法は改正されるに至った(6年6月20日施行)。だがこの改正自転車法においても、第5条「自転車等の駐車対策の総合的推進」の第2項に「鉄道事業者は、鉄道の駅の周辺における地方公共団体又は道路管理者(以下「地方公共団体等」という。)による自転車等駐車場の設置が円滑に行われるように、地方公共団体等との協力体制の整備に努めるとともに、地方公共団体等から当該自転車等駐車場の設置に協力を求められたときは、その事業との調整に努め、鉄道用地の譲渡、貸付けその他の措置を講ずることにより、当該自転車等駐車場の設置に積極的に協力しなければならない」との規定が盛り込まれたものの、それはあくまで自治体の要請に対する努力義務、協力義務に止まるものであった。一方、同条第5項には自転車等の大量の駐車需要を生じさせる施設については、自治体が条例により付置義務を課すことができる施設として「百貨店、スーパーマーケット、銀行、遊技場等」が挙げられているが、その中には全自連が要望した鉄道事業者は加えられなかった。なお、この法改正以降も全自連は引続き国に要望を出し続けるとともに、協議窓口として鉄道各社にも積極的な対応を求めてきたが、現在に至るまで鉄道事業者に自転車駐車場の付置義務は課されていない。
 さらにこの改正自転車法の施行にあたっては、平成6(1994)年6月10日付けで運輸省鉄道局長から各旅客鉄道株式会社代表取締役社長あてに通達が出されており、その中で「鉄道事業者が放置自転車問題に対して単なる協力者として受動的な立場で対応するのではなく、地方公共団体及び道路管理者との適切な連携のもとで放置自転車問題の解決に自らも主体的に取り組むべき旨を明らかにしたもの」と法改正の趣旨が述べられている。続けて積極的に対応すべき事項として「1.鉄道事業者の協力体制の整備」「2.市町村の主催する自転車等駐車対策協議会への参画」「3.市町村からの総合計画案の協議等の場面における鉄道事業者としての対応体制の明確化」「4.自転車等駐車場利用可能用地の検査等鉄道事業者としての対応」の4項目が挙げられ、この項番4の中には「鉄道事業者は、単に用地の譲渡、貸付け等の措置を講ずるだけでなく必要に応じ自ら自転車等駐車場の設営にも努めること」とも記されていた。
 だがこうした通達が出されてもなお、鉄道事業者が自ら整備した区内自転車駐車場は前述した通り、西武池袋線2駅の960台分に過ぎず、これに対して区の条例により付置義務が課せられた商業施設等は44施設、3,600台分が整備されていた。
 また平成14(2002)年1月に区が新税構想を発表したと同日、鉄道事業者各社から出された構想の撤回を求める申入れには、「地方自治体の協力要請があった場合は、自転車等駐車対策協議会等における話し合いを通じて対策を講じることとなっている」として、「自転車等駐車対策協議会」が未設置であることが構想に反対する根拠のひとつに挙げられていた。この「自転車等駐車対策協議会」は改正自転車法の第8条に新たに盛り込まれたもので、同じく第7条の「自転車等の駐車対策に関する総合計画」の策定をはじめ、自転車等の駐車対策に関する重要事項を調査審議するため、道路管理者、都道府県警察及び鉄道事業者等自転車等の駐車対策に利害関係を有する者を構成員として区市町村が条例設置する審議機関に位置づけられるものである。この改正自転車法を盾に、同協議会が未設置であることをもって区からの協力要請の事実はなかったとしたのである。確かに豊島区では同法に基づく協議会は設置していなかったが、法改正以前から放置自転車対策に係る地元区民等との調整の場や駅周辺のまちづくりに関する協議の機会を捉え、駐輪場の整備や用地提供等を再三要請してきていた。だがそうした要請に対し、鉄道事業者からの「協力」は皆無に等しかったこともまた前述した通りである。
 区は平成以降、放置自転車の最大の誘因者である鉄道事業者の協力を得られないまま、財政状況が極めて厳しくなる中でも自転車駐車場の整備等の放置自転車対策に莫大な経費を投じてきた。それにも関わらず、新税構想を検討していた当時、区内放置自転車の状況はさらに深刻さを増していたのである。表2-25は平成4(1992)年以降、10年間の駅前放置自転車数の推移を表したグラフである。
図表2-25 過去10年の豊島区内駅前放置自転車数の推移(東京都調査)
 これは都が毎年10月、晴天の平日午前11時を基準に一斉に実施している都内各駅の放置自転車調査によるものであるが、池袋駅と巣鴨駅はワーストランキング(1~10位)の常連だった。特に平成 11(1999)年は池袋1位、巣鴨3位、またこの年は総務庁が隔年で実施している全国ワーストランキングでも池袋は1位(巣鴨4位)という不名誉な記録を残している(※19)。このうち巣鴨駅については、前述した駅周辺の自転車駐車場3施設の整備により13(2001)年度以降、ランキングの圏外に脱したが、それに替わって自転車駐車場の整備が立ち遅れていた大塚駅がランク入りし、14(2002)年には池袋2位・大塚5位、さらに15(2003)年から17(2005)年の3年間は池袋1位・大塚2位のワンツートップを記録し、以後20(2008)年まで両駅がワースト3のいずれかにランキングされるという状況が続いていった(※20)。
 以上述べてきたように、放置自転車等対策税を構想した背景には、放置自転車対策に係る負担が区に著しくのしかかっていた現状があり、また同じ放置自転車の誘因者でありながら鉄道事業者と他の商業施設との間に法制度上、負担の不均衡が歴然としてあったこと、加えて法に定めるところの鉄道事業者の協力義務も十分に果たされていなかったことがあげられる。さらに従来の施策や自転車利用者のモラルに訴えていくだけでは、最早、放置自転車問題は一向に解決し得ないという深刻な状況に直面し、新たな策として区が課税自主権を活用し、この問題の最大の誘因者である鉄道事業者に応分の負担を求めるという取り組みに出たことは、行政課題の解決のためとは言え、立ちはだかる大きな壁に小さな風穴を開けるがごとき挑戦であったと言えよう。
駅前を埋め尽くす放置自転車
放置自転車撤去作業
巣鴨駅北自転車駐車場(平成13年3月開設)
グリーン大通り登録制自転車置場(平成13年10月開設)

ワンルームマンション税構想の背景

 続いてワンルームマンション税構想の背景について概観する(※21)。
 第1章第2節第1項で述べた通り、住宅確保に困窮する高齢者等の増加に伴い、区は平成2(1990)年度を「高齢者住宅元年」に位置づけ、「地域高齢者住宅計画」及び翌3(1991)年1月に策定した「新公共施設整備中期計画」に基づき、福祉住宅「つつじ苑」の整備に着手した。これに続き、平成5(1993)年9月に初の「住宅マスタープラン」を策定し、高齢者向けの福祉住宅に加え、中堅ファミリー世帯向けの区民住宅700戸を含む1,460戸の公共住宅の供給と良質な民間住宅の供給誘導を柱とする10か年の住宅供給プログラムを掲げ、定住化対策に本腰を入れ始めた(※22)。
 このマスタープランのベースになったのは、前年12月に提出された住宅問題検討委員会の答申である。同検討委員会は鈴木成文東京大学名誉教授を委員長に、学識経験者・区民・区職員で構成される附属機関として平成3(1991)年8月に設置され、「住宅マスタープラン」の策定に向けて「豊島区における住宅政策についての基本的考え方及び緊急に取り組むべき課題」についての検討を諮問した(※23)。約1年余りの間に10回にわたる審議を重ねてまとめられた答申は、ファミリー世帯の転出を主要因とする人口減少と世帯構成の偏り、さらに借家に多い低質住宅や居住水準の向上につながらない小規模住宅の供給等の現状を指摘し、住宅政策の課題にバランスの取れた居住者構成と居住水準・居住環境の向上を挙げている(※24)。
 またこのマスタープランの策定作業に並行して、区は平成5(1993)年3月、住宅政策の基本理念及び施策の基本事項を定める住宅基本条例を制定し、マスタープランの策定を条例上に位置づけるとともに、前年9月には初の「住宅白書92」を公表した(※25)。
 この白書でも区内居住世帯11万8,200戸の6割を賃貸マンションや木造アパート等の借家住宅が占め、その広さは平均約28㎡と23区の中で最小規模であることや、また年間約5,000戸が新築されている住宅の床面積も23区平均を下回り、特に分譲マンションは23区平均の2分の1程度の29.2㎡と狭小で、新規の住宅供給が家族世帯向けの広さを持った良質な住宅ストックにつながっていない現状が明らかにされた。また白書作成にあたって実施された区民アンケート調査(回答数153)ではこうした住宅事情を反映し、今後重点的に取り組むべき住宅施策として「中堅所得ファミリー向け公的住宅の供給」が第1順位に挙げられていた。
 この「住宅マスタープラン」に掲げられた住宅供給プログラムに基づき、区は従来の低所得者向け区営住宅とは別に中堅所得層のファミリー世帯向け区民住宅の整備を推進し、平成7(1995)年度から13(2001)年度までに16団地、312戸を開設した。この区民住宅は「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」に基づく都知事の認定を受け、民間の土地所有者が国・都及び区の補助を受けて建設した住宅を区が一括して長期間(20年)借り上げ、ファミリー世帯向けに供給するもので、その第一号となった「ソシエ西池袋」(15戸)と「ソシエ長崎」(12戸)の入居募集にはそれぞれ6.13倍、8.67倍の応募があった(※26)。また平成6(1994)年度には区内の良質な賃貸住宅への住み替えを希望するファミリー世帯に対し、住み替え後の家賃の一部を助成する「ファミリー世帯住み替え家賃助成事業」を開始し、13(2001)年度末までの新規助成件数は累計125件に及んだ(※27)。さらに平成8(1996)年度から、都心部における居住機能の回復を目的として良質な民間共同住宅の整備を国・都・区が助成する都心共同住宅供給事業を開始し、13(2001)年度までに5団地530戸を供給した(※28)。だがこれら3事業を合わせても1,000戸に満たず、ファミリー世帯の住宅需要に応えるにはとても十分とは言えない状況で、区民住宅ソシエの新築・空き室への応募倍率は毎回ほぼ3倍を超えていた。
 一方、区は平成5(1993)年7月に従来の「ワンルーム形式集合住宅建設指導要綱」を統合する形で「中高層集合住宅建築指導要綱」を改正し、アメニティ形成条例に基づく事前協議や生活環境施設(再生資源集積所)、駐車場施設等の設置基準の強化など、マンション建設に伴う近隣紛争の未然防止や建設後の周辺住環境への配慮を求める指導基準を定めた。その中でワンルーム建築物についても、その適用範囲を住戸面積20㎡から25㎡に引き上げるとともに、最小住戸面積を16㎡から20㎡へ底上げするなど、居住水準・居住環境の向上を図った(※29)。
 区はこうした住宅施策に年間約15億円(12年度決算15億3,800万円)をかけていたが、それでもなお狭あいな住戸中心の住宅供給・住宅ストックのアンバランスは解消されず、ファミリー世帯の区外流出の動きに歯止めはかからなかった。平成9(1997)年5月に改訂した「第2次住宅マスタープラン」及び同時に公表された「住宅白書96」においてもファミリー世帯の豊島区離れがさらに進行している実態が確認できる(※30)。
 区の人口は戦後復興期から高度成長期、特に昭和20年代後半から30年代にかけて急激に増加したが、昭和39(1964)年の約35万4千人をピークに、平成9(1997)年の約24万6千人に至るまで減少の一途をたどった。その主たる要因は転出超による社会減だった。都心部の人口が空洞化するドーナツ化現象、いわゆる地方出身の単身者等が一時的に居を定め、結婚や出産を機に郊外にマイホームを求めて転出するというライフサイクルが高度成長期にできあがり、さらにバブル期の地価高騰による住宅価格・家賃の値上がりが転出超に拍車をかけた。そのバブルが崩壊し、地価が下落していくとともに都心部への人口回帰傾向が見られるようになり、豊島区においても9(1997)年を底に転出超から転入超に転じ、新税構想を発表した14(2002)年1月時点では25万2千人と微増傾向が続いていた。だが転入超になった大きな要因は中国などからの外国人の増加によるものであって、必ずしもファミリー層が増加しているわけではなかった。当時の転入・転出者数の合計は約4万4千人台と総人口の2割にあたり、転出者の居住期間は5年未満が約6割を占めるなど人口移動が著しく、外国人も含めた若い単身者を吸収し続ける一方、子どものいる世帯は流出が止まらないという状況が続いていたことが窺える。それは世帯数(国勢調査)の推移を見ても明らかで、昭和50(1975)年に約13万4千世帯でピークだった世帯数は人口ほど急激な減少は見られず、12万台でほぼ横ばいに推移し、平成2(1990)年の約12万3千世帯を底に増加に転じ、12(2000)年にはピーク時に匹敵する約13万4千世帯にまで回復していた。だが世帯構成の内訳を見ると、昭和45(1970)年には既に単独世帯数がファミリー世帯数を上回り、その後も単独世帯の増加とファミリー世帯の減少は同時に進行し、平成12(2000)年にはファミリー世帯約3万5千に対し単独世帯は約7万5千と2倍を超え、全世帯の56%を占めるに至っていた(図表2-26・27参照)。
図表2-26 世帯数の推移(各年10月1日現在:国勢調査)
図表2-27 世帯構成の推移(各年10月1日現在:国勢調査)

※21 豊島区法定外税検討会議第二部会・ワンルームマンション税(第1回)

※22 豊島区住宅マスタープランについて(H050920副都心開発調査特別委員会資料)
住宅供給プログラム10ヵ年の計画事業費/豊島区住宅基本条例(案)大綱について(H050119副都心開発調査特別委員会資料)

※23 H030805プレスリリース

※24 豊島区住宅問題検討委員会中間報告(H040424副都心開発調査特別委員会資料)
豊島区住宅マスタープラン(素案)について(H041224副都心開発調査特別委員会資料)
H041224プレスリリース

※25 豊島区住宅基本条例(平成5年3月30日条例第15号)
豊島区住宅白書について(H041023副都心開発調査特別委員会資料)

※26 東京都豊島区立区民住宅条例について【ソシエ巣鴨ほか】(H061003・H061130区民建設委員会資料)
特定優良賃貸住宅制度等について(H051102副都心開発調査特別委員会資料)

※27 ファミリー世帯住み替え家賃助成事業の概要(H060714・H061130区民建設委員会資料)

※28 都心共同住宅供給事業概要(H110224企画総務委員会資料)

※29 東京都豊島区中高層集合住宅建設指導要綱、東京都豊島区ワンルーム形式集合住宅建設指導要綱改正について(概要)(H050323・H080315区民建設委員会資料)

※30 第2次豊島区住宅マスタープランについて(H090515副都心開発調査特別委員会資料)
第2次豊島区住宅マスタープラン(H090515副都心開発調査特別委員会資料)
H090604プレスリリース

 こうした人口動態、世帯構成の動向は区内の住宅ストック・住宅供給の状況と深く関連していた。戦後復興期から高度成長期にかけて、地方から大量の若者を吸収するかたちで急増した人口の受け皿となったのは、山手線池袋駅~巣鴨駅間を中心に鉄道沿線周縁部に建てられた民間木賃アパートだった(※31)。盛り場を中心とする第三次産業従業員を対象として自然発生したこれらアパート群は、道路基盤等が未整備なまま市街地化された密集地域に多く、老朽化により更新期を迎えても容易に建替えが進まず、防災上の課題になっていった。一方こうした木賃アパートに替わり、昭和50年代以降、いわゆるマンションブームの波に乗って豊島区でも非木造の共同住宅が建てられるようになっていった。だがもともと空地が少なく、土地所有の細分化が進んでいた豊島区では、土地利用の高度化や収益性の観点から容積率一杯に建てられたマンションが多く、各住戸の床面積も30㎡に満たない狭小な住戸が大半を占めていた。さらにバブル期以降、投資目的でのワンルームマンション建設が盛んになり、そうしたマンション建設に伴う近隣紛争やマンション居住者と地域コミュニティとの関係など、様々な問題が表面化していった。
 こうした状況については、平成10(1998)年度に実施した「豊島区における分譲マンション等の実態と居住者に関する調査」の中でも明らかにされている(※32)。同調査は年々増加傾向にある分譲マンション(同年10月時点で19,468戸、区内住宅総数の約1割)について、区分所有者が多数でその権利・利用関係が複雑になっており、適正な維持管理をしていく上での合意形成に困難を来していたことから、区による支援・誘導等の一定の関与のあり方を検討するための基礎資料として実施されたものである。直近の「住宅統計調査」(総務庁統計局、5年ごとに実施)及び「建築着工統計調査」(建設省、毎年実施)を活用して区内共同住宅のストック・フローの状況を把握するともに、区内に立地する分譲マンションをリスト化し、その管理組合すべてを対象に実施したアンケート調査に基づき維持管理上の問題点と課題を整理し、10(1998)年11月に調査報告書がまとめられた。
 この報告書によれば、平成5(1993)年実施の「住宅統計調査」に基づく区内住宅ストックの状況は、区内住宅総数の75%が共同住宅、うち約6割の59.7%が非木造と木造を上回っていた。共同住宅の所有関係別では持ち家16.3%に対し民営借家74.7%(その他公営借家2.5%、社宅・官舎等の給与住宅6.5%)と民営借家の比率が23区平均の59.1%を大きく上回っており、住戸面積では27.9%が最低居住水準(国の「住宅建設5ヵ年計画」に基づき世帯人員別に定められた健康で文化的な住生活を送る上で必要不可欠な住戸規模水準)を満たしておらず、これも23区平均の22.9%を上回っていた。また管理組合へのアンケート調査結果では5割を超える分譲マンションで商店や事務所等住宅以外の用途への転用が見られ、住宅と非住宅の混在からくる住環境の悪化が懸念される状況だった。
 一方、住宅フローの状況については前年9(1997)年実施の「建築着工統計調査」に基づいて分析されているが、バブル期の地価高騰により減少傾向が続いていた共同住宅の新設戸数は平成4(1992)年以降徐々に回復の兆しを見せていた。1戸あたりの床面積も平成3(1991)年の32.1㎡を底に増加に転じ、9(1997)年には平成元(1989)年以降最大の58.6㎡になっていたが、それでも23区平均の65.2㎡より低い水準で、豊島区においてはファミリー世帯向け住宅より単身者向けの狭あいな住宅供給が主流であったことが窺える。こうした傾向は新税構想発表当時も続いており、平成11(1999)年から13(2001)年度の間に中高層集合住宅建築指導要綱に基づいて事前協議を行った物件のうち、同要綱が定める最小住戸面積20㎡以上で25㎡未満が2,307戸と全戸数の約4割を占め、しかもそのうち約5割の1,066戸が20㎡以上21㎡未満で最低基準をギリギリ満たすものだった(図表2-26参照)。
図表2-28 住戸面積別住宅供給の状況
(平成11~13年度の中高層住宅指導要綱に基づく事前協議を基に作成)
 以上述べてきたように、戦後復興期から高度成長期にかけて大量に建てられた木造アパートから非木造のマンションへと移行していく過程においても、豊島区では一貫して単身者向けの狭あいな賃貸住宅の供給が主流を占め、それにバブルの波に乗った投資目的のワンルームマンションの供給が重なっていった。居住者の流動性が高い賃貸住宅はもとより、特に投資目的のワンルームマンションは区分所有者が全国に分散し、家賃収入を得る手段としてそのほとんどが賃貸化され、さらに事務所等への転用により所有と居住の関係は複雑化し、適切な維持管理に支障を来すことが懸念されていた。
 平成10(1998)年実施の「住宅・土地統計調査」(「住宅統計調査」から名称変更)においても、区内住宅ストック124,940戸のうち約67%が借家であり、その大部分を占める民営借家の65%が30㎡未満の狭あいな住戸で、その平均面積は23区平均の33.5㎡に対して28.6㎡と5㎡も狭いものとなっていた。住宅ストックに占める住戸規模30㎡未満の非木造民営共同住宅の割合は19.7%と23区で最も高く、木造や戸建ても含めた30㎡未満の住戸が占める割合は合わせて41%にのぼり、他の副都心区や近隣区が30~35%程度である中で突出していた。
 こうした狭あいなものに偏った住宅ストックや住宅供給は、単独世帯が約56%と全世帯の過半を占める世帯構成のアンバランスにつながり、それによって定住性の低下や地域コミュニティの希薄化など、将来にわたり地域社会の有り様を固定してしまいかねない状況を生じさせていたのである。ワンルームマンション税はこのような状況を背景として、供給過多なワンルームマンションの建築抑制を図るとともに、その税収をファミリー世帯向け住宅の供給誘導策に振り向けていくことによりゆとりある住宅・住環境を実現し、ひいては子どもから高齢者までの多様な世代が共に暮らす地域社会の形成をめざして構想されたものであった。

法定外税検討会議① -部会による検討-

 新税構想発表4か月後の平成14(2002)年5月17日、第1回「法定外税検討会議」は開催された(※33)。
 前述した通り、区は放置自転車等対策税・ワンルームマンション税の2つの新税のいずれについても賛否様々な意見が沸き起こることを想定し、拙速に条例化するのではなく、課税内容はもとより税そのものの適否も含め、より幅広い視点から議論を深めていくこととしていた。こうした方針に基づいて設置された同会議は、中村芳昭青山学院大学法学部教授を会長、岩田規久男学習院大学経済学部教授を副会長に租税法・財政学・都市政策等の各分野を専門とする学識経験者8名、区民代表6名、区職員(部長級)4名に加え、それぞれの税の納税義務者に想定される事業者も含めた関係者11名の計29名で構成されていた。放置自転車等対策税関係者としてはJR東日本・西武鉄道・東武鉄道・帝都高速度交通営団・東京都交通局の鉄道事業者5者各代表(部長級)及び自転車関連団体代表2名の7名、ワンルームマンション税関係者として建築士・マンション建設・宅地建物取引業等の関連団体代表4名が名を連ねていた。
 またこの法定外税検討会議の下に、放置自転車等対策税及びワンルームマンション税それぞれについて検討する二つの部会と、中立公平な立場で税の適否を判断する学識経験者で構成される専門委員会が置かれた。第一段階として平成14(2002)年6月から年をまたいで翌15(2003)年3月まで、両部会において新税構想に対する各委員の意見集約や課税の根拠等に関する論点の整理が行われ、3月18日の全体会議にそれぞれの部会報告が提出された。これを受けて第二段階として同年4月から9月まで、ほぼ一か月に2回のペースで専門委員会による検討が集中的に行われた(検討経緯:図表2-29参照)。
図表2-29 法定外税検討会議・各部会の検討経緯
 法定外税検討会議はこれらの部会や専門委員会も含め、公開の下で開催され、会議録や会議資料もすべて区ホームページに掲載された(※34)。また、検討の経過を逐次広報紙に掲載するとともに(※35)、マスコミ等を通じて社会的な関心を集めていたことから、各会議での議論の概要は毎回報道機関向けにリリースされた(※36)。それら関連資料は膨大なものとなるが、解決しがたい都市課題に対する問題提起が新税構想の狙いの一つであったことからも、徹底した情報公開・情報提供は議論を尽くすための前提になるものと言えよう。こうした区の姿勢は、本章第1節第2項でも述べたように、透明性の確保と説明責任の徹底を区政運営の第一に掲げる区長の施政方針に沿うものであった。
 しかし新税構想発表直後から鉄道事業者の強い反対の声が上げられ、さらにその鉄道事業者も委員として加わった第一部会(放置自転車等対策税)の中では、改めて区と鉄道事業者との考え方の乖離が浮き彫りになった。特に各鉄道事業者が強く主張したのは、改正自転車法に基づく自転車等駐車対策協議会の設置についてである。これまでの協力実績として同部会の第2回会議に鉄道事業者側から提出された資料の中で、他自治体が設置した協議会への参加状況が各社から示され、こうした協議会を設置することなくいきなり税を課すのは同法を逸脱するもの、まず協議会を設置すべきだとの意見が繰り返された。一方、関係団体選出委員からは自転車法の規定は同協議会の設置を必ずしも義務づけておらず、また協議会を通じた総合計画の策定は全国自治体の3%にとどまり、協議会を設置しても問題の解決に至っていない現状が述べられた。また区側からは同法改正以前から放置自転車対策に積極的に取り組み、個別の駅ごとに駅関係者も含めた協議組織を設けて実質的な検討を行ってきており、そうした協議の場や区議会、地元住民からも駅には自転車駐車場の整備等について要望してきたにも関わらず、これまでの交渉の中で具体的な協力が得られなかった経緯が示された。一方、鉄道事業者が提出した資料では、区とJRのグループ会社(池袋ターミナルビル株式会社)及び東武鉄道との協定に基づき、池袋駅西口メトロポリタンプラザビルに整備した自転車駐車場は付置義務以上の収容台数を確保して区民利用に供しており、鉄道事業者として整備した自転車駐車場に含めるべきとの認識が示された。だがこうした鉄道事業者の主張に対し、同ビルのテナント会社に勤務し、かつボランティアとして放置自転車の撤去活動に関わっている区民代表委員からは、同ビル自転車駐車場の建設及び管理経費はテナント各社も応分に負担しており、鉄道事業者のみが主体となって設置したものとは言いがたく、またビル周辺の放置自転車について再三にわたり問題提起しても全く対応しようとしない管理会社の実態が明らかにされた。
 こうして議論が平行線をたどるなか、第3回の会議で部会長により論点が整理され、課税根拠を検討する前提として放置自転車の「誘因者」という曖昧な位置づけではなく、鉄道事業者や大規模商業施設等を「第一次原因者」(放置をする人)に対する「第二次原因者」として、さらに区が放置自転車対策を講ずることにより利益を得ている「受益者」として捉え、原因者負担・受益者負担のあり方について議論を進めていくよう促した。だがこれに対して鉄道事業者各委員から「放置自転車対策はあくまで自治体が責任を負うべきもの」「費用負担につながる課税内容についての議論に入るのは早急すぎる」など一斉に反発する声が上がったが、あくまでも原因者としての認識を持とうとしない鉄道事業者のこうした姿勢に区民代表委員からは「区任せでいいような発言は改めていただきたい」と怒りの声が上がるなど、議論は膠着状態から抜け出せなかった。
 このため部会長は区民代表委員の意見を踏まえ、鉄道事業者に対して今後の協力内容を次回提示するよう求めたが、第4回会議に出されたその内容は放置自転車防止キャンペーンへの参加や啓発ポスターの掲示など現状の協力内容を越えるものではなく、落胆した区民代表委員の中には「課税やむなし」の声が広がった。こうして最後まで委員相互の認識の隔たりを埋められないまま、第5回会議でまとめられた部会報告は検討の経緯を記すに止まり、各委員から提出された意見書を併記する形となった(※37)。
 一方、第二部会(ワンルームマンション税)においても第1回目の会議では、ワンルームマンションの供給は市場原理によるものとする不動産関係団体選出委員とその管理をめぐって地域コミュニティの中で様々な問題が生じており、供給を抑制すべきとする区や区民代表委員との間に意見の乖離が見られた。だが第2回目の会議において部会長によりまとめられた論点整理に従い、将来に向けて「安心して定住できるまち」をめざしていく上でファミリー世帯を増やしていくべきとの方向性については各委員間で認識が一致した。特に区側から提出された資料「豊島区内分譲マンション所有者・居住者調査」において、直近5年間に区内で竣工した分譲マンション41棟2,832戸(ワンルーム型32棟1,377戸、ファミリー型9棟1,455戸)のうち、ワンルーム型では所有者の95%が区外居住者であり、また居住者の45%が住民登録をしていない実態(ファミリー型では所有者の区内居住、住民登録ともに90%)は衝撃をもって受け止められ、区民代表委員からはワンルームマンションがこのまま増え続けていくと地域コミュニティが維持できないとの危機感が示された。
 続く第3回の会議ではファミリー世帯を増やしていくためにはどのような施策が有効かとの視点から、区の施策や他自治体の取組み事例も含め税以外の様々な手法が検討された。これらの手法には都市計画法に基づく地区計画制度、建築基準法に基づく地区計画内の建築規制条例や建築協定、条例や建築指導要綱による住戸規模の制限や開発協力金の要請など法令・条例等によるものがあげられるが、地区計画は区域が限定され、条例・要綱等も行政指導の域を出ず、いずれも実効性が担保されない状況にあった。
 このため第4回の会議では、従前の規制策に替わる新たな手法として、ワンルームマンションの新築抑制とファミリー世帯誘導のインセンティブとしての財源確保を目的とするワンルームマンション税の課税根拠や課税対象、課税水準など、税そのものの内容に踏み込んだ議論が行われた。各委員からは「ワンルームとファミリーとは別問題で、それを結びつけるのがおかしい」との意見がある一方、「ワンルームとファミリーとの大きな違いは所有者と居住者が一致しているかどうか」「建物の大小に関係なく、ゴミ等のサービスを受益している一方、ルールを守っていない。建築主にも売主責任がある。建てたあとのことも考えるべき」といった意見が出され、区側からも「ワンルームマンション建築主は道路・交通や商業の発達等の利便性を活用し、一定の需要を見込んで建築したワンルームマンションから大きな利潤を得ている。原因者であり、受益者である建築主が費用負担することは合理性がある」との考えが示された。ただ課税対象を25㎡以下とすることについては、「課税の目的からしても最低でも二人用の29㎡、それ以上の35㎡でもいいのではないか」など、その抑制効果を疑問視する声もあがった。こうした議論を踏まえ、第5回会議において部会長によりまとめられた部会報告案が示された。これに対し、マンション建設業界団体代表委員からは改めて税導入に反対する意見及び専門委員会での十分な議論を求める見解書が出されたが、部会報告案については検討の経緯と各委員の主張の共通点・相違点が公平にまとめられているとして委員全員の了承が得られた(※38)。
法定外税検討会議・第一部会(放置自転車等対策税)
第1回会議(平成14年7月23日)
法定外税検討会議・第二部会(ワンルームマンション税)
第1回会議(平成14年6月18日)

※34 豊島区法定外税検討会議(第1回)
豊島区法定外税検討会議(第2回)
豊島区法定外税検討会議(第3回)
豊島区法定外税検討会議会議録(第1回~第3回)
豊島区法定外税検討会議第一部会・放置自転車等対策税(第1回)
豊島区法定外税検討会議第一部会・放置自転車等対策税(第2回)
豊島区法定外税検討会議第一部会・放置自転車等対策税(第3回)
豊島区法定外税検討会議第一部会・放置自転車等対策税(第4回)
豊島区法定外税検討会議第一部会・放置自転車等対策税(第5回)
豊島区法定外税検討会議第一部会・放置自転車等対策税会議録(第1回~第5回)
豊島区法定外税検討会議第二部会・ワンルームマンション税(第1回)
豊島区法定外税検討会議第二部会・ワンルームマンション税(第2回)
豊島区法定外税検討会議第二部会・ワンルームマンション税(第3回)
豊島区法定外税検討会議第二部会・ワンルームマンション税(第4回)
豊島区法定外税検討会議第二部会・ワンルームマンション税(第5回)
豊島区法定外税検討会議第二部会・ワンルームマンション税会議録(第1回~第5回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第1回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第2回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第3回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第4回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第5回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第6回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第7回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会(第8回)
豊島区法定外税検討会議専門委員会会議録(第1回~第8回)

※35 広報としま1214号(平成14年6月25日発行)
広報としま1217号(平成14年7月25日発行)
広報としま1220号(平成14年8月25日発行)
広報としま1229号(平成14年11月25日発行)
広報としま1232号(平成14年12月25日発行)
広報としま1238号(平成15年2月25日発行)
広報としま1244号(平成15年4月25日発行)

※36 H140513プレスリリース
H140618プレスリリース
H140723プレスリリース
H140903プレスリリース
H140924プレスリリース
H141022プレスリリース
H141119プレスリリース
H141217プレスリリース
H150114プレスリリース
H150128プレスリリース
H150304プレスリリース
H150318プレスリリース
H150408プレスリリース
H150422プレスリリース
H150513プレスリリース
H150527プレスリリース
H150610プレスリリース
H150624プレスリリース
H150708プレスリリース
H150902プレスリリース
H150922プレスリリース

※37 豊島区法定外税検討会議第一部会報告‐放置自転車等対策税について

※38 豊島区法定外税検討会議第二部会報告‐ワンルームマンション税について

法定外税検討会議② -専門委員会による検討及び報告書概要-

 平成15(2003)年3月18日、第2回法定外税検討会議(全体会)が開催され、両部会からの報告を受け、その後の検討は専門委員会に託された(※39)。
 学識経験者委員8名で構成される専門委員会は4月8日から9月2日までの5か月間に8回の会議を重ね、より専門的な見地から、また公正・中立な立場で導入の適否等を含め検討を重ねていった。第1回目の会議では、各部会報告を踏まえて専門委員会で改めて検討すべき論点が整理され、2回目以降、放置自転車等対策税・ワンルームマンション税それぞれの税別に3回ずつ掘り下げた議論を行い、法定外税検討会議としての最終報告案がまとめられていった。
 放置自転車等対策税に関しては、鉄道事業者に放置自転車対策に係る経費の一部を税という形で求めることは適当かどうか、すなわち鉄道事業者を放置自転車の原因者または区の対策により利益を受けている受益者と特定できるかがまず問われることになる。鉄道事業者にも責任があることは明らかだが、放置自転車の撤去から駐車場整備までを自治体が肩代わりしているのが現状であり、鉄道事業者に何らかの負担を求めることには一定の合理性が認められると大筋で意見が一致しつつも、その負担の範囲や負担を求めるプロセスについては各委員間で意見が分かれた。自転車法の規定をどう捉えるかについても委員間で温度差が見られたが、「自転車法はみんな協力してやりなさいと抽象的なことしか規定しておらず、そこから先どうするかは自治体の政策判断と言えるのではないか」という自治体の意向を反映する意見や、課税の前提として受益と負担の関係を厳密にすべきという意見も出されたが、「地方税ではそれほど厳密な応益関係を求めていないのではないか、現実問題への対応として課税の可能性はあるのではないか」との見解も示された。その一方、「厳密な応益関係が要求されていないにしても、鉄道事業者がコントロールできない放置自転車の撤去台数を課税標準とすることは問題ではないか」との指摘が新たに提起された。このため、各鉄道会社の事業規模を区内各駅の乗車人員に求める一種の「外形標準」的な考え方に基づいて税率を想定した資料が第4回委員会に提出され、委員間でさらに議論を深めた結果、課税標準を客観的な乗車人員に求める方向でまとめていくことになった。
 次の第5回からワンルームマンション税の検討に移り、本来は都市計画の手法で解決すべき問題ではあるが、現実的にそれが困難な状況で、それに代わる一つの手法として税の導入は可能とする意見が大勢を占めた。その一方、「ファミリー世帯の誘導施策などスパンの長い住宅政策は一般財源で行うべき、法定外目的税で行うのは疑問」「財源調達先が誘導策の対象と別で通常の目的税と異なる」「税本来の目的は収入調達で規制はあくまで付加されたもの。税率を高くすれば目的は達成できても収入調達がなくなるというのでは、税本来のあり方から外れる」など、「法定外目的税」に位置づける区の構想を疑問視する意見が多く、「目的税としての構成は特別な財政需用という点で難しい。抑制を目的とした普通税として税収の使途は条例などで明確にすればよい」との見解が示された。その他、課税基準(3階以上、床面積25㎡以下の住戸が15戸以上かつ総戸数の3分の1以上)の抑制効果や税率(1戸あたり50万円)の妥当性等について意見が交わされ、それらも含め、「法定外目的税」の是非については報告書案の作成段階で詰めていくこととされた。
 以上の審議を経て15(2003)年9月2日、最終回となる第8回専門委員会に報告書原案が提出され、最終的な意見調整により若干の修正は加えられたが、放置自転車等対策税について「鉄道事業者への課税は妥当である」、またワンルームマンション税について「特定行為の抑制を目的とする税の創設は許されるものと判断される」との考え方については各委員から反対意見は出ず、大筋で原案通りの内容で了承された(※40)。
 なおこの原案の「Ⅰ 二つの法定外税提案の背景と検討経過」の中に「議論の意義」について記されており、それは検討会議の意義とも言えるものであり、以下に抜粋する。
-もとより、法定外新税として提案されている2税の導入をめぐる検討会議の議論においては、各団体からの代表の意見はそれぞれの利害関係からいって大きな対立を解消することは困難であった。しかし、このような形の利害対立の調整は本来、きわめて難しい問題を含むものであると言えるので、その利害対立調整の最善の方法は、前記の二つの新税の背後にはそうした基本的な問題が存在していることを十分認識した上で、さまざまな利害関係者の代表が一堂に会して自由に意見を述べあって、より大局的見地から真摯に問題解決につとめようとすること以外にはない。その場合、そうした基本的な問題は、決して「はじめに税ありき」によって解決されるべき性質のものではないといえる。検討会議や専門委員会の議論において、税以外のより適当な代替手段や解決方法の検討にかなり多くの時間を割いたのは、こうしたことが念頭に置かれたからに外ならない。
こうした議論の過程においては、専門家はもとより、これらの法定外新税の納税者となる可能性のある関係者の代表、関係団体の代表、区民の代表、区職員等により率直で自由な、時には厳しい意見のやりとりがなされた。このことは、すべての会議が公開で行われたこととともに、二つの法定外新税の検討においてきわめて重要な意義があったといえる。この点で、今回の豊島区の試みは有意義であった。また、この種の問題について、こうした議論の仕方を継続することによって今後、豊島区における真の住民自治が根付いていくことを期待したい。
 この専門委員会による報告書原案は最終回で指摘された修正点を加え、20日後の9月22日に開催された第3回法定外税検討会議(全体会)に報告書案として提出された。またこれに先立ち、関係団体・区民代表等各委員にこの報告書案に対する意見書提出を求め、各委員から提出された意見書は報告書の本文と一体のものとして区長に提出することとされた。これに対し鉄道事業者からは「自転車法の主旨を考えた対応と、税以外の他の対策についての論議が不足していたと考える」との意見が出され、また「意見書はあくまでも報告書のサブのようなものなので、このままでは条例化に流れてしまうのではないか」との疑問が出されたが、会長から「税についての検討がこの会議の役割であるが、それを超えて代替策も含めて広く検討してきたことはすべて公開で行われた会議録を読んでいただければ解る。それを踏まえて、税としてやるとしたらこういう形が可能ということを示した。あとは区の政策判断であり、区はさらに細かい考慮事項を検討することになる。反対の意見書は区にとって重要な考慮事項なので、報告書と一体とする意見書の中でも先に付ける。これを踏まえて区には政策的な判断をして頂きたい」として会議は締め括られた。
 これにより前年5月以来、1年4か月に及んだ法定外税検討会議の審議はすべて終了し、9月30日、区長に報告書が提出された(※41)。
 報告書の概要は以下の通り。
  • 【放置自転車等対策税】
  • 1.課税の前提
  •   ①今後3~5年間の放置自転車対策の具体的な方策・費用を区民に示すこと
  •   ②放置者の費用負担が撤去・保管費用及び自転車駐車場維持管理費の2分の1前後になるよう撤去手数料等を改定すること
  • 2.課税の根拠
  •   ①放置自転車対策に要する費用を自転車利用者と区民と鉄道事業者で分担することは社会的にみて合理的である。
  •   ②改正自転車法では 自転車駐車場の設置を含めた放置自転車対策について鉄道事業者にも社会的責務があることを示しているが、 現実には区の放置自転車対策に依存しているのが実態であるから、 区の要する費用の一部について鉄道事業者に負担を求めることには社会的な合理性がある。
  •   ③自転車法改正後約10年間における鉄道事業者の主体的な取組みが充分であったとは判断できない。
  • 3.課税の仕組み
  •   ①各鉄道事業者の区内の旅客輸送事業自体を課税客体とし、それを数量化した区内各駅の乗車人員数の合計を課税標準とすることが適切である(他社線からの乗り換え、 自社線からの乗り継ぎ客数は乗車人員数から控除する)。
  •   ②税率は鉄道事業者の負担総額を算定し、それを課税標準となる乗車人員で除した金額とすることが適切である(鉄道事業者に求める費用の総額は、放置者等の自転車利用者の負担総額を上回らないと同時に、対策経費の総額から自転車利用者の負担総額を控除した区の実質負担額の少なくとも2分の1以下とする)。
  •   ③鉄道事業者自らが自転車駐車場を設置した場合などには、一定の減免措置を設ける必要がある。
  • 4.法定外目的税としての要件の充足
    国の同意要件との関係では、放置自転車等対策税の課税標準は他の国税・地方税と重複せず、かつ鉄道事業者の負担額もその事業規模からして著しく過重とはならず、物の流通にも重大な影響を与えず、その他の国の経済政策に照らしても不適当ではない。
  • 【ワンルームマンション税】
  • 1.区の構想について
    区の構想は課税により得た財源をファミリー世帯用住宅の誘導策に充てるものであり、 誘導対象とその財源調達先が異なるので通常の目的税とは異なる。区がファミリー世帯用住宅の誘導事業を進める場合、その財源は原則として普通税などの一般財源に求めるべきであるから、この税を法定外目的税として構成することは適当でなく、 法定外普通税によるべきである。
  • 2.狭小住戸集合住宅の規制と課税
    地区計画による住戸面積の規制、開発協力金の納付、住戸面積の行政指導等の税以外の規制手段は いずれもその有効性に疑問がある。これに対して 課税により抑制する経済的手法は、建築を全面的に禁止するものではなく、また建築主における工夫の余地を残すものであり、さらに事情の変化に応じて政策を変更しうる特徴がある。収入確保という性格を備える限り、 特定行為の抑制を目的とする法定外普通税の創設は、既存の法定税と課税標準を同じくせず、 かつ 建築を全面的に禁止するような高税率でない限り認められる。
  • 3.課税の内容
  •   ①狭小住戸集合住宅の建築を抑制する手段として課税するならば、対象はワンルームマンション限らず、階数も問うべきでなく、国のニ人用世帯の最低居住水準である29㎡を勘案して一定基準に満たない住戸の建築行為を課税対象とすべきであり、税の名称も適切なものに見直すべきである。
  •   ②課税標準は一定基準に満たない住戸数を対象に、建築主を納税義務者とし、建築工事に着工した日から一定期間のうちに申告納付する方式あるいは賦課徴収する方式が適当である。
  •   ③税率は一戸あたり50万円とすることに対して大きな異論もしくは代替案の提示はなかった。
  •   ④住宅ストックのアンバランスにほとんど影響を与えないようなごく小規模な集合住宅、老朽化した民営借家のー定基準に沿った建替え、福祉目的の住宅などは非課税または免税の措置を講じるのが適当である。
  • 4.国の同意要件との関係
    国税または他の地方税との重複はなく、物の流通に重大な障害を与えることもなく、また国の経済政策との関係では全国一律の建築法制のもとで住宅ストックのバランスが失われている以上、地域特有の課題に対し 区が独自の施策をもって対処することは容認される。
 
 専門委員会での審議を踏まえたこの本文に続き、報告書には各委員からの意見書が付されている。放置自転車等対策税については鉄道事業者5社代表委員の連名による意見書が付されており、その内容は「上位規範である自転車法にも憲法の求める課税原則である応益原則にも反して鉄道事業者に費用負担を強いる本条例案は違法といわざるをえない」との結論づけから始まり、報告書の内容についても「法定外税創設に必要な納税義務者への説明及び税以外の適切な手段についての検討が十分になされず、法定外税新設のために必要な適正な手続き要件を充足しているとは到底言うことができない」「鉄道事業者の主体的な取り組みが充分でないとするが、どの程度であれば充分であるのか基準を明らかにすべきである」「国の同意用件である著しく過重な負担にはあたらないとしているが、豊島区が新税を導入すれば他の自治体にも波及することとなり大きな影響を及ぼす可能性がある」「駅は鉄道利用者の最終目的地ではなく通過点に過ぎず、自転車駐車場整備の責任は地方自治体と道路管理者にあるのだから鉄道事業者に課税する合理的な理由がない」などかなり激しい論調で問題点を列挙し、最後に「放置自転車問題の解決に向けて豊島区が優先すべき政策課題は、解決に効果をあげている他自治体の例を参考にしながら有効な対策を立案し実施することである」と述べるものであった。一方、区民代表委員3名の連名で出された意見書は、報告書案を支持するとした上で、鉄道事業者と区それぞれに対する提言が述べられている。鉄道事業者に対しては「本会議における鉄道事業者の主張・姿勢には地域を構成する一員としての自覚がみられず、企業としての社会的責任を回避する態度に終始したことは誠に遺憾」とし、①地域住民・行政と協働し日頃の駅前放置自転車対策活動に積極的に取り組むこと、②放置自転車問題について行政・地域住民との協議の場に着くこと、③自転車駐車場への転用可能な用地について所有地を調査し区に提示すること、④今後区から正式に提示される税について前向きに対応すること、の4点を求め、また区に対しては「税という手法によって鉄道事業者の協力を導くためには、今後の対応に関する積極的かつ責任感溢れる姿勢が不可欠」とし、①地域住民・行政・鉄道事業者が真剣に協議する場を設定すること、②放置自転車対策に掛かるコストの徹底的な見直しを図ること、③自転車放置者への徹底した対応、及び撤去作業の充実、適正駐輪の指導を行うこと、④今後3~5年の具体的方策と必要なコストを区民のみならず鉄道事業者に対しても早急に提示すること、の4点を求めるものであった。その他の関係団体委員からも、「課税標準については、放置自転車と鉄道駅乗車人員との関係を説明するうえで誤解を招く恐れがあり、十分な理解が得られるようすべき。また鉄道事業者と自転車放置者及び駐輪場利用者が同額を負担し合うという基本原則をたてるべき」(街づくり自転車活用研究所)、「鉄道事業者の社会的責任を明らかにし、責任に応じた費用負担を求めることが社会的に合理的であるとした報告書の判断を現状からの一歩前進と評価する」(全自連)などの意見が提出されている。
 一方のワンルームマンション税についても各委員から提出されているが、マンション建設事業者団体委員(日本住宅建設産業協会)からは「ワンルームマンション税を法定外目的税として構成することは妥当でないとする報告書案は一定の評価ができるが、特定行為の抑制を目的とする税の創設は許されるとして目的税に代わり法定外普通税としての導入が認められるとすることはこれまでの議論の目的・趣旨と異なり時期尚早である」との反対意見が出されており、また関係団体委員(東京都建築士事務局協会)からも「区の当初案はワンルームマンションに対する一定の抑制効果を期待できるものだったが、課税対象を29㎡以下の狭小住宅すべてに引き上げる今回の報告書案では抑制ではなく排除につながる、用途地域の見直しを行なった上で規制対象地区を住居専用地域に限定し、区の当初素案を採用すべき」と専門委員会による課税概要の変更案に疑義を呈するものであった。一方、区民代表委員3名からは税導入に賛成するとした上で、①住宅バランスに影響のない小規模のもの、福祉目的のものは減免すること、②ワンルーム建築が可能な地域と不可能な地域を分ける検討、③常駐管理人室設置の条例化や管理組合への指導強化などの要望が出され、他の関係団体委員(東京宅地建物取引業協会豊島支部)からも「ワンルームマンション税を課税すべき。ただし、管理状況が良好な家主が一部に居住する建物と総戸数百以上のものは非課税でよい」など、地域の実情に即した意見が述べられている。
 こうした各委員からの意見については、会長名による報告書前書きに「豊島区においてこれら二つの法定外税の条例化に際しては、この報告書における両税に関する提案はもとより、それらの付帯意見や会議録をも十分に考慮して慎重に審議・検討されることを期待したい」と述べられ、特に放置自転車対策税については報告書本文にも「①今後3~5年間の放置自転車対策の具体的な方策・費用を区民に示すこと」、「②放置者の費用負担が撤去・保管費用及び自転車駐車場維持管理費の2分の1前後になるよう撤去手数料等を改定すること」の2つの前提条件が示されているが、これに加え「鉄道事業者等とともに駅周辺における今後の放置自転車対策をさらに一層推進していくためには、改正自転車法第8条に定める自転車等駐車対策協議会を設置することが必要であると考える」と記されており、その末尾部分は専門委員会での最終調整で「望ましい」からより強い「必要であると考える」に修正された経緯がある。そこにはこれまでの検討会議での議論を活かし、放置自転車等対策税に対する鉄道事業者と区の見解の相違を埋めるべくさらなる努力への期待が込められていると言えるだろう。

新税条例制定に向けた動き

 法定外税検討会議からの最終報告を受け、平成15(2003)年9月30日、区は当初構想に修正を加えた課税概要を発表した(※42)。
 図表2-30は構想時と修正課税案を比較したものであるが、放置自転車等対策税は「放置自転車等対策推進税」に名称が改められるとともに、課税標準を当初構想案の「条例により撤去した放置自転車等」から「区内に所在する鉄道駅における前年度の乗車人員数」に変更され、これに伴い税率についても「1台3,000円」から鉄道事業者に求める負担額を乗車人員数で除した値にあたる「乗車人員千人につき概ね780円(見込額)」に修正された。またワンルームマンション税は当初の法定外税目的税としての位置づけから狭小住戸の建築抑制を主たる目的とする法定外税普通税に変更され、さらに課税客体を一定規模以上のワンルームマンションから床面積29㎡未満の住戸を有する集合住宅の建築行為に広げ、これに伴い税の名称も「狭小住戸集合住宅税」に改められた。2税ともに法定外税検討会議最終報告書の指摘を踏まえ、課税客体・課税標準等に大幅な修正が加えられているが、納税義務者については基本的に変更されていない。
 なお、放置自転車等対策推進税の税率の基礎となる「鉄道事業者に求める負担額」を算定するためには、最終報告書で前提条件のひとつとされた「今後3~5年間の放置自転車対策の具体的な方策・費用の明示」が必要となるが、区は同年12月に「放置自転車等対策緊急推進五ヵ年計画」を策定し、20(2008)年度までに区内各駅周辺の放置自転車数をピーク時(11年:13,954台)の約3分の1の4,600台程度まで引き下げることを目標とし、そのために取り組む事業内容を明らかにするとともに計画期間内の事業費を算出している。また、もうひとつの前提条件とされた撤去保管手数料の改定についても同計画に盛り込み、翌16(2004)年第1回区議会定例会に自転車放置防止条例の改正案を提出、16(2004)年10月1日から撤去保管料を3,000円から5,000円に引き上げることとし、さらに自転車等駐車対策協議会の設置及び「自転車等の駐車対策に関する総合計画」の策定についても同条例の中に新たに規定し、16(2004)年度の協議会設置を打ち出した(※43)。
図表2-30 構想時と修正課税概要の比較
 この修正課税案の公表後、区は10月5日発行の区広報紙に「法定外税特集」を号外で挟み込み、法定外税検討会議の最終報告書の概要と修正した新たな税の考え方を掲載し、区民から意見を募集(パブリックコメント)した。また、10月20日・24日、11月4日の3回にわたり「あなたと区長のホットほっと区民集会」を開催し、二つの税の条例化について、区民から直接意見を聞く場を設けた(※44)。
 そしてこれら区民意見を踏まえ、区は最終的な条例案を作成し、平成15(2003)年11月21日開会の区議会第4回定例会に放置自転車等対策推進税、狭小住戸集合住宅税の各条例案を提出した(※45)。条例案では放置自転車等対策推進税の税率が千人につき780円(見込額)から740円に修正され、延滞・未申告による過料等の規定が乗り込まれたたほかは、ほぼ修正課税案の内容からの変更はなかった。
 この条例案提出の4日後の11月25日、放置自転車等対策推進税の納税義務者となる鉄道事業者5社から区及び区議会への申入れが行なわれた。その内容はこれまでの主張通り区の新税構想を違法なものであるとし、区長に対して条例案の撤回、区議会議長に対し条例案の否決廃案を求めるものであった。また付言として、平成15(2003)年11月11日の総務省自治税務局長通知「法定外税の新設又は変更に対する同意に係る処理基準及び留意事項等」が出ていることをあげ、「今後、この総務省通知を十分に斟酌され、条例案を取扱われるよう申し添えます」とされていた。この局長通知は前年の14(2002)年5月7日に出された同通知を改訂したもので、留意事項に「法定外税の創設に係る手続きの適正さを確保することに十分留意し、納税者を含む関係者への十分な事前説明を行うことが必要であること。特に、特定かつ少数の納税者に対して課税を行う場合には、納税者の理解を得るよう努めることが必要であること」の一項目が追加されていた。時期からして豊島区での動きを睨んだものとも思えるが、鉄道事業者側は「法定外税検討会議には参加しただけで自分たちの主張は認められなかった、それに対する納得のいく説明も受けてない」と徹底抗戦の構えを見せていた。だが区としては1年4か月に及ぶ法定外税検討会議の場において、納税義務者を含めた幅広い議論をすべて公開の下で重ねてきたことで通知の趣旨はクリアしているとの考えだった。鉄道事業者からこの申入れを受け、区は同日、放置自転車対策に鉄道事業者が主体的に取り組んだ場合には減免措置が講じられる税の仕組みを前提に、自転車駐車場の設置や用地の貸し付け等、具体的な協力内容を含む放置自転車対策への協力を改めて各社に要請した(※46)。
 鉄道事業者をはじめとする反対の声が上がるなか、2条例案を付託された総務委員会での審査が12月4日から開始された(※47)。まず放置自転車等対策推進税条例案について、区側からの条例案説明後に質疑に入ったが、委員から「全国初の条例であり、慎重に審査する必要がある。鉄道事業者を呼んで意見を聴いてみたらどうか」との提案が出された。そのため委員会は一時中断され、協議の結果、鉄道事業者を呼んで意見聴取の場を設けるため審査を翌日に延期することとした。翌5日に再開された総務委員会には鉄道事業者5社の各代表が参考人として出席した。委員会への参考人招致も異例であったが、傍聴席に報道各社の記者が詰めかけ、壁際にテレビ各局のカメラが並ぶ緊迫した雰囲気の中で委員会は進められた。まず意見聴取の冒頭で5社を代表してJR東日本常務取締役による意見陳述が行われた。その内容は、「改正自転車法に規定される協力義務は、鉄道事業者に課税、金銭的な負担、設備の設置を強制する仕組みになっておらず、条例案は自転車法に違背する」「放置自転車は豊島区だけの問題ではない。仮に条例が施行された場合、他自治体に波及することになり、事業経営に大きな影響を及ぼす」「放置する人は鉄道利用者だけではなく税の公平性に反する。また区の放置自転車対策により受益が発生しているとすることには異議があり、応益原則にも反する」の3点に集約され、これまでの主張と変わりはなかった。その後の質疑の中でも、自転車法の協力義務の解釈やその実態等をめぐって各委員から質問がなされたが、「これまでも可能な限り協力してきた」「まずは自転車等駐車対策協議会をつくり、その場で議論していくべき」と繰り返すばかりで、今後の具体的な協力に関する回答はないままだった。また「仮に条例が可決された場合に訴訟にもっていくつもりか」との質問に対しては、「訴訟もひとつの選択肢と考えていくことになる」と強硬な姿勢を崩すことはなかった。なお、この区議会の対応が契機となり、翌16(2004)年に地方税法が改正され、特定の納税義務者に対してのみ課税を行う法定外税の条例審議には必ず納税義務者代表の意見聴取を行うことが義務付けられた。
 午前10時から約1時間にわたる意見聴取の後に再開された放置自転車等対策推進税に関する審査は昼休憩を挟んで午後3時過ぎまで続き、「十分な検討が尽くされておらず時期尚早」「鉄道事業者の言うように課税より協議会設置が先」等の反対意見も出されたが、「鉄道事業者は積極的な協力を果たしているとは言えない」「これまでの経緯を踏まえ負担の公平化は必要」など、新税導入に賛成する意見が多数を占め(賛成7、反対2)、放置自転車等対策推進税条例案は可決された(※48)。
 続いて狭小住戸集合住宅税条例案の審査に入ったが、その日は議案説明のみで実質的な審査は次週8日に持ち越された。この審査においても、税以外の手法も含めて賛否様々な意見が出され、「脱法行為等、区の考えとは逆の結果につながる可能性がある。税以外の方法があるのではないか」「課税内容についてはまだ改良の余地があるのではないか、現時点では審議が短すぎる」等の反対意見もあったが、「将来の住宅政策につながるものとすることを前提に、区ができる多様な手法のひとつとして可決すべきもの」「(住宅ストックのアンバランスの是正という)特定政策実現のために一定の効果があると考えられる」「税の導入は最終手段であるべきであり、他の方策にも十分留意することを前提に区の街づくりに対する挑戦という意味で賛成する」などの意見が多数を占め(賛成6、反対3)、この条例案も可決された(※49)。
 委員会審査が終了した翌9日に本会議が開かれ、2条例についての委員会審査報告に続いて反対・賛成それぞれの立場からの討論が行われた後、放置自転車等対策推進税条例案については賛成31・反対4、狭小住戸集合住宅税条例案については賛成29・反対7でいずれも原案どおり可決された(※50)。
 新税条例の成立を受け、記者会見に臨んだ区長は、「条例の目的は放置自転車問題の改善と良好な住環境の整備。総務省の同意を得られれば、こうした課題の解決に全力を尽くしてまいりたい。納税義務者にはぜひご協力いただきたい。鉄道事業者は依然として反対を表明されているが、条例の趣旨をよくご理解いただき、放置自転車問題解決に向けてより積極的なご協力をお願いいたしたい。同じような問題に悩む自治体も少なくない、全国的に大きな問題提起になったのではないか」と述べた。これに対し鉄道事業者側も同日夕に会見を開き、「対策を話し合う協議会も設けず、まず課税ありきはおかしい」、「実施されれば裁判に訴えるのも選択肢の一つ」と強く反発した(11月10日付『日本経済新聞』)。
 また条例成立後の12月12日、区は鉄道事業者5社に制定条例の趣旨・概要等の説明に伺いたい旨の申し出を行なったが、「税の話は受けられない」と断られた。このため、17日に条例説明資料等を各社に送付し、重ねて説明の機会を得られるよう依頼するとともに、鉄道事業者から十分な理解を得ることは困難な状況にあると判断し、19日には総務大臣宛に新税の同意を求める協議書を提出した(※51)。鉄道事業者との妥協点が見いだせない以上、区としては粛々と手続きを進めて行かざるを得なかったのである。
 新税の創設にあたっては、地方税法733条に基づき総務大臣へ協議を申し出、その同意を得る必要があったが、①国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ住民の負担が著しく過重となること、②地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること、③ ①及び②に掲げるものを除くほか、国の経済政策に照らして適当でないことの3項目のいずれかに該当すると認められる場合を除き、大臣は同意するものとされていた。これらの項目についてはいずれも該当しないとの報告を法定外税検討会議より得ており、区長は「総務大臣の同意が得られるものと確信している」とのコメントを発表した。
 総務大臣による同意に係る処理期間は概ね3か月とされていたが、その間にも鉄道事業者との協議に向けた働きかけは続けられ、年が明けた平成16(2004)年1月23日、5社一同のもとでという条件付で説明の機会が設けられた。だがその5日後の28日付で (社)日本民営鉄道協会、(社)日本地下鉄協会、JR東日本の連名で区長宛てに税導入の早期撤回の申入れがなされるとともに、上記にJR各社を加えた連名で総務大臣、国土交通大臣宛てに税導入に関して鉄道事業者への特段の配慮を求める要望書が提出された。このいずれにもJR(6社)、(社) 日本民営鉄道協会(74社)、(社)日本地下鉄協会(40社局)の名を連ねた「豊島区『放置自転車等対策推進税』 についての鉄道業界意見」が付されており、豊島区で税が施行されれば他の自治体にも波及する可能性は極めて高く、全国の鉄道事業者に与える影響は甚大なものになるとの危機感を顕わに、関係機関で本税を是とするような結論に至らぬことを強く求めるものであった(※52)。
 こうしたなか、前年12月19日の新税の同意を求める協議書を提出から3か月が過ぎた平成16(2004)年3月30日、「狭小住戸集合住宅税」について総務大臣より税の新設に同意する旨が通知された(※53)。
 これを受け同年6月1日、区は狭小住戸集合住宅税条例を施行した(※54)。また同時に、新税導入と並行して検討を進めてきた第3次「住宅マスタープラン」を策定し、政策指標のひとつに全住宅ストックのうち住戸面積30㎡未満の狭小な住戸の占める割合をその時点での41.3%から3割以下にまで抑制し、50㎡以上のファミリー世帯向け住戸の占める割合を34.2%から5割以上にまで増加させていく数値目標を掲げ、同税を住宅ストックのアンバランス是正の重要な手段に位置づけた(※55)。
 一方、「放置自転車等対策推進税」についての判断はなかなか下されず、総務省は4月9日に区と鉄道事業者5社代表を同時に呼んで公開で意見を聴く場を設けた。マスコミも注目する公開ヒアリングでは、課税以外の放置自転車等対策の可能性、課税の公正性(違法性の存否)、課税対象に理解を求める手順などについて区、鉄道事業者それぞれが意見を述べ合ったが、両者の主張は平行線をたどった。この際に総務省は「遅くとも5月までには判断したい」としていたが、標準処理期間を2か月以上超過した5月26日、総務大臣から区長に協議の一環として意見書が出された。その内容は同意・不同意の判断を当面見合わせ、税導入に反対する鉄道事業者との協議を継続するよう求めるものであった。これは区が同年6月に改正自転車法に基づく自転車等駐車対策協議会を設置する予定であること、また鉄道事業者側も今後の協力内容については同協議会の場で検討していく用意があると表明していたことから、まずはその場で具体的な協議を進め、その協議を行うために必要な期間は放置自転車等対策推進税に関する判断を見合わせ、協議が一定の結論に達した段階で改めて取扱いを検討するということであった(※56)。
 公開ヒアリングもこうした意見書を出すことも異例の対応であり、総務省としても容易には判断をしかねる案件だったことは窺えるが、それまでの経過からしても鉄道事業者との協議は難航が予想され、区長は同日、「総務省との協議が始まってから既に5か月が過ぎ、一刻も早い同意の判断を待ち望んでいたので、結論が先送りされることは非常に残念なことと言わざるを得ない」と憤りのコメントを発表した。また「法定外税検討会で議論を尽くし、議会の議決を経て自治体の意思として成立したこの税は全国的にも先駆的な取り組みとして注目されており、区にはこれを速やかに実施する大きな責任がある」とし、「地方分権を推進し、自治体の課税自主権を守る立場にある総務省がいたずらに判断を先延ばしするのだとすれば、許すことはできない」と断じた。一方、判断の先送りとの批判に総務省(自治税務局)は「今回の要請は鉄道会社に厳しい話。具体的な協力を迫られることになるのだから」と反論、また鉄道事業者(JR東日本)も「税の構想が撤回されるまで安心できない」との慎重論が根強く、「新税構想が撤回されない状態での協議会の開催は遺憾」としつつ、「放置自転車問題は自転車法にのっとって対応していく。協議会でも税の撤回を主張したい」としていた(5月27日付『朝日新聞』)。
 この異例の総務省要請に対し、第2回定例会開会初日の6月11日、区議会は「豊島区放置自転車等対策推進税に係る総務大臣の早期同意を求める意見書」を採択した。その要旨は、「大量の自転車の駐車需要を呼び込んでいる鉄道事業者の責任を明確にして公平な負担を求めるため、地方自治体の課税自主権に基づき、放置自転車等対策推進税条例を可決」したこと、また「この条例案の審議に際しては、区内に営業する鉄道事業者5社の代表を参考人として招致し、納税義務者となるべき立場の意見を聞くなど、慎重に審議を尽くして」きたことを挙げ、総務大臣の提案は「地方分権を推進しようとする時代の流れに逆行したもの」、「豊島区議会の意思を軽視するもの」であり、法定の不同意要件事由とは異なる条件によって「判断を先延ばしするものであり、現実から目をそらす安易な提案」と言わざるを得ず、また「同意手続の標準処理期間が3か月とされているところ、現在でも5か月を超えており、これ以上判断を留保することは、地方税法に基づく課税自主権を侵害することになり、甚だ遺憾」として、提案の即時撤回と速やかな同意判断を求めるものであった。
 さらに6月14日には改めて区長が会見を開き、総務大臣意見書に対する回答内容を発表した。大臣提案の趣旨については協議会を通じて真摯に対応していくとしつつも、「将来の放置自転車対策のあり方を模索する鉄道事業者も含めた協議と日々現実に発生している深刻な放置自転車問題を解消するために鉄道事業者に応分の負担を求める『放置自転車等対策推進税』の同意協議とは、全く異なる問題である」との認識に立ち、「この法定外税を本年度に導入したとしても、実際の課税は平成17年10月になるため、それまでの間、鉄道事業者との協議も十分に行うことが可能であり」、提案の趣旨に反することにはならないとの考えを示した。また、これまで膨大な経費をかけて放置自転車対策に取り組んできたが、前年の実態調査で池袋駅が都内ワースト1位、大塚駅が同2位と、依然として深刻な状況にあり、「現在の厳しい財政事情のもとでは、鉄道事業者の責任を曖昧にしたまま、これ以上の対策を講じることは困難な状況」と、逼迫した現状を訴えた。さらに本税条例制定にあたっては、事前に鉄道事業者の意見を十分に聞く手続きを踏み、区議会でも鉄道事業者から意見聴取を行うなど、極めて慎重な審議を経て可決成立したものであり、同意判断を見合わせるとの提案は、「豊島区と豊島区議会の意思に適うものではなく、このまま長期にわたって判断を先延ばしにされることは、地方自治体の自己責任に基づく意思決定の意義と重さが失われる」との強い懸念を示し、「要請には応じられない」と総務大臣提案の撤回と早期同意を求める回答書を送付した(※57)。
新税課税概要をテーマに「ホットほっと区民集会」開催
(平成15年10月20日)
新税課税概要案をテーマに「ホットほっと区民集会」
開催(平成15年11月4日)
「放置自転車等対策推進税」
条例案審議に鉄道事業者の意見聴取
(平成15年12月5日区議会総務委員会)
「放置自転車等対策推進税」総務大臣意見に対する
記者会見(平成16年6月14日)

自転車等駐車対策協議会

 こうして区及び区議会と、国(総務省)、鉄道事業者の間に妥協点が見いだせないまま、6月30日、「豊島区自転車等駐車対策協議会」(以下「自転車協議会」)は発足した(※58)。
 公募を含む区民委員8名、区議会議員4名、学識経験者2名、スーパー・百貨店等大規模商業施設関係団体2名、鉄道事業者5名、国・都・警察等関係行政機関5名の計26名から構成される自転車協議会は、18(2006)年度の「自転車等の駐車対策に関する総合計画」(以下「自転車総合計画」)の策定をめざし、ソフト部門・ハード部門それぞれの協議事項別に二つの分科会が組織された。
 このうち自転車等駐車場の整備に関する事業の概要及び自転車等駐車場の設置に協力すべき鉄道事業者の講ずる措置について検討する第二分科会には鉄道事業者5社代表が参加し、8月10日に第1回目の会議が開催された(※59)。その場で協議会に参加するにあたっての基本的な姿勢や考え方、今後の駐輪施設等整備に対する現時点での考えについて発言を求められた各鉄道事業者からは、「放置自転車が交通バリアフリーや緊急車両の障害になると同時に、街の美観を損ねる大きな社会問題となっていることは十分認識している」、「自転車駐車場の整備等ハード面のみならず、防止の啓発に向けたソフト面への対応についてもこの分科会で勉強しながら、できることについては積極的に関わっていきたい」などの発言がなされたが、具体的な協力内容に関する言及はなかった。このため区議会選出委員から、「放置自転車等対策推進税の検討の過程では、区の放置自転車対策に対する具体案があるような発言があったときいているが、残念ながら今回の話のなかには具体的な提案がなかった。次回の分科会では必ず具体的な協力事項について文書で示してもらいたい」との意見が出され、分科会会長からも各鉄道事業者に駅周辺に保有する土地の利用形態や将来の変更計画等に関する資料の提出が求められた。
 以降、第2回(9月21日)、第3回(11月19日)と検討は重ねられていったが、依然として鉄道事業者からの具体的な協力内容は示されないままだった(※60)。その一方で区は、駅舎改築に伴う大塚駅周辺整備事業の一環として大塚駅の利活用地と駐輪場計画についてJR東日本と、また地下鉄有楽町線池袋駅東口地下通路の活用や副都心線雑司が谷駅開業に向けて東京メトロと、それぞれ個別の協議を重ねていた。
 この間の9月13日、総務大臣は5月26日付意見書の判断見合わせから一転し、「放置自転車等対策推進税」に同意する旨を区に通知した(※61)。前年12月19日の協議の申し出から9か月もかかってようやく下された同意判断であったが、この通知には①本件については課税団体(豊島区)と納税者の見解がほぼ全面的に対立したままであり、納税者との協議や相互理解が十分に進んでいるとは言い難い。特定少数の納税者に課税する法定外税の場合には、納税者の理解を得る努力を尽くすことが特に重要であることから、納税者から提起されている種々の指摘や批判を真摯に受け止め、協議・調整を十分に行って、その理解を得るよう、更に格段の努力を行うこと、②特に本件課税が今後の対策費用に充てる目的税であり、また鉄道事業者の協力不足を根拠として鉄道事業者のみに課税しようとする税であることを踏まえ、今後の放置自転車対策の全体像を明示しながら、鉄道事業者の今後の協力の見通し等について十分な協議・調整を行い、鉄道事業者だけが納税者となることについて理解を得るよう努めること、③去る5月26日の意見で指摘した点を踏まえ、自転車法に基づく自転車等駐車対策協議会等の場を活用しながら、放置自転車を解消するための具体的な対策について総合的に協議・検討を尽くすとともに、その状況を踏まえて本件課税のあり方について必要な見直しを行うことの3点を強く要請する意見書が付されていた。
 条件付きとも言えるこの同意を受けて同日、区長は記者会見を開き、待ち望んでいた結果に「一歩前進、豊島区の主張が認められた」と安堵しつつも、全国が注視する放置自転車問題の解決に向けた責任の大きさと対策に全力で取り組む決意を改めて表明した(※62)。会見資料として出されたコメントの中で、「放置自転車等対策推進税は鉄道事業者だけに放置自転車問の責任を負わせようとするものではなく、その解決に向けて行政と区民、自転車利用者、鉄道事業者が責任と負担を公平に分かち合う新たな仕組みを創ろうとするもの」と税導入の意義を強調し、「残念ながらこれまで積極的な協力姿勢が見られず税導入に踏み切らざるを得なかったが、今回の同意を契機に鉄道事業者も自らの責任ついていま一度よく考えていただきたい」と、頑なに反対し続ける鉄道事業者に再考を求めた。また同意が得られたことにより施行にあたっての法律上の障害はなくなったと言えるが、条例施行時期についての記者からの質問に対しては、「同意に付された意見を踏まえ、議会とも相談しながら慎重に判断したい」とし、今後も鉄道事業者との協議を粘り強く続けていく意向を示した。一方、鉄道事業者側も同日、「同意は従来の総務省の措置を無視した唐突なもの」と5社連名で遺憾の意を表明、「成り行きによっては訴訟も視野に入れながら対応したい」(JR東日本)と徹底抗戦の構えを見せ(9月14日付『日本経済新聞』)、日本民営鉄道協会(73社)、日本地下鉄協会(40社局)とJR旅客6社も「同条例はほかの自治体に波及する可能性が高く、鉄道事業者に与える影響は甚大。総務省の『同意』は到底、承服できない」との共同コメントを発表した(9月14日付『朝日新聞』)。
 翌10月27日、区は平成17年(2005年)4月1日に放置自転車等対策推進税条例を施行し、課税時期については当初予定から1年遅らせ、18(2006)年度からとすることを発表した(※63)。この課税時期の繰り下げは、総務大臣の同意に付された意見を尊重し、鉄道事業者との協議期間を十分に確保するためであり、鉄道事業者に対して一定の配慮を示したものと言える。自転車総合計画の18(2006)年度策定を予定し、自転車協議会において鉄道事業者を含めた協議が進められていることを踏まえ、鉄道事業者自らが果たすべき責任について改めて考え直し、放置自転車問題の解決に向けて実のある協力が提案されることを期待してのことだった。そのため鉄道事業者との協議により放置自転車問題が飛躍的に改善する具体的な協力が示された際には現行条例の減免基準の拡大、税率の引き下げ、さらにその協力内容が課税額を上回るような効果が認められる場合には廃止も含めた税制変更もありうるとしていた。そしてこの決定を機に、11月24日にJR東日本(副社長)、12月20日に西武鉄道(常務取締役)、東京メトロ(代表取締役専務)、年が明けた17(2005)年1月19日には東武鉄道(常務取締役)、都交通局(局長)と区長自らが鉄道各社代表を直接訪問し、課税を一年遅らせた旨を説明するとともに、放置自転車問題への理解と協力を要請していった。
 こうして条例施行決定後の平成17(2005)年3月29日に開催された第2回自転車協議会では、鉄道事業者から税の施行に反対する意見表明がなされる一方、東京メトロより用地提供について協力の申し出がなされた(※64)。この用地はかねてから区が個別に要請していた地下鉄有楽町線池袋駅東口地下通路(幅8m、延長120m)の区間で、駐車場として整備できれば500台程度の収容が見込まれるもので、区の新税導入構想発表以降、はじめての具体的な協力申し出となるものだった。さらに自転車協議会としての答申の取りまとめ段階に入った11月7日、同協議会第二分科会の最終回となる第6回会議が開催され、鉄道事業者より上記の申し出を含めた各駅別の協力内容が提示された(※65)。その内容は以下の通り。
 
  • 【池袋駅】
  • ① ウイロード脇敷地に建設予定の業務用施設のうち地下部分を駐輪場スペースとして区へ提供(約220㎡・200台規模、JR東日本)
  • ② 池袋駅前公園横用地(業務用通路の一部)を駐輪場用地として区へ無償提供(約200㎡・200台規模、JR東日本)
  • ③ 有楽町線地下通路部分につき、駐輪場としての活用が可能か各法令等の規定がクリアできることを条件に区へ無償提供(約600㎡・550台規模、東京メトロ)
  • ④ 北口から池袋大橋に至る歩道の隣接鉄道用地(線路敷)の一部を区へ無償提供(約70㎡・100台規模、東武鉄道)
  • 【大塚駅】
  • ⑤ 南口駅前広場の地下部分を区へ無償提供する。(約1,500㎡・800台規模、JR東日本)
  • ⑥ 駅改良に伴う駅周辺開発に併せ付置義務分を含めた一定規模の駐輪場を鉄道事業者等で整備・運営(JR東日本)
  • ⑦ 既存の北口置場用地の区への無償提供を継続(約168㎡・170台規模、JR東日本)
  • 【巣鴨駅】
  • ⑧ 商業施設の開発を伴う駅改良に併せ、付置義務分を含めた駐輪場を鉄道事業者等で整備・運営(商業施設付置義務台数約60台+60台、計120台規模、JR東日本)
  • ⑨ 巣鴨駅第三自転車駐車場用地の提供を継続(約150㎡ 現行で収容台数130台)、また交通局営業所の改修等を行うことになった場合に敷地の一部を区の駐輪場用地として可能な限り確保(都交通局)
  • 【東長崎駅】
  • ⑩ 駅舎改良工事に伴い、区の目標台数以上の駐輪場につき駅の南北口にバランス良く鉄道事業者が自ら整備・運営(概ね600台規模、西武鉄道)
  • 【椎名町駅】
  • ⑪ 南口駐輪場につき引き続き鉄道事業者が自ら整備・運営(現行で200台、西武鉄道)
 
 以上の11項目に加え、今後の検討内容としてメトロポリタンプラザ駐輪場の収容台数拡大、メトロポリタン駐車場東側業務用地の活用、地下鉄13号線新駅(副都心線雑司が谷駅)工事の中で区の駐輪場用地の有効活用に協力の3項目が示され、また道路管理者(国道・都道)からも駐輪施設整備や用地提供等7項目の協力内容と4項目の検討内容が提出された。最終的にこれほど大規模な協力内容を提示したことについて、「今まで提案していた以上の提案をした。今後もできる限り協力していきたい」との補足説明が鉄道事業者からなされ、第二分科会会長(交通評論家・諸岡昭二氏)は「今回示された鉄道事業者、道路管理者からの提案内容を高く評価したい」、区民代表委員も「今まで鉄道事業者に厳しいことを言ってきたが、今日提示された資料は素晴らしい内容だった。鉄道事業者、道路管理者、区の協力に感謝しお礼を言いたい」と各提案を歓迎した。
 これらの協力提案は12月19日開催の自転車協議会全体会で承認され、翌18(2006)年3月27日に提出された自転車協議会の答申「自転車等の駐車対策に関する総合計画(案)」に盛り込まれた(※66)。これにより今後10年間の自転車駐車場新規・拡充整備目標台数6,500台のうち、約4,000台規模の整備が鉄道事業者からの協力により可能となる見込みとなった(用地提供等8か所約3,212㎡・2,460台規模、自主整備4か所1,560台規模)。これだけの具体的かつ大量の協力内容が自転車総合計画に明記されることは、平成5(1993)年の改正自転車法に同計画の策定が定められて以来、全国でも初めての画期的なことであった。答申にあたり、自転車協議会会長(太田勝敏東洋大学教授)は「計画の根幹とも言える駐輪場の整備目標の方針をまとめるにあたって、各鉄道事業者から用地の無償提供等の多くの協力提案をいただき、計画の実効性が確認されたことは、大きな成果であったと思う」と述べ、答申を受けた区長も「鉄道事業者の皆さんから多くの協力提案をいただき、駐輪場整備目標を実現する実効性を得られたことは、放置自転車対策に悪戦苦闘している豊島区にとって非常に大きな宝物をいただいたように感じている」と応じた。
 この答申を受け4月14日、区長は記者会見を開き、放置自転車等対策推進条例を廃止する方針を発表した(※67)。区は条例施行により平成18(2006)年度からの5年間で約11億円の税収を見込んでいたが、鉄道事業者からの用地提供等の協力内容は実勢価格で税収見込みの約2.7倍以上にあたる概ね30億円に換算された。それは「これまで放置自転車問題に対して積極的な協力姿勢を示していただけなかったことに端を発した税創設の背景を払拭するもの」であり、「喫緊の行政課題である放置自転車問題に関して鉄道事業者からこれほどまでの協力が得られたことは、単に放置自転車問題にとどまらず、今後の豊島区のまちづくりに大きな力を得たといっても過言ではない」と鉄道事業者の提案を高く評価した。また今後も協議会は存続させ、自転車総合計画の進捗を検証するとともに、さらなる放置自転車問題の解決へ向けて関係者との協議を続けていくこととなった。こうしたことから税創設当初の目的は達成したものと認められるため、条例廃止の判断に至ったのである。区議会の中には今後も引き続き協力を得ていくため、「税自体は存続させた方がいいのでは」との意見もあったが、区長は「信頼関係を築いた中、税をちらつかすような形はいけない」と、税の存続・復活についてきっぱり否定した(4月15日付『産経新聞』)。また豊島区同様に駅前放置自転車に悩まされている各自治体からは、区の条例廃止方針を現実的な対応であるとし、「鉄道会社の対応が行政の問題と突き放す態度でなく、真剣に話し合える空気になってきた」(台東区)など条例効果を評価する声が多くあがった。その一方、他自治体への波及を防ぐために譲歩を強いられた鉄道各社は「放置自転車問題は税金ではなく、自転車法にのっとり解決をはかるべきだとの主張が理解されていると考えている。今後も従来通り、自転車法にのっとり可能な協力をしていく」とのコメントを出すにとどまった(4月15日付『朝日新聞』)。
 この方針発表後、計画案についてのパブリックコメントを経て平成18(2006)年6月14日、自転車法に基づく「自転車の利用と駐輪に関する総合計画」は策定された(※68)。これにより鉄道事業者の協力内容に法的な義務が生じるとともに、放置自転車問題の解決へ向けた仕組みが整えられた。そして6月23日開会の区議会第2回定例会に放置自転車等対策推進税条例を廃止する条例案が提出され、7月7日の本会議において全会一致で可決された(※69)。
 こうして条例施行からわずか3か月、一度も徴収することなく放置自転車等対策推進税は廃止となったが、この税条例なくして鉄道事業者から具体的な協力を引き出せたかどうかは疑わしい。世論の中には自転車協議会を設置する以前に課税という手法を採った区の姿勢を批判する声もあったが、「新税導入が一石を投じ、事業者の協力が進んだという側面はある」(西武鉄道広報担当者)と認めるように(4月15日付『東京新聞』)、区の新税構想がそれまでほぼゼロだった鉄道事業者からの協力を引き出すきっかけになったことは否めない。また、新税構想がマスコミ等で注目されたことにより、自転車放置者のモラルが改めて問われ、放置自転車問題に対する社会の意識が高まったことは確かであり、全国自治体が抱えていた都市課題に風穴を開けたと言えるだろう。平成14(2002)年1月の新税構想発表から4年余りの歳月を経て、鉄道事業者に応分の負担を求めるという当初の目的は、逆に税という形によらず達成されることになった。しかしこれで放置自転車問題は解決したわけではなく、鉄道事業者から想定を上回る協力を得られた以上、区は自転車総合計画に基づいて確実に放置自転車を解消していかなければならなかい立場に立った。区長曰く「逆に我々の方が真価を問われる」(4月18日付『都政新報』)ことになっていくのである。
「自転車等駐車対策協議会」発足(平成16年6月30日)
総務大臣同意を受けての記者会見(平成16年9月13日)
自転車等駐車対策協議会答申(平成18年3月27日)
「放置自転車等対策推進税条例」の廃止を発表
(平成18年4月14日)

新税構想、その後

 図表2-31は区内駅前放置自転車数がピークだった平成11(1999)年度以降の放置自転車数(都調査)と自転車駐車場・置き場収容台数の推移を表したグラフであるが、前述したように区は莫大な経費をかけて自転車駐車場の整備を急ピッチで進め、放置自転車数を約15,000台から約8,000台にまで減らしていたが、それでも池袋駅をはじめ巣鴨、大塚各駅は都内ワーストランキングの上位を占める深刻な状況が続いていた。また、新税構想を発表した14(2002)年以降、危機的な財政状況を背景に放置自転車対策も頭打ちの状態となっているのが読み取れる。
図表2-31 駅前放置自転車数と自転車駐車場・置き場収容台数の推移(原付含む)
 こうしたことから平成18(2006)年3月に策定した自転車総合計画は、計画期間の18(2006)年度から27(2015)年度までの10か年で放置自転車数を2,000台以下に減少させることを目標に掲げ、そのための駐車場の整備目標として池袋駅2,000台、大塚駅1,800台をはじめ区内各駅周辺で計6,500台分を整備していくという内容になった。
 そして平成19(2007)年4月に、まず鉄道事業者からの協力提案による第1号のウイロード自転車駐車場(収容台数160台)を開設し、以後、道路管理者からの提案も含め、順次調整を図っていった(※70)。その結果、計画の折り返し点にあたる平成22(2010)年度の中間見直し時点で放置自転車数は1,852台と既に目標の2,000台を下回り、また同年度末時点での駐車場整備済・予定台数も5,450台となり(達成率83.8%)、廃止施設分1,793台を除いても3,657台の純増となった。このためさらに放置自転車数を減らすこととし、目標値を1,000台以下に修正するとともに、駐車需要についても見直しを行い、計画終期の27(2015)年度までの残り5年間の駐車場整備目標を2,770台以上に修正した(※71)。
 こうした成果を受け、平成25(2013)年11月26日、区長は月例会見で放置自転車ゼロをめざす対策の第2ステージに入ったとして(※72)、26(2014)年1月に南池袋公園地下に開設する池袋駅南自転車駐車場(1,084台収容)や、JR用地の提供を受け、28(2016)年度末、大塚駅南口駅広場地下に完成予定の大塚駅南自転車駐車場(1,000大規模)などの大規模駐輪場の整備を進めていくとともに(※73)、一定規模以上の建築物の駐輪場附置義務の強化を図る放置自転車防止条例を改正し(※74)、官民一体の放置自転車対策をさらに推進していく方針を発表した。
 また計画終期の27(2015)年度には続く第2次自転車総合計画の策定に向けての協議が進められていたが、その中で第一次計画の進捗状況が確認されている(※75)。それによれば、平成 26(2014)年度放置台数は既に1,000台を切る854台にまで減少し、駐輪施設整備台数も目標の6,500台を上回る6,794台(うち鉄道事業者の協力による整備台数は 2,357 台)に達していた。民間の整備した駐輪施設も含めると区内全体の自転車収容台数は平成17(2005)年度の13,117台から27(2015)年4月1日現在で18,806台(うち区立44施設14,354台)までになっていた。
 こうして放置自転車対策は確実に成果をあげ、その検証を通し、平成28(2016)年4月策定の第二次自転車総合計画へと引き継がれている(※76)。さらにこの第二次計画では、これまでの放置自転車問題等からかつては迷惑がられた自転車が、改めて環境に優しい交通手段として再認識されていることを挙げ、その利活用の総合的な推進が新たな柱に掲げられた。そして長年の懸案だった放置自転車は令和3(2021)年度では405台にまで減少、最早、都内ワーストランキングに入る駅は区内にはひとつもなくなった。
 一方、実際に課税が実施された狭小住戸集合住宅税条例は平成16(2004)年6月1日に施行されたが、その附則に「施行後5年ごとに、条例の施行状況、社会経済情勢の推移等を勘案し、この条例について検討を加え、その結果に基づいて条例の廃止その他必要な措置を講ずるものとする」という見直し規定が設けられていた。このため平成20(2008)年4月、新税導入時に設置された法定外税検討会議第二部会のメンバーだった専門委員(学識経験者)3名と区職員3名(政策経営部長・区民部長・都市整備部長)で構成される「税制度調査検討会議」(会長:池上岳彦立教大学経済学部教授、以下「税制度検討会議」)が設置された(※77)。同会議は諮問された「狭小住戸集合住宅税の継続の適否、制度変更の必要性の有無」について、①税導入時に見られた狭小な住戸に偏った住宅ストックについて引き続き規制・誘導が必要な状況か、②新税施行による抑制効果が確認できるか、③税収は自主財源として機能しているかの観点から検討を加えていった。
 課税対象となる 29㎡未満かつ 9戸以上の集合住宅の着工戸数(建築確認ベース)は、税導入前の平成11(1999)~15(2003) 年度の5か年平均1,069戸から導入後の16(2004)~19(2007)年度の4か年平均 737 戸へと31.1%も大幅に減少しており、ワンルームマンションが急増している他の都心周辺区とは明らかに異なる傾向を示していた。また平成12(2000)年と17(2005)年の各国勢調査における住戸の面積別住宅の建て方を比較すると、30㎡未満が全住戸に占める割合は37%から34%へ、ファミリー世帯向けの50㎡以上は41% から45%へと区内住宅ストックのアンバランスに改善の兆しは見られるものの、17(2005)年の特別区全体平均値(30㎡未満23%、50㎡以上54%)とは依然として開きがあった。今後も木造賃貸アパートの建て替えに伴いワンルームマンションの急増が想定され、また住宅ストックのバランスは一旦変化すると固定化し、長期にわたり将来の居住環境に多大の影響を及ぼすことになるため、引き続きの抑制策が求められるとした。
 こうした検証結果を踏まえ、5月23日の第1回会議から約半年後の11月10日、税制度検討会議は狭小住戸集合住宅税について「住宅政策の一環として、かつ課税自主権を発揮する独自の政策手段として一定の効果を発揮してきたと判断され、継続されるべきである」と結論づける報告書を提出した(※78)。また課税対象となる住戸面積については、国が定める2人世帯の「最低居住面積水準」が29㎡(第8期住宅建設五箇年計画)から30㎡(住生活基本計画)に設定し直されたことから、条例の規定もこれに沿って改めるべきとしつつ、「社会経済状況など勘案し、区の住宅施策のあり方として区が決定すべき」と区の判断に委ねた。
 この報告書を受け、区は平成21(2009)年区議会第2回定例会に課税対象を30㎡に改める狭小住戸集合住宅税条例の一部を改正する条例案とともに中高層集合住宅建築物の建築に関する条例の「ワンルーム住戸」の定義を「専用面積が30㎡未満のもの」に改める改正案を提出、両条例のいずれも可決され、翌22年(2010) 4 月1 日から施行された。なお、この中高層集合住宅建築物の建築に関する条例(17年1月 1日施行)は従来の指導要綱を条例化したもので、22年の改正条例施行時には建築主の説明責任を強化するとともに、防災備蓄倉庫等の設置や町会加入に関する事前協議等、地域コミユニテイ形成への配慮条項が盛り込まれた(※79)。
 以後、狭小住戸集合住宅税は5年ごとに見直しが行われ、平成25(2013)年、30(2018)年にそれぞれ税制度検討会議が設置されたが、いずれも「継続すべき」との検証報告を得て現在に至っている(※80)。
 平成25(2013)年度の見直し時には、12(2000)年・17(2005)年・22(2010)年の各年国勢調査における住戸の面積別住宅の建て方比較で30㎡未満が全住戸に占める割合は37%、34%からさらに28%へと減少するとともに、ファミリー世帯向けの50㎡以上も41% 、45%から51%へと増加し、住宅バランスの是正が進んでいることが確認された。また「住宅・土地統計調査」においても、延床面積30㎡未満の住戸が全住戸に占める割合は、23区中16区が増加している中で、区は15(2003)年の37.4%(特別区平均24.7%)から20(2008)年には36.1%(同25.9%)と僅かとは言え減少にとどまり、また戸数ベースでも30㎡未満が約2,000戸減少したのに対し、50~69㎡の住戸は1,600戸増加した(※81)。
 さらに税収の面では平成16(2004)年度の税施行から29(2017)年度までの14年間に286 件の課税実績により合計約 50 億円(1年平均約3.6億円)の税収が得られており、30(2018)年度の見直し時には、全体として順調に課税が行われていると評価された。また「住宅・土地統計調査」における延床面積30㎡未満の住戸が全住戸に占める割合も、20(2008)年の36.1%からわずか5年後の25(2013)年には32.9%とさらに減少していた。だがワンルームマンションの建築確認申請件数の推移を見ると、「30 ㎡未満9戸以上(課税対象)」は平成 11(1999)~15 (2003)年度の年平均 1,069 戸から平成 16(2004)~29(2017) 年度の14か年平均で 771 戸と 27.8%減少している一方、「30 ㎡未満8戸以下(課税対象外)」は同期間で年平均 271 戸から 533 戸へとほぼ倍の 96.4%も増加しており、「8戸以下」のワンルームマンションが狭小住戸の抑制を阻害する一因になっていることが窺えた。課税対象には一定の抑制効果を発揮しているものの狭小住戸全体の抑制効果は限定的であることが確認され、税制度検討会議では課税免除の「8戸以下」の戸数引き下げも含めた抑制強化案が検討されたが、いわゆる「庭先経営」と呼ばれる小規模零細な建築主への課税強化は税創設時の区方針に反するなどの理由により見送られ、「現状のまま維持することが妥当である」とされた(※82)。
 なお、この見直し以降の住宅ストックの推移を見ると、平成30(2018)年住宅・土地統計調査で30㎡未満が全住宅ストックに占める割合は25(2013)年の32.9%から35.6%に2.7ポイント増加しており、逆に50㎡以上は46.1%から 42.4%に 3.7 ポイント減少している。こうした状況を踏まえつつ、令和5(2023)年度には4度目の見直しが行われる予定である。
 人口密度が日本一で13.01㎢に約29万人(令和4年10月1日現在:288,563人)もの区民が暮らす豊島区においては、賃貸・分譲マンションを中心とする住宅供給は今後も続き、共同住宅が8割以上(平成30年住宅・土地統計調査:82.3%)を占める構造は変わらないだろう。新税構想以前の平成10(1998)年に区内住宅ストックの41%を占めていた30㎡未満の住戸は、30(2018)年には35.6%と5ポイント改善し、狭小住戸集合住宅税をはじめとする抑制策が一定の成果をあげてきたと言える。だがファミリー世帯は微増しているものの、少子高齢化の一層の進展により単独世帯の増加には歯止めがかからず、その割合は平成12(2000)年国勢調査の56%から、20年後の令和2(2020)年には64%を占めるまでに至っており、狭小住戸の建築抑制が必ずしも世帯構成のアンバランス是正にまでははつながらなかった現実も垣間見える。
 そこで平成31(2019)年3月に策定された新たな住宅マスタープラン(※83)は、第1の基本目標に「住み慣れた地域で暮らし続けられる住まいづくり」を掲げ、その取り組み方針に子育て世帯の定住化や高齢者の居住安定化、住宅セーフティネットの構築等を挙げた。さらに第2の目標には「良質で長く住み継がれる住宅ストックの形成」を掲げ、狭小住戸集合住宅税によりワンルームマンションの建設抑制を引続き図っていくとともに、既存住宅ストックの適正な維持管理など新たな課題への対応を挙げている。
 この新たな課題へ対応するため、区は平成25(2013)年7月、区分所有者間の合意形成の難しさや賃貸化や店舗・事務所等への転用により管理責任の所在が不明確になっているなどの課題を抱える分譲マンションについて、居住の有無に関わらず区分所有者の責務を明確化し、管理状況届出を義務化する全国初の「マンション管理推進条例」を制定した(※84)。
 また26(2014)年4月には増え続ける空き家対策として、これもまた全国初の既存建物の調査・通知制度を盛り込んだ「建物等の適正な維持管理を推進する条例」を施行した。その背景には、昭和63(1988)年から平成20(2008)年までの20年間で区内の空き家戸数は14,290戸から21,580戸と、1.5倍も増加していたという実態があった。他の自治体でも空き家対策は課題となっていたが、25(2013)年の「住宅・土地統計調査」では30,370戸とさらに増え、空家率 15.8%は23区の中でもっとも高い割合になっていた。
 震災時の倒壊の危険性はもとより、ごみ・害虫等の周辺環境の悪化や不法侵入等による治安の悪化など近隣住民の不安の声が大きくなっていることに対応し、空き家に限らず、実態として管理が不全な老朽家屋や、建築基準法の完了検査を受けていないために改築や売却等ができない建物など、その予備軍も含め、法的に適合しているかどうかを区が調査し、早期の改修や除却・建替え等につなげていく仕組みである(※85)。
 さらに、平成26(2014)年5月に日本創成会議より「消滅可能性都市」の指摘を受け、その対策の一環として28(2016)年1月、子育て世代が住み続けられるまち、住みたいと思われるまちをめざし、区内で増加する空き家や低未利用な公共施設等の遊休不動産を公民連携で活用する「リノベーションまちづくり構想」を策定した(※86)。これを機に区は空き家活用に本腰を入れ、翌29(2017)年3月には空き家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本指針となる「空家等対策計画」を策定、30(2018)年4月1日には空き家所有者と空き家に住みたい人とをマッチングする仕組みを盛り込んだ「空家活用条例」を施行した(※87)。
 ワンルーマンション問題から空き家問題へ、社会経済状況の変化とともに重点施策の軸足は移り変わっていったが、高密都市ならではの課題を抱え、「住みたいまち、住み続けたまち」をめざす区の挑戦は今後も続いていくことになる。

※70 豊島区立自転車等駐車場条例の改正について【ウイロード自転車駐車場】(H190219都市整備委員会資料)
池袋駅周辺における駐輪場の整備状況について(H191112副都心開発調査特別委員会資料)
H190228プレスリリース

※71 「自転車等の利用と駐輪に関する総合計画」の中間見直しについて(H221215副都心開発調査特別委員会資料)

※72 放置自転車ゼロをめざして~対策の第2ステージへ~(H251126区長月例記者会見資料)

※73 豊島区立自転車等駐場条例の一部を改正する条例について【巣鴨駅第三・池袋駅南自転車駐車場】(H250930都市整備委員会資料)
大塚駅南自転車駐車場(仮称)整備工事請負契約について(H250927総務委員会資料)
豊島区立自転車等駐車場条例の一部を改正する条例について【大塚駅南・池袋駅西第二自転車駐車場】(H281205都市整備委員会資料)

※74 豊島区自転車等の放置防止に関する条例の一部を改正する条例について【附置義務強化】(H251129都市整備委員会資料)

※75 「豊島区自転車等の利用と駐輪に関する総合計画」の見直しについて(H271215副都心開発調査特別委員会資料)

※76 「豊島区自転車等の利用と駐輪に関する総合計画」の見直しについて(H280415副都心開発調査特別委員会資料)
第二次豊島区自転車等の利用と駐輪に関する総合計画

※77 豊島区狭小住戸集合住宅税の見直しについて(H200703区民厚生委員会資料)
H200520プレスリリース

※78 豊島区税制度調査検討会議報告書(平成20年11月10日)
豊島区税制度調査検討会議報告書【概要】(平成20年11月10日)
H201110プレスリリース

※79 豊島区狭小住戸集合住宅税条例の一部を改正する条例(案)の概要(H210618区民厚生委員会資料)
豊島区中高層集合住宅建築物の建築に関する条例の一部を改正する条例の概要【ワンルーム住戸定義変更】(H210619都市整備委員会資料)
豊島区中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整に関する条例、豊島区中高層集合住宅建築物の建築に関する条例の一部改正について【建築主説明責任強化、災害対策施設、町会加入協議等】(H210227都市整備委員会資料)

※80 税制度調査検討会議の設置について(H250627区民厚生委員会資料)
H250527プレスリリース
豊島区税制度調査検討会議の設置について(H300629総務委員会資料)
H300518プレスリリース

※81 豊島区税制度調査検討会議報告書(平成26年1月15日)
豊島区税制度調査検討会議報告書【概要】(平成26年1月15日)
豊島区税制度調査検討会議の検討結果について(H260220区民厚生委員会資料)
H260115プレスリリース
各区の住宅ストックに関する動向【国勢調査】(H250531税制度調査検討会議資料)
各区の住宅ストックに関する動向【住宅土地統計調査】(H250531税制度調査検討会議資料)

※82 豊島区税制度調査検討会議の答申内容について(H310222区民厚生委員会資料)
H310123プレスリリース

※83 豊島区住宅マスタープラン(平成31年3月)

※84 分譲マンションの管理に特化した全国初の条例「マンション管理推進条例」制定へ(H240920区長月例記者会見資料)
豊島区マンション管理推進条例の制定について(H241207都市整備委員会資料、H241207制定)

※85 全国初「既存建物の調査・通知制度」を盛り込んだ「建物等の適正な維持管理を推進する条例」制定へ(H260110区長月例記者会見資料)
豊島区建物等の適正な維持管理を推進する条例について(H250930・H260221都市整備委員会資料)

※86 消滅可能性都市への対策について(H260730区長月例記者会見資料)
豊島区リノベーションまちづくり構想について(H271120議員協議会資料)
H271203プレスリリース
豊島区リノベーションまちづくり構想
豊島区リノベーションまちづくり構想【解説編】

※87 豊島区空家等対策計画(平成29年3月)
豊島区空家活用条例(平成29年12月6日条例第46号)
豊島区空家活用条例について(H291002・H291128都市整備委員会資料)