平成11年第2回区議会定例会招集あいさつ

【目録を見る】

 本日、ここに平成十一年第二回区議会定例会を招集申し上げましたところ、議員各位におかれましては、ご多忙の折にもかかわりませず、ご出席をいただき感謝申し上げる次第であります。


 本定例会はさきの選挙を経て最初の定例会でありまして、ここに慎んで豊島区民を代表される区議会の皆様方に、区政運営に当たる私の考えの一端を申し述べたいと存じます。


 私は、豊島区で生まれ、豊島区で育ち、また議会人、政治家の立場から、区議六年、都議十年と、長らく豊島区に深くかかわってまいりました。豊島区では、これまで木村区長、日比区長、そして加藤区長へと、行政経験者からの区長が続いておりました。今回、私が民間からの初めての区長となったわけでございます。これまで行政経験者で拮なし得なかったことに対しましても、私は民間からの区長として、新しい発想と勇気をもって対処してまいりたいと思います。また、これまで培ってまいりましたあらゆる経験を生かし、愛する豊島区のために、山積する諸問題の解決に全力を挙げて取り組む決意でございます。


 私は加藤前区長から区政運営を引き継ぎましたが、加藤前区長は清廉潔白なお人柄で、公平無私な姿勢のもと、全身全霊を捧げて三期十二年にわたって区政の運営に当たってこられました。ここに区民を代表し、改めて深甚なる敬意を表しますとともに、衷心より感謝申し上げる次第であります。


 それでは、今後の区政運営に向けての私の基本的な考え方を申し述べさせていただきます。


 まず、区政運営に臨む基本理念についてでございます。私は、三つの信条を基本理念として区政運営の基軸に据えることといたします。


 第一点目は、平和と基本的人権を尊重する区政を実現することでございます。平和と基本的人権の尊重は、いつの時代にあっても普遍的な価値観であります。この普遍的な価値観を行政運営に際しての出発点として位置づけ、常に優しい区政、思いやりのある区政を心がけることといたします。


 二点目は、個性ある豊島区を実現することでございます。個性豊かで活力に満ちた地域社会を実現するためには、まず何よりも基礎的地方公共団体としての豊島区の自主性・自立性がより高められなければなりません。私が区民から付託を受けました任期中の向こう四年間は、時代が二十世紀から二十一世紀へと大きく変わる時であります。また、明年四月には、特別区の長年の努力の結果である都区制度改革が実現し、豊島区が名実ともに基礎的自治体となる時であります。さらに、介護保険制度がスタートするという区政にとって重要な節目の時にも当たります。こうした区政の歴史的転換と社会経済環境の大きな変化のうねりの中での区政の舵取りは極めて難しいところでありますが、地方の時代にふさわしい個性ある豊島区づくりに邁進してまいりたいと考えております。


 三点目は、区財政の再建を図るというものであります。現在、地方自治体は、規模の大小を問わず、また都道府県、区市町村の区別なく、一様に苦しい財政状況にあり、地方財政の危機とも言える現状にあると言われております。区長に就任して以来、財政や事業の報告を受け財政状況の全体像を把握するにつれ、予想していた以上の厳しい実態に改めて強い危機感を持っております。財政は区が実施する施策の基盤であり、早急な財政状況の改善なくしては施策の充実もなし得ません。現在の豊島区の財政危機を何としても克服し財政の再建を図ることが、当面、私に課せられた最大の使命であると自覚をしております。


 次に、施策ごとの主な課題について、私の考え方を順次述べさせていただきます。


 まずは、行財政改革についてであります。


 現在、豊島区の残存債務、つまり借金は八百四十億円の多額にも上っています。基金残高も平成二年度に三百五十四億円だったものが現在では三十億円にまで減少しており、財源不足に対処するための基金運用も限界に達し、財政の対応能力が著しく低下しております。また、今後の税収見通しなども、いまだに不明確な段階での極めて粗い試算でございますが、現段階における平成十二年度の財源不足額は七十億円を超えるものと見込まれ、このままでは十二年度の予算編成すら危ぶまれる厳しい状況となっております。一方、平成十一年度の予算執行におきましては、景気の低迷や消費の落ち込み、雇用情勢の悪化など、税収等への影響が危惧される材料ばかりでありまして、赤字決算、そして財政再建団体へ転落する可能性さえ現実的な問題として否定でき得ません。


 この危機的な財政状況を何としても回避するため、平成十二・十三年度の予算編成に向けての二カ年を行財政緊急再建期間と位置づけ、これまで進めてきた行財政改革の手法である内部努力の徹底や投資的経費の抑制、執行方法の見直しなどをさらに強力に推し進めますとともに、施設の見直しや不用・遊休資産の処分などにも積極的に取り組み、聖域なしの徹底した行財政改革を断行することといたします。また、個性豊かで活力に満ちた豊島区を実現するためには、地方分権が強力に推進され、地方自治が充実強化されなければなりません。したがって、それに見合う地方税の拡充による安定的・恒久的な財源の確保についても、国や東京都に対して従前に引き続き、あらゆる機会をとらえ、強く要望・要請してまいる所存でございます。


 行財政改革の推進に際しましては、区民の深い理解と力強い協力が不可欠でありますので、財政の状況を新たな視点から把握できる企業会計方式による決算分析を導入し、区財政のバランスシートを作成することといたします。さらに、区の予算執行をより透明度と信頼性の高いものとするために、他区に先駆け外部監査制度の導入を図ることといたします。なお、外部監査制度の創設にかかわる条例は、次回の定例会にご提案申し上げたいと考えております。


 次に、介護・福祉についてであります。


 来年の四月に介護保険制度がスタートいたします。介護保険制度は、従来の福祉施策等のあり方を大きく転換させるものであり、円滑な導入が何よりも望まれるものであります。しかし、かつてない深刻な財政危機の中で迎えた介護保険制度は、その実施まで残すところあと九カ月しかありません。全国の自治体が実施準備作業に追われておりますが、円滑な実施が危惧されるような声も聞こえてまいります。実施までの期間はあとわずかでありますが、円滑に実施が開始されるよう最大限の努力をしてまいります。


 この介護保険制度をはじめ年金制度などに見られるように、現在は支え合いのあり方が大きく変化している、まさにその時であります。支え合いのあり方は、個人の自助努力、住民同士や地域社会での相互の援助、それに行政の対応が、場面や状況に応じ適切な役割分担により、お互いに機能し合うことが必要であります。このような中で行政が受け持つものは、総花的な福祉から真に必要とされる分野への福祉と向かうべきであると考えます。この方向転換は、決して福祉切り捨てというような短絡的な思考としてとらえるべきではありません。限られた財源を有効に配分し、そして実施は公平かつ公正に行う、これが今後の福祉施策の遂行の基本であると考えております。


 次に、健康についてであります。


 我が国は、病気の克服、栄養の向上などにより急速に長寿を実現しました。人生八十年と言われ、我が国は世界一の長寿を誇っています。人生の期間が長くなればなるほど、健康の重要性が高まります。本来、健康管理は自己の責任で行うのが基本であります。しかし、区民の健康の度合いは、今後の高齢者対策のあり方や介護保険制度にも大きな影響を及ぼすものとなります。区民の皆様が健康管理のしやすい環境を整備することが重要であると認識しております。その意味でも健康プラザとしまの円滑な運営を図り、区民の皆様から幅広いご利用をいただけるよう心がけてまいりたいと思います。


 次に、環境についてでございます。


 「宇宙船地球号」という言い方がなされましたように、地球的規模から環境を考えるということは、今や世界的潮流であります。一方、その対策は、地域の中からの一歩一歩身近な行動の積み重ねが必要とされております。今や区民生活の中には、省資源・省エネルギーやリサイクルの意識が広く浸透しているものと思います。


 来年は清掃事業が区に移管になります。清掃は生活に最も密着したものであり、基礎的自治体行政を象徴する事業の一つであります。清掃事業を区の事業として円滑に運営し、清掃とリサイクルの一体的展開を進めることにより、区民の環境意識の高まりにより一層応えられるものになると考えております。なお、清掃工場の運営に際しましては、ダイオキシンをはじめとする対策には万全を期す所存であります。


 また、私は区民の皆様から「豊島区は街が汚い。何とかしてほしい」という声をよく聞きます。ポイ捨ては人々のモラルにかかわることでありますが、快適な環境、気持ちのいい街をみんなの意識でつくり上げたいと考えております。


 次に、新しい副都心づくりについてでございます。


 中小・零細企業の振興、商店街の活性化、地域経済の発展を図るためには、元気な豊島区をつくり上げなければなりません。豊島区は、副都心を抱え、本来、潜在的な活力を十分に備えた地域であります。かつて池袋副都心は、サンシャインシティ、東京芸術劇場、大規模なデパートやホテルの建設など、活発に街づくりがなされてきました。しかし近年は、新都心としての発展が著しい新宿やファッショナブルな街として発展している渋谷をはじめとする他の副都心に比べ、池袋副都心の整備は大きく立ち遅れており、今のままでは他の地域から取り残されてしまう状況のように感じます。


 現在、東池袋地区では地下鉄十三号線の整備をはじめ、同線の新東池袋駅の設置、環五の一道路の整備、東池袋四丁目市街地再開発事業、補助八一号線の建設と沿道地区の面的整備など、都市計画事業が今後集中的に実施されていきます。池袋を中心とした整備を進めることにより、大塚、目白をはじめとする豊島区全体も活性化することができると信じております。また、街の魅力が高まれば、産業の活性化にもつながるものと考えております。現在事業化されている事業や今後予定されている事業を新しい副都心づくりの観点からの総合的な街づくりとしてとらえ、二十一世紀という新しい時代に向けて、他の副都心に負けない元気な街をつくり、池袋副都心の発展に最大限の努力を図ってまいりたいと考えております。


 次に、防災についてでございます。


 私は、さきの阪神・淡路大震災の惨事を見聞きする中で、災害時の速やかな対応の必要性を痛感いたしておりました。私自身は、防災に限らず、二十四時間体制の区長として執務に当たりますが、私一人が二十四時間体制であっても十分な機能を果たすことができないのは当然であります。災害時をはじめとする緊急時にこそ迅速かつ的確な判断が必要とされるのであり、幹部職員からなるいわゆる危機管理体制の確立が必要であります。現在、区内に在住している幹部職員はごくわずかという状況でありますが、幹部職員が区内に居住することによって初めて、緊急時に迅速な対応ができるものであると考えます。職員にとっては負担のかかるとこととは思いますが、区内に居住することによる緊急時体制の構築をぜひとも実現してまいりたいと思います。


 次に、地域文化の振興についてでございます。


 地域に根差した文化的活動は、私たちの生活を豊かにし、地域社会での人々のつながりを深める基盤となるものであります。街のあちらこちらで催されるお祭りやイベントなどが地域社会での連帯感やふるさと意識の醸成に大きく寄与していることに、豊島区で生まれ、そして地域の中で育てていただいた者として、深い実感を覚えます。今年で十一年目を迎え多くの区民の参加により開催される池袋演劇祭などはその具体例であり、区としても積極的に支援し次世代へ引き継いでいくべき文化的活動であると言えます。


 また、国の重要文化財である西池袋の明日館、都の有形文化財である雑司が谷の鬼子母神堂や旧宣教師館など、区内には幾つもの文化的遺産が現存しており、長崎の獅子舞についても区の無形文化財としての指定を受けております。これらの文化財について、区民の貴重な財産として次の世代に引き継ぐために維持・保存に努めるとともに、今回改めて西池袋の故江戸川乱歩の旧宅を活用した記念館の開設に向けて、区としての取り組みを検討してまいりたいと存じます。


 次に、教育についてでございます。


 現在、我が国では教育制度全般にわたる教育改革が進行中でありますが、教育委員会におきましても平成十四年四月実施の完全学校週五日制や来年四月の新学習指導要領の移行措置などに対応すべく、調査・研究を重ねていると聞いております。また、減少してきているとはいえいじめ問題や年々増加している不登校児童への対応、最近話題が多い学級崩壊の問題、さらに数年累増が続いている青少年非行の実態など、子供たちの状況は極めて憂慮すべきものと受けとめております。これらの問題を解決するためには、家庭、学校、地域そして行政とが一体となって継続的に取り組むことが不可欠であり、二十一世紀を担う子供たちのために、私も先頭に立って努力することをお誓い申し上げる次第であります。


 次に、顔の見える区長として開かれた区政を推進していく上で、今まで以上に区民の皆様にもっと区政を知っていただくために、私自ら行動を起こします。


 その一歩として、七月下旬には「こんにちは一日区長室」のタイトルで、庁舎の一階にあります区民相談コーナーに詰めまして、区民の方お一人お一人と私が直接お話する機会を設けたいと考えております。また、「あなたと区長のホット・ほっと区民集会」と題しまして、区政の重要課題についてご意見・ご要望を聞く場を七月から設けて、第一回目は「介護保険」、二回目は「防災」などをテーマに実施いたします。さらに、Eメール機能を備えた専用FAXを秘書執務室に既に設置をいたしておりますほか、来年に開設いたします豊島区ホームページ内にも、私と区民の皆様との双方向のコミュニケーションが可能となるような方法を用意したいと考えております。一方、情報公開に関しましても、より一層開かれた区政を目指し、さらなる推進に向けての検討を鋭意進めているところであります。


 次に、区長交際費の情報公開でございます。


 区民の皆様が納税者として、区政のさまざまな経費の支出について、詳しくその内容を知りたいと思われるのは当然のことであります。交際費支出の相手先、内容についてすべてを明らかにして公開をいたしますことは、区民の皆様に区政の信頼を得る上でも極めて重要なことであると考えております。したがいまして、相手先のプライバシーとして社会通念上どうしても公開できない部分を除きまして、私の就任以降の支出につきましては全部公開をいたしてまいりたいと考えております。


 次に、行政のサービスについてお話したいと思います。


 民間では、接客の態度が売り上げに直接影響します。そのため社員教育も徹底したものになっています。私自身の経験でも、行き届いた接客態度が自宅に帰っても心に残ったことがありました。行政は、公共サービスを区民の皆様に買ってもらうものだということもできます。区民は必要に迫られて区役所を訪れます。区役所は公官庁の中でも最も住民と接する機会の多いところです。区役所での職員一人の応対は、職員全体の印象となり、豊島区行政の評価にもつながるものです。私は、人の心を感動させる民間でのサービス精神をぜひとも行政に取り入れ、心の通った区政を進めたいと思っております。豊島区の庁舎は二十三区で最も古く、執務環境は決してよくありません。しかし、古い庁舎だからこそより一層のサービス精神の向上が必要であると思います。


 次に、私自身の報酬の減額について申し上げます。


 豊島区の当面の最大課題は財政の立て直しにあります。今後、行財政改革を強力に進めていく決意は既に繰り返し述べてきましたが、行財政改革推進の姿勢を示すためにも、区政執行の最高責任者として、私自身の報酬を減額したいと思っております。具体的な内容につきましては、条例を提案する際にお話することといたします。


 私が区長の職務を開始してからまだ二カ月にも満ちませんが、この間、助役以下各部局に対しまして幾つかの指示をいたしており、私の豊島区に対する思いも徐々に庁内に行き渡ってきていると感じております。私が初登庁した日に、私は職員の皆さんに、元気・やる気・勇気を持って区政に当たるよう訓示いたしました。この精神が職員の皆さんにも浸透するように、そして豊島区自身が安心と思いやりに満ちた元気のある自治体となることを願ってやまないところであります。激動の時に、財政難を抱えた豊島区の舵取りは困難を極めるものと覚悟しております。私自身も元気・やる気・勇気、この精神を忘れることなく、渾身の勇を奮い区政執行に当たることをお誓い申し上げます。


 最後に、本日ご提案申し上げる案件は、条例四件、契約五件、補正予算一件、報告一件、合わせて十一件でございますが、各案件につきましては後刻助役より説明をいたさせますので、よろしくご審議の上ご賛同を賜りますようお願い申し上げる次第であります。これをもちまして、私の招集のあいさつ並びに所信表明を終わります。ご清聴ありがとうございました。