目次
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Ⅵ.遺物は語る
海外からの渡来品
このタイトルからは意外な感じがするとは思いますが、染井遺跡では、発掘した4地区すべてから、量はごく少ないながらも中国製の磁器が出土しています。また、日本郵船地区では江戸の遺跡の中でもたいへん珍しいヨーロッパ製のワインボトルも見つかつています。つまり、大名屋敷(加賀美家地区・霊園事務所地区)でも、町人地(丹羽家地区)・植木屋(日本郵船地区・丹羽家地区)でも輸入品が消費されていたということになります。
① 日本郵船地区出土のワインボトル(左)と文京区動坂遺跡出土の同形のワインボトル(右)。
中国の磁器の生産地景徳鎮は江西省にあります。ヨーロッパから来たワインボトルは、アフリカ南端の喜望峰・インド・インドネシアを経由し、実に地球を半周する旅を経て、染井遺跡に来たことになります。
中国製の磁器は、図2・5~7の杯、3の中皿、4の散蓮華などで、普段の生活で使用されていたもの、つまり日常雑器です。特に、6の杯は底に「茶」と書かれており、湯呑みに使われていたのでしょうか。散蓮華は現在でも食器の中ではポピュラーなものです(散蓮華のルーツが中国であることもわかります)。しかも、江戸市中ならばいざ知らず、江戸近郊の農村である染井遺跡でも海外からの交易品が見られるというのは注目すべきことです。
②日本郵船地区出土の中国製磁器の碗・小皿の破片(17世紀中葉)。
ほとんどは破片になって見つかります。
「鎖国」には「閉ざされた国」というイメージがありますが、江戸からヨーロッパにまで通じるしっかりしたパイプがあったことを「もの」は語っています。
③加賀美家地区出土の中国製の磁器の中皿(17世紀中葉)。完全な形で出土するものは珍しい。
④染井霊園事務所地区出土の唐草文が描かれる中国製磁器の散蓮華(18・19世紀)。下はその実測図。
⑤染井霊園事務所
地区出土の草花文を描く中国製磁器の杯(18・19世紀)。
⑥染井霊園事務所地区出土の中国製磁器の杯(18・19世紀)。底に「茶」という文字が書いてある。
⑦ 染井霊園事務所地区出土の麦穂を絵付けした中国製磁器の杯(18世紀)。