「杉の実」という地籍は、あるものには「杉呑」とあり、その何れが正しいかは、古老に尋ねても判明しないが、同じものではないかという。
その地籍は、「国道一二六号バイパス」の「田間交差点」の近くにある「東金緑花木センター」の北部水田一帯をさす。
この水田に流れおちる水の分水溝、樋が、杉之実樋である。その位置を図面によってあらわすと、左図のようになる。
すなわち、菱沼堰で分水された十文字川の水は、田間新田旧国道ぞいに南下するが、国道につき当たった地点で、国道の下をくぐる樋がある。これが、杉の実樋で、この樋をくぐって流れた水が、杉の実地籍に流れるのである。
樋の長さ壱丈四尺一寸
竪内法 八寸五分
横内法 九寸弐分
敷厚 弐寸
無勾配
水丈け 四寸
方位 酉の弐分
というが、志賀吾郷著「東金町誌」には、
「一、享保元年(一七一六)丙申(ひのえさる)九月五日 御裁許裏書
菱沼樋と同一の御裁許にして、樋の寸法勾配等従前の如くにて更に敷(しき)参寸を上ぐる事となれり。
一、同年十二月十九日 為取換証
同年九月五日御裁許裏書に基き議定証を為取替樋の偃替をなし敷参寸を上ぐる為め、厚さ四寸弐分の枕石を据ゑ付け之を議定石次を御裁許石と称ふるなり。」(三〇二-三〇三頁)
とあり、安政五年(一八五八)戊午(つちのえうま)一〇月、明治二五年(一八九二)一二月、大正四年(一九一五)九月一四日、昭和一〇年(一九三五)一〇月一日と偃替えが行なわれている。
なお、一〇年一〇月一日のふせ替えに関して「杉の実樋材料変更偃替に関する件」として、
「一、杉の実樋は従来木質なりしものを、関係区協定の上鉄筋コンクリート製に改造したること。
一、工事の施行は、大正四年(一九一五)九月一四日附為取替議定証を以て規準とせしこと。
一、敷石検分の結果に基き其の儘新樋の据付を完了せしこと。
一、樋尻工事の総べては、本県土木課に於て之を負担せられしこと。」(三〇三頁)
以上証書三通を作成し、関係区各壱通を分有すと記録されている。
この杉の実樋は、「昭和四、五年頃、県道拡巾のため、樋の長さを変更しているが、通水断面、勾配等は昔の儘変化ないよう施行してあり、両総用水が配水されるに従い、三ケ村は殆んど引水せず、砂押部落の用水に充当している。前の内の水利権は今も存在している。」(1)という。
注(1) 「両総中部土地改良区史」(昭和五六年九月刊行)(両総中部土地改良区史編纂委員会編五一一頁)
参考資料
大 | 月 | ||
朔日 | 二又 | 十六日 | 前之内 |
二日 | 前之内 | 十七日 | 二又 |
三日 | 砂押 | 十八日 | 砂押 |
四日 | 前之内 | 十九日 | 二又 |
五日 | 二又 | 二十日 | 前之内 |
六日 | 前之内 | 廿一日 | 二又 |
七日 | 二又 | 廿二日 | 前之内 |
八日 | 砂押 | 廿三日 | 砂押 |
九日 | 前之内 | 廿四日 | 二又 |
十日 | 二又 | 廿五日 | 前之内 |
十一日 | 前之内 | 廿六日 | 砂押 |
十二日 | 二又 | 廿七日 | 二又前之内分ケ |
十三日 | 砂押 | 廿八日 | 二又 |
十四日 | 前之内 | 廿九日 | 前之内 |
十五日 | 二又 | 三十日 | 砂押 |
小 | 月 | ||
朔日 | 前之内 | 十六日 | 前之内 |
二日 | 二又 | 十七日 | 二又 |
三日 | 前之内 | 十八日 | 砂押 |
四日 | 二又 | 十九日 | 前之内 |
五日 | 砂押 | 二十日 | 二又 |
六日 | 前之内 | 二十一日 | 砂押 |
七日 | 二又 | 二十二日 | 二又 |
八日 | 前之内 | 二十三日 | 前之内 |
九日 | 二又 | 二十四日 | 二又 |
十日 | 砂押 | 二十五日 | 前之内 |
十一日 | 前之内 | 二十六日 | 砂押 |
十二日 | 二又 | 二十七日 | 二又前之内分ケ |
十三日 | 前之内 | 二十八日 | 前之内 |
十四日 | 二又 | 二十九日 | 砂押 |
十五日 | 砂押 | ||
(志賀吾郷著「東金町誌」) |
(二)用水路杉之実樋偃換請求事件の訴(明治二五年(一八九二)一二月の偃替前の訴訟)
被告人 古川秀次郎
用水路杉之実樋偃換請求事件ノ訴
請求ノ目的
一、山辺郡東金町田間字杉之実ニ偃セ在ル所ノ用水路樋ノ偃換ヲ請求ス。
樋ノ長サ壱丈四尺壱寸
内法竪八寸五分横九寸弐分
樋敷板厚サ弐寸無勾倍
請求ノ原因
山辺郡東金町田間字杉之実ニ偃セ在ル所ノ樋ハ、原被告旧三ケ村ノ用水路ニシテ、右三ケ村ニ於テ費用ヲ分担シ、(費用ノ分担方法ハ平均ニハアラズ)破損ノ際之ヲ偃換ワルノ旧慣ニシテ、既ニ享保年度ノ裁許、安政年度ノ為取替証等アリ、被告ニ於テ異議ヲ挟(ハサ)ムノ余地ナキモノナリ。目下右杉之実樋破損セシヲ以テ被告ニ対シ偃換ヲ請求スルモ被告ハ之ニ応ゼズ。
一定ノ申立
右ノ次第ナルヲ以テ被告ハ原告ト共ニ、山辺郡東金町田間字杉之実ニ長サ壱丈四尺壱寸内法竪八寸五分横九寸弐分敷板厚弐寸無勾配ノ樋ヲ偃換ヘ、若シ被告ニ於テ右偃換ヲ怠ルトキハ原告一手ニテ之ヲ偃換ヘ其費用ヲ分担シ訴訟費用ヲ負担ス可シトノ判決相成度候也。
証拠方法
本訴ノ真実ハ享保元年ノ裁許状、同年度ノ議定書、安政五年ノ済口証文同年度ノ約定書現場絵図面等ヲ以テ証拠立テ候。但シ被告答弁ノ次第ニ依リテハ尚提出スベキ証拠物有之候。
附属書類表示
一、訴訟代理委任状 壱通
一、現場絵図面 壱葉
明治廿五年九月五日
右原告人代理
田辺慎一郎印
遠山七左衛門印
滝口市郎印
土屋辰治郎印
千葉地方裁判所
八日市場支部長
判事 藤瀬真臣殿
(両総中部土地改良区史編纂委員会編「両総中部土地改良区史」五一一~五一二頁)