東金地方では、道程(みちのり)をきかれると、
「すぐそこです。一里ばかりです。」と答えるという。
今では、「四キロメートルですとか六キロ位ですよ。」とはっきり言うようになっているが、昔はそうでなかったという。
ある人が、「○○まで、どの位ありますか。」と尋ねたら、「ついそこです。一里ばかりです。」と答えるので、そうかと思って行って見ると、なかなか○○につかない。
その人は、やがて一里も来たと思う頃、
「○○はこのへんでしょう。あとどの位ですか。」と尋ねたら、前回と同じように、「あと一里ばかりです。」という。
何回尋ねても、どこまで行っても、
「すぐそこです。一里ばかりです。」
と答えるという。どこまでいっても一里で果てしがないという言い伝えは、大袈裟(おおげさ)であると思うが、上総地方の口ぐせであったのであろう。
これは藤沢衛彦編の「日本伝説・上総の巻」に記されている俚諺伝説である。hb
「……前略……。東金を中心とする地方では、一里のみちのりがなかなかに長いのは事実らしい。『房総一覧志』に、『此辺(東金辺)すべて上総のそこ一里と言ふて、五十町にも過ぎたり。』と見えるものが、事実の真相を語るもので、そこ一里といふも、合せて五十町(一里十四町)に過ぎなかったのである。」