夏の土用入り三日目に行なわれる農耕儀礼、二、三日前から子どもたちにより準備がされる。麦、藁、竹などが集められ、一定の場所に孟宗竹の櫓を立てる。上に乗った子が縄をたぐって、材料を吊り上げて順につめ込んでいく。
これとは別に、村道の各所に麦束(稲藁束)を、二〇メートルぐらいに置く。また当日までに、松明(たいまつ)、高張提灯を手作りにして用意する。
各戸では穂のない稲束で苞(ツト)を作り、中に飯、うどん、団子、飴、饅頭(まんじう)等をつめたものを門口に下げるか、田の畔、農道等にさしておく。
夕方になると子どもたちが集合し、躁(はしゃ)ぎ出し、やがて松明に点火して振り廻しながら、行列を作って、囃(はや)し歌を大声で唄いながら、村内を巡るために出発する。地区によっては、大人や青年団が囃子下座(はやしげざ)をつとめて、笛や太鼓でにぎやかに随行する。やがて子どもたちは、道端に置いてあった稲束に次々に点火しながら進行する。
こうして一行は村内を巡って、最後のひときわ大きな櫓を燃やす。
これは村境とされる地点(川岸が多い)で終るようである。
幸田では広瀬ざかいまで行きつくと、提灯の竹棒を地面にさして矢来(くね)を作って帰ってくる。
夏の夜の青田の中に、点々と火が燃え、大かがり火がはぜながら炎上し、これによって稲につく害虫を防除しようとした。
往時の農民の願いがうかがえるものである。
ナムキショ ナムキショ ナムキショ
ナームキショ オクリショ オークンショ
ナームショ オクンドン
イネムショ サキンナッテ
ヨロズノムショ オクンドン
ナームショ オクジョ
イネムショ サキンナッテ
ヨロズノムショウ オクンジョ
ナームショウ オクド
イイタッムシ サッキンタッテ
ヨロズノムシ オークンド
と何回も唱えて歩いた。苞(つと)の中のものは、子どもたちで分けた所もあった。
イナムシとは、稲に寄生する葉虫や芯(しん)虫のことで、虫送りは全国的に分布する稲作儀礼である。
戦後の農業技術の改善により、農薬散布などの防除技術の向上に伴い、昭和三〇年代後半より、殆んど行なわれなくなった。