とよはし、豊橋。ことばの持つ妖しい魔力のなせる業か、その響きは何かしら胸の琴線に触れます。人それぞれが抱く故郷への愛着のゆえに、ほんの一片のことばで誘発されるのでしょうが、ただそれだけで終わってしまうのでは寂しい気がします。一歩すすめて郷土を見つめ、郷土を深く理解し、郷土発展に寄与する一員であって欲しいものです。
私たちの郷土豊橋は、それぞれの時代相を映しながらその表情も変化に富んでいます。交通の要所として賑わった古代・中世、吉田をめぐり激しい争奪戦を繰り広げた戦国末期、城下町として宿場町として繁栄した近世、蚕都・軍都として名乗りをあげた近代、そして廃墟から立ち上がった戦後を通し、豊橋の歩みも国の歩みと無縁ではありませんでした。この先人の歩んだ道すじを辿ることにより、現代のわが国が、また豊橋が抱えている問題を読み取り、あすを生きぬく指針とすることができます。
市制施行九十周年にあたり、より多くの方々が郷土の歴史に学び、自らを確かめるためにも本書の刊行は時宜を得た企画であります。私たちは、この意義ある事業の一端に携わることを光栄に思うと同時に、その責任の重さに身が引き締まります。全委員が集まり、本書刊行の趣旨に基づく編集の基本方針を次のように確認いたしました。
一 「豊橋市史」「豊橋市政八十年史」を中心に内容を精選し、四〇〇ページ程度の通史としてまとめる。
二 一般市民が気軽に読めるよう、平易な叙述に努める。
市史の総復習の後、プロット作成にかかりましたが難問の連続でした。膨大な市史の要約にあたり、精選の過程でやむを得ず省かねばならない事項の多かったこと、歴史の流れを分断せざるを得ない局面の扱いに窮したことなど、問題は山積いたしました。ともかく分担分野の執筆にかかり、編集会議を繰り返しながら可能な限り時代相を浮き彫りにし、かつ、先人の生きざまを描き出し、豊橋の歩みの大すじを読み取っていただけるよう心がけました。また、目標に少しでも近づけるため「みる」という要素も加えました。
四年の歳月を費やしたものの、私たちの力量にも限界があり、市民の皆様のご高覧に耐える書にし得たか否かに不安が残ります。しかし、本書を手がかりに皆様方が郷土により深い関心を持たれるならば、私たち一同心からの喜びとするものであります。
刊行にあたり、折々の編集会議や原稿推敲に、適切なご助言・ご指導をいただきました久曽神昇先生、近藤正典先生、秦基先生、ならびに編集事務局、資料提供等ご協力を賜りました関係各位に対し、厚く御礼申し上げる次第であります。
平成八年三月 執筆委員一同
監修 愛知大学名誉教授 豊橋市史編集委員 久曽神昇
顧問 豊橋遺跡調査会 常務理事 近藤正典
豊橋市二川宿本陣資料館 館長 秦基
「とよはしの歴史」
執筆委員 岡田久嗣 白井正康
中神正篤 中島健治
芳賀豊 平松洋介
山田静人
編集事務局 (豊橋市美術博物館) 兵東政夫 後藤清司
増山真一郎 (故)伴角治
及部好甫