(あぶみ)
【美術・工芸】
鐙は馬道具の一つで、鞍の居木から力革により馬体の左右に吊り下げられ、騎乗者が乗り降りするときに足を掛けるため、あるいは騎乗者が馬上で姿勢の安定をはかるために使われる。古くは輪鐙や壺鐙のような足先を掛けるだけのものから始まり、平安時代末から中世初頭には、踵を含む足の裏全体を受けて支える、舌長鐙が登場したとされる。乗り降りなどの時に瞬間的に強い力が加わることから、鋳造ではなく鉄の鍛造で作られ、多くは漆塗りや銀・真鍮等の象嵌装飾が施される。象嵌鐙を作る鐙師としては、まず加賀象嵌の名の下に制作される「加賀象嵌鐙」があげられよう。近在では、隣国尾張の「知多掛」あるいは「大野鐙」と称される象嵌鐙が知られる。いずれも器体のどこかに鐙師や象嵌師の銘をいれることによってその本貫を示しているのが通例である。豊田市内で知られる象嵌鐙としては、徳川家康の父松平広忠(1526~49)による寄進と伝えられる、隣松寺銀象嵌鐙(室町時代、写真)があげられる。
『新修豊田市史』関係箇所:21巻405ページ
→ 隣松寺銀象嵌鐙