移送の経済

 

(いそうのけいざい)

【現代】

自動車メーカーとサプライヤー間の取引に代表されるような企業間の近接性から生じる利益もしくはコストの節約。移送の経済とは、取引を行う際に距離的に遠い相手と行うよりも近い相手と行う方が、それに要するコストや時間の節約になるということであり、集積の経済・利益の一つとされている。自動車工業の産業上の特性として、1台の自動車を生産するためには、2万点から3万点の部品が必要となる。こうした部品の生産は、タイヤやシート、ガラスなど主要な品目ごとに専門のサプライヤーが担っており、企業間分業により生産の効率化が図られてきた。この分業構造には、自動車メーカーから直接発注を受ける1次サプライヤーのみならず、2次、3次といった多くのサプライヤーも含まれ、サプライヤーの数は膨大なものとなる。日本の自動車工業においては、サプライヤーから自動車メーカーへの部品輸送はサプライヤー側が担ってきた。部品の輸送には、輸送コストすなわち費用を負担する必要があるが、輸送コストは輸送距離が短ければ小さくなり、長くなれば増加する。経済的な合理性の観点からみれば、サプライヤーは輸送コストを節約することを希求するであろう。そうすると、サプライヤーは可能な限り、自動車工場への近接立地を指向することになる。

『新修豊田市史』関係箇所:5巻302ページ