(いなはしぎんこう)
【近代】
明治33(1900)年11月2日に北設楽郡稲橋村に設立された銀行。市域に本店を置く初の銀行である。設立当時、頭取は古橋義真、資本金10万円(うち払込資本2.5万円)で、7万円が普通部、3万円が貯蓄部であった。店舗拡張にも乗り出し、明治36年2月に足助支店(写真)、42年に田口派出所をそれぞれ開設する。もっとも、貸付業務は十分な発展をみず、また払込資本の50%が古橋一族での出資であった。つまり稲橋銀行の実態は、古橋家所有による山村貯蓄奨励の零細銀行だったのである。その後大正10(1921)年の貯蓄銀行法公布によって貯蓄銀行への経営規制が大幅に強化されると、稲橋銀行は貯蓄部を廃止する一方で、資本金の30万円への増資と北設楽銀行諸支店・派出所の買収も実行したが、結局頭取の古橋道紀は他行との合併実現に尽力するようになった。合併相手には岡崎銀行が選ばれ、昭和2(1927)年6月1日付で、実現された。株式交換比率は岡崎銀行10に対して稲橋銀行7。岡崎銀行が存続会社となり、稲橋銀行は消滅した。旧足助支店の建物は昭和59年に県指定文化財となり、現在は足助中馬館として保存・公開されている。
『新修豊田市史』関係箇所:4巻272・567ページ