雲版

 

(うんばん)

【古代・中世】

寺院で食堂の前などにかけられ、食事や座禅などの相図のために打ち鳴らす、銅や鉄で鋳造された板。主に禅宗寺院で用いられるが、浄土諸宗や日蓮宗などの鎌倉新仏教の寺院でもみられる。外形が雲形に作られることから、この名称がある。中世までの年代をもち市域に関わるものとして4点が知られている。時代順に並べると、現在は長野県の瑞応寺所蔵の雲版には、応永30(1423)年11月の日付で足助宮平の光勝庵への奉納が陰刻されている。次に、寛正5(1464)年に足助の阿摺にあったとされる用泉寺に奉納された雲版は、現在は寺とともに失われているが、江戸時代末期に鋳造された雲版にその古銘が陰刻された。それが千鳥寺(千鳥町)に伝わる。3つ目の、長享2(1488)年に岡崎市の西矢作にある普門寺に奉納された雲版は、現在は長興寺(長興寺)にある。その経緯は不明である。最後に、永正3(1506)年に岡崎市の金剛寺に奉納された雲版は、三河一向一揆の際に徳川家康が背負って敵の矢を防ぎながら隣松寺(幸町)に入ったものといわれ、現在も隣松寺に残る。こうした銘文は、地域の歴史を探る重要資料である。

『新修豊田市史』関係箇所:2巻650・654ページ、21巻358ページ

→ 永福寺雲版瑞応寺(長野県松川町)雲版長興寺雲版隣松寺雲版