クモ

 

(クモ)

【自然】

日本産クモ類は1600種以上知られているが、その約半数は網を張る造網性である。科が違うと網の形状も異なる。コガネグモ科(写真上:カラフトオニグモ)やアシナガグモ科は水平や垂直の円網を張る。つまり枠糸の中には、放射状の糸(縦糸)と螺旋状の糸(横糸)からなる。粘性は横糸のみあり、獲物がそれに触れると身動きできなくなる。ヒメグモ科オオヒメグモは立体形の不規則網だが、その大部分は粘性がなく、地面に伸びる数本の糸の先端付近のみ粘球が付いている。サラグモ科は形がお皿のような網が多い。タナグモ科は漏斗に似た網などさまざまな網が存在する。ジグモは数10cmの棒のような住居をつくる。その半分ほどが地中部にあり、普段は底部に潜んでいる。地上部に獲物が触れると感知し、直接獲物めがけて牙で捕らえて引きずり込む。キノボリトタテグモの住居は約3cmの袋状で、入り口に円形の扉をつくる。普段は扉の近くに身構えて、近くに来た獲物を電光石火の早業で捕らえる。このように、ジグモやトタテグモ類の住居は、網の役目もしている。網は張らないが、徘徊性のクモも常に糸疣から糸を繰り出している。その証拠に、いない筈の部屋の隅や天井等に糸だけが絡んでいる、そんな経験をされた方もいるだろう。ササグモ科、シボグモ科、キシダグモ科、コモリグモ科、ウラシマグモ科、ワシグモ科等はすべて徘徊性である。中でもハエトリグモ(写真下:アオオビハエトリ)は種類がもっとも多く、国内では100種以上が知られている。眼は8眼で、中央の2眼が車のヘッドライトの様に大きいのが特徴で、視覚に優れている。よく地上や草木等を飛び跳ねて、獲物を見つけるとジャンプして捕らえる。カニグモ科、アシダカグモ科、アワセグモ科等も徘徊性だが、あまり歩きまわらず待ち伏せ型を得意とするクモである。草花や樹皮の隙間等で、獲物が近づくのを辛抱強く待ち続ける。目前まで獲物が近づいたら一瞬に捕らえる。


市域のクモ類 三国山(1162.1m)・面ノ木園地天狗棚(1240m)・寧比曽岳(1120.7m)など標高1000m級の峰が連なる市域東部の山間地では、特に面の木原生林において県下初記録となるサラグモ科のコウシサラグモとウエムラグモ科のミヤマタンボグモが発見されている。また同じくサラグモ科のキヌキリグモ、キノボリキヌキリグモ、アズミヤセサラグモの生息地は、北設楽郡設楽町裏谷原生林に限定されている。また、市域北部の大野瀬町は長野県と接し、主に中部地方以北に分布する北方系要素の強いササグモ科のコウライササグモとツチフクログモ科のミヤマシボグモモドキが生息する。さらに市内には、焙烙山(683.6m)・猿投山(629.0m)などの独立峰も多く、コガネグモ科やサラグモ科等多くの科が確認されている。中でも、六所山(611m)ではサラグモ科のロクショヤミサラグモとオガタニッポンケシグモ、タナグモ科のミカワヤチグモの新種が発見されている。同じくフクログモ科のチクニフクログモは県下初記録である。市街地周辺の丘陵地や鎮守の森にはシイ、カシ、アベマキなど自生し、その暖帯林にも多くのヒメグモ科やコガネグモ科等が生息する。長野県を源とする矢作川と、その多くの支流の河川敷には特異なクモも生息する。中でも旭地区池島町の矢作川河川敷にはハエトリグモ科のカワラコゲチャハエトリが生息する。県下でもここだけである。市域西部には池沼や湿地が点在し、南部には広大な農地が広がり、草地・湿潤地・水田を好むアシナガグモ科、コモリグモ科、キシダグモ科等が生息する。市街地の公園や雑木林にもカニグモ科やエビグモ科等が豊富である。このように市域は広く、その環境は変化に富み、県下で最も多くのクモが生息する。愛知県で確認されたクモ類は平成28(2016)年現在51科583種である。このうち市域では47科486種が確認されている。これは科では県の92.16%、種では県の83.36%に相当する。

『新修豊田市史』関係箇所:23巻424ページ