(しきざくら)
【自然】
小原地区は「四季桜の里」として、多くの観光客を迎える。四季桜は、同地区にとっては歌舞伎、和紙とともに旧村時代以来の文化観光資源として貴重な財産になっている。伝承によると、江戸期文政年間(1818~30)初め頃に、小原北町で医業を営んでいた藤本玄碩が名古屋方面から苗木を取り寄せて植えたのが始まりとされる。その後、秋と春の2期に開花する桜として珍重され、徐々に広まっていったようであるが、藤本医師が植えたと伝えられる原木は現存しない。明治37(1904)年日露戦争が始まる。小原村からも多数の出征兵士が従軍した。前洞地区在住の二村朝助氏もその一人であった。氏は兵役を終え無事復員し、従軍記念にと一本の四季桜を植えた。この木は、昭和59(1984)年11月28日、愛知県指定天然記念物となり、現在では110数年を超える古木になっている。小原村では昭和53年に四季桜を「地区の木」に指定し、以後繁殖と普及に力を注いでいくが、その際原木のひとつとなったのが「前洞の四季桜」であり、その由縁が県指定の重要な要件になったといってよい。文政年間植栽の苗木を「近世原木」とすれば、前洞の四季桜は「近代原木」として育てられたストーリーを描けるのではないか。植物学的には四季桜は、マメザクラとエドヒガンの交配で生まれた種間雑種である。開花期は秋と春の2期だが、夏に成熟した花芽は秋に咲き、花数も多い。小ぶりの花芽は通常の桜と同様冬に成熟し春に咲くが、葉芽も同時に開き、花数も少ないので秋ほどには目立たないという特性を持つ。秋期の開花時には紅葉とのコントラストが見事で、特に11月中旬頃の「川見せんみ四季桜の里」の風景は特筆に値する。
『新修豊田市史』関係箇所:23巻324ページ