湿地の植物

 

(しっちのしょくぶつ)

【自然】

湿地(wetland)は、地下水位が高く、場所により湛水地もある過湿な環境である。この条件下では、土壌中の酸素が欠乏するほか、土壌が還元状態になり植物にとって有害な物質も蓄積されやすい。したがって、湿地は多くの植物にとって進出しづらい立地となる。一般に湿地植物と呼ばれているものは、このような環境に耐性をもつような生理機構を備える。市域には、河川・ダム湖・水田・溜池・用水路など多様なタイプの湿地がみられるが、保全上の重要性から泥炭湿地や湧水湿地に着目すると、それらは貧栄養な環境であり、植物にとってはさらにマイナスの条件が重なる。湿地植物が敢えてそのような場所に進出した理由は、おしなべて競合相手が少なく、レフュージア(避難場所)として機能する環境条件を有するからである。市域の湧水湿地にしばしばミカワバイケイソウ・イワショウブなどの氷期の遺存種(生き残り)が確認されることも、この理由から説明される。また、シデコブシ・シラタマホシクサなどの固有性の高い湿地植物種群が、東海地方にあることも同様の理由と考えられる。つまり、湧水湿地が数多くある地域環境の中で、競合を避け有利に命脈を保つ方向で進化したためである。泥炭湿地や湧水湿地に生育する植物は概して小型である。これは、貧栄養な環境の中、わずかな栄養資源で生活を可能にするためである。極端な例では、ヒメミミカキグサのように、数mmの高さしかないものもある。また、湿地に多いモウセンゴケ類・ミミカキグサ類のような食虫植物は、不足する窒素分を昆虫から補うよう進化したものである。また、湿地は水流やそれに伴う土砂移動などによる攪乱が多い。湿地植物に一生のサイクルが短い草本種が多い背景には、こうした環境がある。木本種でも、シデコブシのようにシュート(地下茎)による繁殖を旺盛に行うことで、攪乱への対応をしているものもある。

『新修豊田市史』関係箇所:23巻336・346ページ

→ シデコブシ東海丘陵湧水湿地群湧水湿地