猩々

 

(しょうじょう)

【民俗】〈祭礼・芸能〉

豊田市南部の高岡町と中根町の氏神の祭礼に登場する大人形。猩々は猿に似た想像上の怪物で、人の言葉を理解し、酒を好むとされ、能の「猩々」では親孝行者の前に現れ、汲めども尽きない酒壺を与える。祭礼に登場する猩々は竹籠で作られた張りぼての人形で、顔は赤く髪の毛は茶色、綿入れの衣装を着用する。頭から膝辺りまで被ると、高さは2mを超える。造り物の祭礼風流として、名古屋市緑区鳴海を中心とする地域に一つの分布圏が形成されており、市域でも、その影響を受けて祭りに取り入れられたものと考えられる。現在では猩々に特化されているが、かつては七福神やオカメなどの大人形を持つところもあったという。鳴海では、宝暦5(1755)年の尾張藩による祭礼調査報告『尾陽村々祭礼集』に「猩々衣装不定」と記されているので、猩々は江戸時代中期頃までには祭礼の中に出現していたと思われる。大人形は江戸時代には名古屋城下の祭礼でもみることができた。中根町には猩々の登場の時期について、寛文云々という話も伝わるが、この地の祭礼に猩々が採用されたのはずっと後のことになるだろう。また、祭りに猩々を出したいと思っていた酒屋の山本勘右衛門が、当所を訪れた領主をもてなした際、猩々に着せる着物を拝領することになったという話も伝えられている。もちろん真偽の程は定かでなく、酒からの連想で猩々が登場し、由緒の話にまで発展したものと考えられる。高岡町(神明宮)では4月第2日曜、中根町(神明宮)は10月最終日曜日、それぞれの氏神の大祭で猩々が活躍する。鳴海の祭礼と同じように子どもを追いかけ、その猩々に触れると無病息災だといわれる。中根町の猩々には、目と舌が動くからくり仕掛けが内蔵されており、さらに人形の数を増やすため、名古屋市南区笠寺の業者に人形製作を依頼している。〈祭礼・芸能〉


『新修豊田市史』関係箇所:17巻365ページ